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9、ソフト開発部

サンライズに入社した小百合はなんとか会社のためになるように頑張ろうとする。しかし何もできない小百合は焦りも感じる。そんななか、雄太との生活場面の中で一つのヒントが浮かぶ。

 翌日の火曜日から本格的な勤務が始まった。9時から勤務なので8時30分には会社に入り、5階のソフト開発部の部屋に入った。部員たちはまだ誰も来ていなかったので、小百合は5階の給湯室でお茶を入れる準備をしていた。ソフト開発部の部屋のポットに給湯室で沸かした熱いお湯を入れて、急須と茶碗も洗い直して部屋に戻った。

 部屋には横山と松川が来ていた。小百合が

「お茶を入れますね。」と言うとうれしそうな声で横山が

「有難うございます。男3人だったので朝のお茶なんてなかったんです。やっぱり女性が1人入ると部屋が潤いますね。」と上機嫌だった。小百合が急須からお茶を注いで2人に渡すとおいしそうに啜り始めた。その時、永田部長も出勤してきた。

「朝からみんなおいしそうなものを飲んで、くつろいでいるね。高宮さん、僕にもお茶いただけますか。」と部屋が和んでいることを喜んでいる。小百合は

「了解しました。すぐに入れます。」と言ってポットのお湯を急須に入れなおしてお茶を湯飲みに注いだ。3人はお茶を入れる小百合の後姿を見ながら目線は腰からおしりにかけての美しい曲線に目を奪われていた。今日の小百合はスーツではなくカジュアルにという事だったが、適当な服が見つからずひざ丈の赤いタイトなスカートに白い半袖ブラウスで胸元は割と空いているものを着て来てしまった。

そんな彼女をゆっくりと見ていた永田部長はゆっくりとお茶を飲みながら

「今日の予定だけど、高宮さんも来たことだからまずは我々の目指すドローンの姿について説明をして、さらにより良い方向性を目指すための部内会議にしよう。」と提案した。横山と松川も頷いて、高宮に早く自分たちのやっていることを理解してもらって、機能の充実に貢献してもらいたかった。

 4人はお茶を飲み終えると隣の小会議室に集まった。説明用のパワーポイント資料は重役会議での説明用に使ったものがあったので、自分たちが進めてきた方向性という事でドローンにAIを搭載し、映像を見ながら着陸地点を設定し、AIが利用者に直接電話をかけ、ピックアップに出て来てもらうように話すことなどを説明した。スクリーンを見ながら小百合は難しいこと言っているなと感じながら自分に何が出来るのか途方に暮れていた。

 すると経営戦略会議を終えた向坂社長がソフト開発室にいつものように入ってきた。

「社長、おはようございます。今、高宮さんにドローンのAIにプログラミングする新機能について説明していたところです。」と永田部長が向坂に話した。向坂社長は

「早速会議に参加してくれているんだね。部長も高宮さんを部員として頑張ってもらうために説明していたわけだね。でもあまり成果をあわてないでくださいね。高宮さんには我々と違う視点から、ドローンのことを詳しく知らない庶民的な感覚の発想を期待しているんだ。ドローン開発の内容を知ってしまうと、我々と変わらなくなってしまうかもしれないからね。」と言って部長に注意した。高宮小百合は褒められているのか貶されているのか理解できなかったが、とりあえずできることだけでもと思い

「私には出来る事は何もなさそうなので、お茶を入れたりお掃除をしたりと言ったところからやらせていただきます。」と言ってその場を和ませた。

 向坂社長は高宮の方を見ながら

「高宮さん、ドローンに何が出来るかって考えるんじゃなくて、君の生活の中で困っている事、面倒なことはないかい?」と聞きなおした。小百合はしばらく考えたが

「そう言われてもすぐには思い浮かばないわ。」と返答に困った。すると向坂は

「ドローン開発者はドローンの出来ることから使い方を考えようとするだろ。でも本当に必要なのは生活者の目線でこんな事ができると良いなという考えにドローンを近づけて行くことなんだ。アップルの製品がすごいのは誰も考えつかなかった電話とコンピュータとカメラを同一化させ、カメラ内臓のPCを持ち歩けるようにして人々の生活を一変させてしまったことなんだ。従来は放送局だけが発信していたニュースなどの報道を誰でも出来るようになって、各人が自らの考え方を世界中に発信できるようになっただろ。人間のライフスタイルを変革してしまったのさ。ドローンも何かと合体させたり、何らかの機能を搭載させることで、画期的な変化をもたらす事ができると考えているんだよ。」と熱を込めて話した。部員のみんなはいつものように社長から開発の視点を示されていたが、どことなく天才的な発明者の話で、自分たちには関係ないのかもと考えてしまうところがあった。しかし高宮小百合は『もしかしたら私にも出来ることがあるのかもしれない』と前向きに考えていた。

 向坂社長は高宮小百合をソフト開発部に配属したが、プログラマーとしてコンピュータを使わせるつもりはなかったので、高宮自身を含めた利用者のニーズを収集する市場調査係という部署をソフト開発部の中に作り、彼女を係長に指名した。問題は彼女の給与面である。副社長の井川と秘書の桂川の3人で経営戦略会議の議題として話し合っていた。

