正真正銘の外れスキル【外れ】。主人公の足を引っ張り、邪魔をして、弱体化に成功する。なお失敗すれば星が圧壊する模様。世界のために頑張れ♡
ふと思いついたネタ。って言うか断念した無能の中の無能王子のプロトタイプ的な作品。
これが正しいのだと嘯き、世界に腐臭をまき散らした上で固定化したのは賞賛されるべきか。
そして、それがどうしようもない暴力を持つ馬鹿に蹂躙される有様を見ないで済んだのは、幸せだったのかもしれない。
あるいは知れば、楽園を壊すなと訴えたかもしれないが、今となっては全てがもう遅かった。
そう、遅かったのだ。
「スキルがある⁉ ひゃっほう! これで朝昼晩に食えて、屋根のある所に寝泊まりできるぜ!」
一風変わった文化を形成することで有名な東国の木造神殿。その入り口ではしゃぎ素直な欲求を口にしているのは、十歳になるかならないかの黒髪黒目の薄汚れた少年だ。
髪はぼさぼさで着ている物は服とも言えない布切れな有様は、彼が最下層で生きている人間だと分かる。
「よいですか? スキルとは正しい行いに用いるべきであり」
「うっす! 分かりました!」
五十代ほどの中年司祭はありがたい言葉で欲望塗れを諭そうとしたが、面倒がった少年は途中で話をぶった切った。
通常、少年程の年齢で不可思議な力であるスキルを宿しているかの判別をすることはあまりない。なにせ親は子供が生まれたら、すぐに我が子が特別な力を持っているに違いないという願望を抱いて、スキルが判別できる者の下へ金と子を抱いて訪れるのだ。
だが大抵の場合は徒労に終わり、普通の人間だった子供と共に家へ帰る。
つまりスキルを鑑定してもらっていないのは、余程生まれが悪くそういった行事に縁がなかったということである。
「それで俺のスキルは何ですかね!?」
興奮している少年、タイガもまたそういった類の人間だ。
物心ついた時から残飯を漁り、路地裏で寝起きしていた少年はまさに最下層も最下層であり、特別な待遇とは無縁だった。
しかし、幼いころから路地裏で生活して、殆ど生ごみのようなものを食べて生きているのに、歯はどこも欠けないどころかむしろ白く、生気溢れているとなれば話は変わる。
次第にタイガは妖怪なのではないかと噂され、話を聞いた司祭が物は試しとスキルを鑑定して今に至る。
そして、実際にスキルを持っているとなれば、これまた話は変わる。
機能しているかどうかは置いておくが、スキル所持者は幾つかの特権を有している。
分かりやすいのは身分を越えて婚姻を結べるというものだ。途絶えかけた貴種がなりふり構わず平民のスキル所持者を取り込み再興した。などという話がちらほらとあり、それが問題視されない程度にはスキルというものは神聖視されていた。
「スキル名は……なんだこれは? 外れスキル?」
「はい?」
タイガは聞いたことのないスキル名にポカンとした。
「外れスキル?」
「はい」
「はあ。何ができるんです?」
「さあ」
「さあって……」
尤も聞いたことがないのは司祭も同じで、タイガと共に首を傾げていた。しかし司祭がスキルを鑑定したところ、間違いなく【外れスキル】という文字が浮かんでいた。
「じ、実は超強力なスキルとか?」
「ゼロではないでしょうな。歴史を紐解けば≪悪臭≫のスキルを持った者が、その臭いで魔物の大軍を防いだということもあります。そう言った前例もあるので、未知のスキルはかなり詳しく調べられますね」
「なるほど!」
「千年も二千年もスキルと関わって経験が蓄積されている世なのです。名前だけでいきなり役立たずなスキルとして認定される。などということはないと思っていただきましょう」
「かっけえよ司祭様! 俺っち今感動した!」
「それほどでもありません」
司祭の説法のようなものを聞いたタイガは、名前からして役立ちそうにないと思った自分を反省して目を輝かせた。
「そうなると俺の外れスキルは……」
「ふむ、そうですね。幾つか思い浮かんだのは……た、とえ、ば……なんでしょうね。単純に外れくじかもしれません」
「えええええ!? 結論がそれ!?」
「まあ、これからお国の人が色々と調べるでしょう」
「うーん。まあいいか。きっとすげえスキルに違いない!」
「それでは3年くらい調査を頑張ってください。その後しばらくして、スキル所持者だけが通う学校にまた三年程行くことになるので、全部で六から七年ですかね」
「……え? そんなに?」
「見たことも聞いたこともないスキルの所持者が野放しになる訳ないでしょう」
「正論だ……」
外れスキルが役立たずという意味ではないかと考えた司祭に、そんなことはないと否定するタイガだが、これからの予定を聞いて目を丸くする。
だが極端を言えばどんな爆発の仕方をするか分からない危険物が放置される筈もなく、これからタイガは入念に調べられることになる。
「司祭様ありがとう! 俺、彼女達にキャーキャー言われるために頑張るよ!」
「その煩悩を捨てなさい」
「男なら当然だろ! 興味ありませんみたいな面してたり、自分は遠慮してるけど向こうから来るなら仕方ないよねとか言うタイプとは真逆! 俺の方針はガツガツ行こうぜ!」
「アドバイスしますが、そう言うタイプはいざ女性を目の前にすると、どうしたらいいか分からなくなることが多いですよ。ですからまずは自分を磨いて自信をつけなさい」
「こ、これが司祭……! おっほん。じゃあ尚更頑張るぜ!」
「はいはい」
若造に相応しい馬鹿なことを宣言するタイガに、司祭は呆れた顔をしながら少しだけ助言を与える。
すると感銘を受けた大我は更に気合を入れて、自分の欲望のまま突っ走ることを宣言する。
そして数か月後。
タイガは願いが叶うという伝説のある地、赤霊山の麓の施設に送られた。
そこは全てが特殊な金属を用いられており、人によっては牢獄のように見える殺風景な四角の建造物だった。
(外れスキルってのはよく分かんねえけど、生きてりゃなんとかなるさ!)
