コンドルの旅
大学での学びを終え、私は再び羽ばたいた。学びによって得た知見が視野を広げ、目に入ってくる光景が知識と結びつき、有機的な意味を持って私の頭に納められた。
遥か下に茶黄色の草原や緑色の森林が広がり、褐色の山々が周りを囲む。白い雪が頂上を覆い、陽光にきらめく姿は息をのむほどの美しさだった。切り取られたアンデスの断崖絶壁を私は飛んだ。翼を広げれば、風は私を優しく包み込み、空気の流れに身を任せた。
世界は限りなく広大で、複雑な物語に満ちていた。私はアンデスの雄大な大地を後にし、青く果てしない大西洋を渡った。旅の途中、深遠な海の青と風の移ろいが、私の内なる世界に新たな視点をもたらしてくれた。
私は初めてイベリア半島に降り立った。かつてのコンキスタドールたちの血気盛んな姿は、複雑な歴史と多様な文化を背負った現代人へと変貌していた。街角のカフェテリアでは、スマートフォンを手に会話を交わす若者たちが行き交い、伝統と革新が交錯する都市の風景が、歴史の継続と変容を雄弁に物語っていた。
旅は、過去の記憶と和解する果てしない遍歴へと続いていた。私の胸の奥には、拭い去ることのできない後悔と贖罪への想いが静かに燃えていた。
ある旅の途上、私はユダヤ人の悲劇的な歴史に深く向き合うことになった。ポーランドのアウシュビッツ強制収容所は、人類の最も暗い瞬間を静かに証言していた。600万人もの人々が、単なる人種的偏見と残忍な暴力によって命を奪われたのだ。彼らは歴史を通じて迫害され、スペインでも差別の対象となってきた民族だった。
コンベルソと呼ばれる改宗ユダヤ人の多くは、迫害を逃れて南アメリカへ渡った。しかし、彼らが受けた暴力の連鎖は、今度はタワンティンスーユの人々への抑圧と暴力へと姿を変えていった。
人間の歴史において、暴力は果てしなく続く連鎖のようだった。私は最初の人間にまで思いを馳せる。「我々は本能的に破壊を望む存在なのだろうか」と。
かつての自分を思い起こす。私もまた、他民族や異なる王家の人々を容赦なく弾圧し、虐殺した。その行為は最終的にタワンティンスーユの分裂を招き、スペイン人たちに付け込む隙を与えることとなった。
歴史は常に一つの帰結しか生み出さないのだろうか。私たちの運命は、最初から決定されていたのだろうか。敗北は避けられない宿命だったのだろうか。
いつの間にか、私は地球を何周もしていた。アンデスの空に、懐かしい乾季の冷たい風が吹いていた。風に乗って、ケーナの優しい音色が耳に届く。悲しみを帯びた空に浸透し、古の記憶を呼び覚ます。
演奏者の顔は見えなかった。技巧は未熟でも、その音色には魂の叫びが宿っていた。私は心の中で歌詞を読み上げる。
コンドルは飛ぶ、飛ぶ。
広大な高原の光と影を。
インディアン民族の血。
インカは裏切られた。
ケーナが泣いている。
パチャママは死ぬことを教えた。
自由のために。
朝日が昇り、辺りに立ち込めていた霧を壮大に照らす。アンデスの山々は朝焼けに赤く染まり、大地は目覚めの時を迎えていた。数百年前まで、太陽はインティと呼ばれ、神として崇められていた。今や太陽は地球から1億キロメートル離れた場所にある恒星に過ぎなかった。
高度を下げ、クスコの町の屋根に降り立った。かつての帝国の中心地も、時の流れと共に姿を変えていた。今や現代風のアーチ構造を持ったヨーロッパ風の建物が町中に並んでいた。昔、タワンティンスーユの人々が精緻に積み上げた石の上に新しい建物が築かれていた。
周囲を見渡し、音の主を探した。観光客でにぎわうアルマス広場を過ぎ、旧市街の狭い道に屋台が数軒ほど立ち並んでいた。鮮やかな色の民芸品や、アルパカの毛で編まれた帽子や手袋が並ぶ中、一人の少年が縁石に腰を掛け、ケーナを演奏していた。
音程は不安定で、リズムも整っていなかった。それでも、褐色の肌に黒い大きな目をした少年は練習を続けた。擦り切れたポンチョを身にまとい、足元には古びた靴を履いていた。彼は四人兄弟の三男で、苦しい家計を支える必要があったのである。
彼の褐色の肌はタワンティンスーユの血を受け継いでいる証だった。高い頬骨と黒い瞳に、祖先の面影を見ることができる。彼の血には植民地支配の複雑な歴史が刻み込まれており、混血の物語が静かに息づいていた。
少年の無垢な瞳の奥には、異なる文明の交錯が静かに流れていた。それでも彼の心にはタワンティンスーユの人々の魂が宿り、ケーナの音色と共に生き続けていた。
その時、一人の観光客が屋根に停まる私のことを見た。彼はアメリカ人の白人で、首から一眼レフをかけていた。物珍しそうな表情をする彼の目に、私は一羽のコンドルとして映った。
彼の祖先たちもスペイン人たちと同様、北アメリカで先住民たちを殺戮し、アフリカから連れてきた黒人奴隷たちに強制労働をさせた。彼が高そうなカメラを持ち、優雅にバカンスを楽しめるのもそのためであった。
私の目は青い空を見つめていた。怒りや悲しみはすでに昇華し、より深い理解へと変わっていた。今やあらゆる知識が私の中にあった。しかし、一つだけ分からないことがあった。
「なぜ、私は生きているのだろうか。人間ですらなく、コンドルに変わり果て。なぜ、生き続けなければいけない。パチャカマが私に何を示そうとしているのだろうか……」
古の自然崇拝は常に私の中にあった。科学を知り、宗教の形而上的な限界を理解した今でも、その精神は変わらなかった。神々を完全に捨て去ることはできない。むしろ、私は彼らとの対話を、この旅を通じて続けているのだと感じていた。
私の視線は、まだ街路を往く人々の中に留まっていた。突然、見覚えのある、かつての記憶が蘇る。遠い日の面影を持つ人影が、私の魂を揺さぶった。
「ワスカル?」