「高宮小百合の給与だけど、どんな水準にしますか。」と桂田秘書が言うと

「彼女はこれまで月収が50万を下らなかったんだから、その水準でないと子供の野球にも支障が出るかもしれませんよ。」と井川が心配しながら口を出した。しかし

「同じ開発部の中で他の社員と特別扱いだと他の社員のモチベーションにも影響が出るから一般の同じ年齢の社員と同等にしてあげてください。」と社長が決めた。すると桂川秘書が

「では35歳、一般職の平均で計算しておきます。だいたい35万円くらいだと思います。」と試算をしてくれた。向坂社長はちょっと少ないかなと感じたが、まだ何も出来ていないんだからそんなもんかとも考え、時々雄太の野球の試合を見に行ったときに、何か道具でもプレゼントすればいいかなと考えていた。


 市場調査係の小百合の仕事は一般庶民の生活の中で不満に感じるような所、改善ができそうなところをあげて、ドローンに出来ることにつなげていくことだった。会社の部屋に行って出来ることはほとんどなくて、お茶くみや掃除、整理整頓をしていただけだで、小百合は収入が減ったけど暮らし向きは楽になっていった。


 ある日、会社を早めに出て、小百合は雄太の帰る時間までに買い物に出た。大型ショッピングセンターの婦人服売り場で会社に着ていくようなカジュアルな洋服を探そうとしていたのだ。マハラジャに勤めていた時は赤いワンピースが主な制服で、ほかに持っているのも派手なドレスのような物が多かった。雄太の応援に行くときはほとんどスポーツタイプのジャージが多かったので、若者のカジュアルな服装の中に入っても浮かないような洋服がなかったのだ。ただいろいろ見ていても若すぎるような気がして、自分には合わないように思えて仕方なかった。その日は結局、ジーンズとポロシャツ2枚を買って終わってしまった。駐車場で車に乗ろうとしている時、携帯電話が鳴った。雄太からだった。

「どうしたの、野球の練習じゃないの?」と聞くと雄太が

「やばいんだ。アンダーシャツを忘れてしまった。練習開始まであと20分だけど、どうしよう?」と言うので小百合は家に帰ってタンスの中からアンダーシャツを取り出して練習会場まで持っていくと1時間はかかると考え、ショッピングセンターのスポーツ用品売り場でアンダーシャツを一枚買ってここからグランドに向かえば30分で行けるかもと考えた。そこで

「しばらく待ってなさい。すぐお母さんが持っていくから。」と言って売り場に戻っていった。野球用品売り場でアンダーシャツを買うとすぐに車を走らせてグランドへ向かった。到着すると練習は既に始まっていて、雄太はグランドの脇で着替えずに待っていた。小百合は雄太の所に走り寄り

「持って来たわよ。さあ、早く着替えて。」と言うと雄太はその場で素早く着替えて練習に合流した。小百合はそのまま練習の見学をして、練習終わりを待って雄太と一緒に車で帰宅した。

 見学しながら小百合は

「これってドローンを使えば間に合ったのかな。」と考えた。急ぎで物を届けなくてはいけないとき、電話を掛けるとドローンが来てくれて目的地を告げると運んでくれる。学校とかで子供がノートを忘れたとか教科書を忘れたとか、両親は会社に行っているので、おじいちゃんやおばあちゃんが届けさせられるという話もよく聞く。低所得者層の悩みではないかもしれないが、ビジネスになるかもしれない。そう考えた小百合は翌日ソフト開発部のみんなに話してみることにした。


 ソフト開発部の永田部長と横山と松川にいつものように朝のお茶を出すと、永田部長に

「少し、お話を聞いていただいていいですか。」と話しかけた。すると永田は

「何かいいアイデアが浮かびましたか?」と聞き返してくれた。小百合は

「大したことはないんですが、昨日、息子が忘れ物を届けてくれって電話をかけてきたんです。でも練習開始までには間に合わなかったんです。学校なんかでも子供が忘れ物をすることが多いですよね。ドローンを学校に備えてもらって忘れ物を届けたい親が、ドローンで家まで取りに来てもらったら便利かなって思ったんです。」と言うと横山が

「それ、良いかも知れませんね。学校に備える方がいいのか、ドローン会社に置いておいてそこから出動したほうがいいかは検討ですけど、今までお店の配送しか考えていませんでしたが、需要は他にもあるという事ですね。」と後押ししてくれた。永田部長が

「それでは企画書として書類にまとめていただけますか?」と指示しているところに向坂社長が顔を出した。

「何だい。高宮さん、もう企画書を作るのかい。良いアイデアだと良いね。」と言って彼女の企画書作成のコンピュータ作業の横で立って見守っていた。小百合は社長に見られながらコンピュータのキーボードをたどたどしい手つきで打ち込むことにややストレスを感じたが、少しは会社のためになれることを願っていた。



小百合のアイデアは採用されるのか。

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