紙
水車の事件の後、事業に関わった者たちは怒りを覚え、村人に対して聞き込み調査を行った。しかし、結局のところ犯人は特定されず、真相は闇に包まれたままだった。
神官派とインカ派の対立はさらに深まり、村には重苦しい沈黙が漂い、殺伐とした空気が日々を支配していた。人々は争いを避けるようになり、家ごとに石臼の音だけが響いていた。
一方、神殿の広場では、儀式に参加する人々の数が増していた。その多くは高齢者であり、新しい価値観に反発する者たちであった。彼らは、私が自らを「太陽に選ばれし者」と称したことに強い反感を抱いていた。
私は従者たちに鉄の生産量を増やすよう指示を出した。来るべき争いに備え、武器の製造が必要だった。私は石板に武器の設計図を描きながら、自分だけがこの時代に取り残されたような孤独感に包まれていた。
そもそも、私の行動は人々の望むものなのか?
もし歴史が人々の意思の総体だとするならば、私の改革は、ただの独りよがりに過ぎないのかもしれない。
答えのない問いを抱えたまま、私は思考の深みに落ちていった。
数週間後、水車の修理が完了し、再び水車は回り始めた。しかし、村人たちがトウモロコシを持ち込まない限り、その動力はただ石を打つ音を虚しく村に響かせるだけだった。
だが、私はそのエネルギーを無駄にはできなかった。なぜなら、スペイン人たちが襲来することを知っているのは私だけだったからだ。改革を止めるわけにはいかなかった。
私はルミ・ウルマたちに、ワタ(綿花)の樹皮を集めるように命じた。ナスカではワタが広く栽培されており、その枝葉や樹皮は道具や肥料に再利用されていた。私は、その素材を使って紙を作る方法を彼らに教えた。もちろん、彼らは「紙」とは何かを全く理解していなかった。
ワタの樹皮は、まず石灰水に二週間ほど浸され、数日間流水で洗浄された後、天日干しで漂白された。さらに石灰水で煮沸し、不要な成分が取り除かれた。
やわらかくなった繊維は、水車のハンマーによって絶えず打ち砕かれ、細かく分解されていく。そのパルプ状の繊維を水で薄く広げ、乾燥させることで、やがて陽光を透かす一枚の紙が生まれた。
従者たちは私の行動をまるで魔術でも見るかのように見つめていた。だが、誰一人として紙がもたらす本当の力に気づいてはいなかった。
私はアンデスで初めて作られたその紙に、次のように書き記した。もちろん、文字を理解する者は私しかいない。
「Kill the musket !」
次いで私は、ナスカの村の地図を描き、必要な道具や部品の設計図を書き記していった。
その紙を手にした従者たちは、ようやくその利便性に気づいた。石板と比べて紙は軽く、手にして運ぶにも苦はない。しかも、図や文字が鮮やかに再現される。情報伝達の効率は格段に向上した。
人々が使える文字は今のところアラビア数字に限られていたが、ルミ・ウルマのような優れた者たちならば、アルファベットもすぐに習得できるはずだった。
この改革で最も重要なのは、私が持つ知識である。その知識を、どう効率的に伝播させるかが鍵だった。
「この紙の持つ意味が分かるか?」
私はルミ・ウルマに尋ねた。彼は明晰な思考で即座に答えた。
「これは……科学そのものですね。記録して残し、そこから事実を導く……」
その瞬間、私は確信した。今までの改革は決して無駄ではなかった。新しい価値観を受け入れる者がいる限り、世界は必ず変わるのだ。
だが、ウィラヤは私に警告した。
「もはや、神官に味方する村人たちの勢いははちきれんばかりでございます。あなたが成すことは神のごとく、私たちには計り知ることができません……」
村長の顔にも不安の色が浮かんでいた。彼は村人と我々の間で板挟みになりながらも、依然として私に好意的だった。
「村人たちは、理解できるものを求め、ヤチャチク神官の教えに耳を傾けています。彼らは、あなた方を吊し上げようとしています。もうすぐ、あなたが日食を予言した日が来ます。もし外れたなら……いえ、当たっていたとしても……」
紙の出現により、図や数字はこれまで以上に多用されるようになった。それによって、新しい知識を受け入れる者と信仰にすがる者との分断は、ますます深まっていった。
だが、それは避けがたい流れだった。かつて甲冑に身を包んだ騎士たちが剣を振るった時代も、銃火器の登場で終焉を迎えたように。
「日食は必ず起こる。私を信じてほしい。そのとき、全てが明らかになるはずだ」
その夜、私は従者やルミ・ウルマたちに、アルファベットと絵を組み合わせた学習表を配布した。近代において幼児が文字を覚えるために使う教材と同じ構成だった。
「これを三日で覚えるのだ。読み方と書き方は表にまとめてある。それを手がかりに、いざという時にこちらに与するであろう村人たちを一覧にするのだ」
従者たちは一瞬たじろいだが、すぐに作業に取り掛かった。日食の時が迫り、彼らの間にも緊張感が漂っていた。その間、私は武器の製造を進めていった。
設計図の中には、かつてスペインのコンキスタドールたちが使った武器も含まれていた。彼らは鉄の剣で仲間の腕や脚を切断し、タワンティンスーユを血の海に染めたのだ。
仲間の血を浴びたあの剣の記憶が、身の内からよみがえるたびに、私は深い戦慄を覚えた。やがてその刃が、同胞に向けられるのだろうか……。
三日も経たずして側近たちはアルファベットを習得し、村人たちの簡易的な戸籍を作り、村の勢力図を明らかにすることができた。




