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露天掘り

 私たちはナスカの村を出発し、南へと向かった。砂の向こうには広大な空が広がり、遠くからはかすかに海の香りが漂っていた。朝の乾いた地面には夜の冷たさが残り、頬を撫でる心地よい風を感じながら、私たちは静かに歩を進めていった。


 私たちの一団は、従者たちに加え、村の女たちや子どもたちも含めて二十数名ほどの小さな集団となっていた。十数頭のリャマがそれに従っていたが、企業カンパニャを興すには、あまりにも心もとない数だった。


 私の目の前を、一人の若い女が歩いていた。年は若いが、頬には早くも小さな皺が刻まれている。彼女は時折目線を動かし、前を行儀よく歩く少年の姿を見守っていた。二人が親子であることは、誰の目にも明らかだった。


 砂漠の中で、私たちはあまりにも小さな存在だった。広大な大地にぽつんと取り残されたような感覚が、胸に押し寄せてくる。そのとき、先頭にいた男が私に声をかけた。


「南へ向かうには、この道を辿るのがよいでしょう。この道は砂漠を横切り、やがて海へと至ります。かつて多くの先祖たちが、この道を通ったのです」


 黒ずんだ大地の上に、一本の白い線がまっすぐに伸びていた。それは、間違いなく地上絵の一部だった。この周辺では、地表の石が酸化して黒ずむ。それを取り除くことで、ナスカの人々は大地に絵を描いたのだ。


 コンドルだった時の記憶が、ふと脳裏をよぎる。私は、ナスカの大地を見下ろし、さまざまな地上絵を目にしていた。地上絵は、道であり、神への祈りでもあった。しかし今では、人々はその存在すら忘れ、道さえも放棄していた。


 古の道を歩くたび、私は空に向かって絵を描いた人々に思いを馳せた。飛行機が発明されるのは数百年も先のことであり、それまで誰ひとりとして地上絵を目にすることはない。私だけが、それを知っていた。前を行く人々は何も知らず、ただ地平線の向こうを見つめている。私は、不意に体の奥から力が湧き上がるのを感じた。


 砂に眩しい陽光が降り注ぐ頃、私たちはついにマルコナの地へ到着した。


 周囲と何の違いもない、ただの砂と岩に覆われた何もない場所であった。だが私は、過去に見た記憶から、ここに豊かな鉱脈が眠っていることを確信していた。


「ここだ」と私は言って立ち止まった。人々は疑いのまなざしで周囲を見回した。そこには特別なものなど何もなかった。


「主君……ここが約束の地なのですか」と、年長の従者が恐る恐る尋ねた。


 私は微笑み、地面に膝をついて手のひらで大地を撫でた。「そうだ。鉄は、この下に眠っている」


 人々は顔を見合わせた。私に何が見えているのか、誰も理解できないようだった。中には、私に騙されたのではないかと疑う者もいた。


 私は命じて、従者たちに荷物から木の鋤やスコップを取り出させた。


 作業が始まった。人々は、黙々と地面を掘り続けた。この地は、分厚い砂に覆われていた。原始的な露天掘りでは作業は容易には進まない。砂は掘れば崩れ、掻き出せばまた流れ込んでくる。足を取られ、膝まで沈みそうになりながらも、人々は懸命に鍬を振るい、スコップを動かしていた。


 彼らは相変わらず半信半疑であった。砂の下に黄金より価値あるものが眠るとは誰も想像だにしなかった。


 私もまた、従者に半ば制止されながらも、鋤を手に取り、地面に踏み込んだ。足元に力を込めると、鋤がぐっと砂を割り沈み込む。その感触が柄を伝って手から腕へ、全身に染み渡った。


 その瞬間、私は確かに感じた。

 タワンティンスーユの運命が、ここで変わろうとしている。鉄が、長き眠りを破り、地上へと姿を現しつつあった。今まさに、語られなかった歴史が、その最初の行を刻もうとしていた。


 太陽が天頂を越え、砂の照り返しがじりじりと肌を焼き始めたころ、変化が現れた。掘り返された地面の底から、赤みを帯びた砂が顔を覗かせたのだ。


 私は一歩踏み寄り、膝をついて砂を掘り起こし、小さな石を手に取った。淡いオレンジ色が太陽の光を受け、鈍く輝いている。それは、間違いなかった。鉄の酸化鉱物、赤鉄鉱ヘマタイト。地球上でもっともありふれた鉄の一形態でありながら、歴史の流れを変えうる鉱石だった。


 私の目には、それがあまりに鮮やかに映った。炎のようであり、血のようでもあり、まさしく新たな命の色だった。私は感動のあまり、声を張り上げた。


「これだ!これこそが鉄だ!これこそが未来だ!」


 人々は私の行動に驚き、怪訝な目を向けた。赤鉄鉱は彼らの思い描く金属とはかけ離れていた。光沢もなく、実際の色はくすんだ赤茶けた土にすぎなかった。彼らは私が何について喜んでいるのか必死に理解しているようだった。


 一人の従者の男が腰を伸ばしてスコップを立てかけると、ぼそりと呟いた。


「これが……鉄なのですね?これがあなたのいう黄金より価値のあるもの……帝国を変える兵器……」


 周囲の者たちも、黙って赤い土を見つめていた。誰もが同じ疑問を抱いているのがわかった。誰もが鉄に黄金のような輝き、あるいは硬さや冷たさを期待していた。だが、彼らの目の前にあるのは、ただの赤茶けた土の塊に過ぎない。


 私は彼らの視線を静かに受け止めた。かつて、空を飛んでいた私は、この鉄の持つ意味を知っていた。だが今、地上にいる彼らには、それがただの土としか映らないのも、理解できた。


 「今はまだ、ただの塊にすぎない。だが、火にかければ……それは骨となり、刃となる。いくつもの文明がこの金属の前に敗れてきたことを私は知っている。タワンティンスーユですら……」


 その日のうちに、私たちは鉱石をいくつか袋に詰め、村への帰路についた。荷物を運ぶリャマたちの背には、赤い土の袋が載せられた。


 「これで、帝国を興すというのか……」

 誰かのつぶやきが、背中越しに風に乗って届いたが私は気にせず前を向いて歩く。


 次の日から、私はさっそく精錬の準備にとりかかった。有り合わせの材料で作ったふいご、日干しレンガや石を組んで作った簡素な炉、乾いた草と木材、そして足元に敷かれた炭のかけら。まるで祭壇のようなその設備に、女たちや子どもたちも興味深そうに近寄ったが、彼らにその意味は理解できなかった。


 村長のウィラヤも怪訝そうな目で私を見つめる。

「……これが本当に、価値のあるものなのか?」

 

 私は黙って火を灯し、ふいごを構えて風を送り込んだ。炉の底で火が唸りを上げ始めると、赤鉄鉱を慎重に投じ、静かに炉の前に座り込んだ。


 やがて、黒煙が立ちのぼり、鉱石の中に眠る鉄が、熱に反応し始める。純粋な鉄の液体がゆっくりと姿を現し始める。その瞬間を、私はただ待ち続けた。

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