身代金の部屋
翌日、私はスペイン人たちとの交渉に臨むこととなった。ピサロたちはすでに私の陣営から金銀や宝石を略奪していた。黄金の輿から金の板を剥がし、食器や壺、甕まで奪い去った。彼らの異常なまでの執着は、彼らが神の使いではないことを証明していた。
昼頃になってスペイン人たち数人、牢の中に入ってきた。フランシスコ・ピサロの他に記録係のペドロ・ピサロやビセンテ・デ・バルベルデ神父、それから通訳のタランブールなどが従った。
交渉に先立ってバルベルデ神父が私に対し、改めてキリスト教に改宗するように勧めた。彼はいつものように黒いカソックに身を包んでいた。その服装は彼がドミニコ会に所属する托鉢修道士であることを示していた。実際に、彼は清貧を是とする人間であり、黄金への執着は見せず、神への信仰を第一としていた。
「私はあなたと平和的な関係を築きたいのです。ですから、キリスト教を受け入れ、我らがカルロス王に忠誠を誓っていただきたい」
スペイン人たちはキリスト教の神とカルロス一世、二つの権威に忠誠を誓っていた。宗教改革の渦中にあった彼らにとって、信仰と王権は切り離せぬものだった。
「私は太陽神に仕える身であり、貴殿の言うことには従えない」
私はいまだにキリスト教やスペイン人というものを理解できずにいた。文化の違いは言語の違いよりも深かった。バルベルデ神父が退くと、ピサロが話しかけた。
「あなたが我々の王に忠誠を誓わぬのなら、あなたを生かしておくことはできない」
「しかし、私は貴殿らの王のことを知りもしない。どうして忠誠を誓えというのか」
私は、スペイン人たちが王である私の指揮権を必要としていることを理解していた。そのため、交渉には強気で臨むことができた。しかし、フランシスコ・ピサロは抜け目のない男だった。彼は、私が最も恐れていた提案を口にした。
「ならば、私はワスカルをここへ呼ばねばならない。どちらが王にふさわしいか、天秤にかける必要がある」
その言葉を聞いた瞬間、全身の血が凍りついた。彼はすでに内戦の情報を掴んでいた。
「ワスカルが王になったとしても、貴殿らに従うとは思えない」
「ならば、別の王を探すまでだ。我々は、友好的な王を求めている」
私は必死に考えたが、有効な手立ては浮かばなかった。結局、情けなく命乞いするほか道はなかった。信仰を曲げることはできない以上、差し出せるものは金銀しかなかった。
「ならば、私は貴殿らが求める金銀を差し出そう。だから、どうか私を殺さないでほしい」
「どれほどの量を用意できるのか?」
私は部屋を見回し、天井を仰いだ。そして、自分の頭上まで手を伸ばしながら言った。
「この部屋を、天井に届くほどの黄金で満たそう。さらに、その二倍の銀を贈ろうではないか」
通訳がそれを伝えた瞬間、スペイン人たちは互いに顔を見合わせ、満足げにうなずいた。書記はその内容を正確に記録した。しかし、後に知るところによれば、書記は金銀の量については細かく記述したが、私の身の安全についての保証を記すことはなかった。
それから、タワンティンスーユ全土に命令が下され、金銀がカハマルカへと集められ始めた。飛脚たちはインカ道を駆け巡り、各地から金銀を抱えた者たちが次々と到着した。
カハマルカの町には、なおも戦の傷跡が生々しく残っていた。戦から一週間が経ち、ようやく死体の片付けに目処がついた。数千人にも及ぶ犠牲者を埋葬するため、あちこちに共同墓地が掘られた。貴族や将軍も、身分の区別なく兵士たちと共に埋められた。
私はスペイン人たちに頼み、簡素な葬儀を執り行うことを許可させた。タワンティンスーユの伝統に則り、墓前に食物や酒を捧げ、人々は音楽に合わせて踊った。私は太陽神と大地の女神に、彼らの魂の安息を祈り捧げた。
深い悲しみがカハマルカ全体を包み、重苦しい空気が漂っていた。しかし、それでも太陽は変わらず昇り続け、私は少しずつ心の平穏を取り戻しつつあった。とはいえ、死の恐怖はなおも私にまとわりついていた。
ある日、フランシスコ・ピサロが部屋に入ってきたとき、私は意図的に涙を流して見せた。彼が理由を尋ねると、私はあらかじめ用意していた言葉を口にした。
「私の将軍が、私の知らぬうちにワスカルを殺してしまった。あなたは、ワスカルを殺すなと言った。私は、あなたがこのことを理由に私を処刑するのではないかと恐れているのだ」
もちろん、それは真っ赤な嘘だった。しかし、ピサロは納得した様子で、「あなたを殺すことはない」と約束した。
私は即座に、チャルクチマ将軍に密使を送った。彼は私が捕らえられた際、カハマルカにはいなかったが、その後スペイン人の捕虜となっていた。彼は側近のカリ・ワルパを遣わせ、私はその者にワスカルの抹殺を命じた。
数日後、ワスカルは川に投げ込まれ、命を落とした。その報告を受け、私は安堵した。これで私の王座は揺るぎないものとなった。私は一刻も早く、身代金の部屋が黄金で満たされることを望んだ。そうすれば、私は正式な王として、再び立つことができると信じていた。