そのタイガに不安はない。彼は街のネズミや虫を食べるのは当たり前。廃墟で寝泊まりできたら十分だ。という最底辺の生活を送りながら、底抜けに明るい性格をしていた。
しかしながら、よく分からないスキルを観察する場所は危険物の隔離所にも等しく、そこにいる人間達は楽しい気分とは無縁なことが多い。
「よろしくお願いしまっす! タイガっす! スキルは外れスキルとか言われましたぁ!」
「お、おう」
タイガは中年の職員に元気よく挨拶しすぎて、若干引かれながら施設の説明を受けることになる。
「この施設は古の契約によって、世界各地からよく分からないスキル所持者、もしくは異常が起こった者が送られることになっている」
「自分はよく分からない方っすね!」
「あ、ああ」
(なんだこいつ?)
職員はタイガのテンションに困惑する。
通常、施設に送られる者は不安に圧し潰される寸前であることが多く、タイガのような底抜けな明るさを持つ者など皆無といっていい。
「そして今現在はお前の他に四人いる。多分だが、お前と同年代の筈だ」
「同年代ってマジっすか⁉ 会いたいっす!」
「まあ……いいだろう。百聞は一見に如かずとも言う」
「はい?」
「付いてこい」
職員の説明に同年代との交流などなかったタイガは更にテンションを上げるが、意味深な言葉には首を傾げながら付いて行く。
施設の中にある広い空間の隅にいた。
「あの蝙蝠のようなのはカエデ」
職員が指さす先。
ぎょろりと動き突き出たような巨大な目。異様な鋭さを持つ真っ白な牙と、同じように白い体毛。腕と一体化したような翼。それなのに二足で立っている姿は、まるで蝙蝠人間。
「虫のようなのはローズ」
かちりと鳴る顎。複眼。蜂と百足を掛け合わせたような醜悪な顔。黒と黄色が混ざったキチン質の外骨格。それなのに二足で立っている姿は、まるで毒虫人間。
「トカゲのようなのはアレックス」
ゆらりと鎌首をもたげる蛇のような、あるいはトカゲのような顔。爬虫類の黒い鱗。強靭な尾。それなのに二足で立っている姿は、まるでトカゲ人間。
「クラゲのようなのはエルシー」
言葉通りふわふわと浮いているような青い浮き袋。蠢く細い触手。上半身は紛れもなくクラゲ。それなのに人のような二足で立っている姿は、まるでクラゲ人間。
身長は小柄なタイガと変わらないものの、多くの人間が悍ましい怪物だと断じる存在が、身を寄せ合っている。
極々稀にだがスキルの制御ができない者は、その力が身体的特徴として現れて異形になってしまうことがある。そしていくらスキルが神聖なものだろうが、自分達と容姿が違えばすぐに嫌悪を抱いて排斥しようとするのが人間だ。
実際、この施設にいることがその証明で、関係者達も気味悪がって最小限の関わりしか持たなかった。
もうこれは、理性とは関係なしに生物全体の本能のようなもので仕方ないが、迫害を受けて隔離された側からすれば納得できるものではない。
「自分タイガっていいます! 友達になってください!」
そんな四人にタイガは無遠慮に近づいて、突然友達になることを申し出た。
勿論四人はポカンとして固まっていたが、それをタイガは都合よく解釈する。
「ひゃっほう!初めての友達ー!」
同年代の子供に声を掛けても逃げられるか親が連れ去るかのどちらかだったタイガは、無反応という初体験に喜ぶ。
人の心を軽くするのは賢者だけではなく、底抜けの馬鹿だって成し遂げられるだろう。
◆
それから三年の月日が流れた。
眠っているカエデの夢に現れる光景は、ローズ、アレックス、エルシーも経験しているものだ。
『ば、ばけもの⁉』
自分を化け物と呼ぶ身内の顔。怖れを浮かべる近所。
カエデが生まれた時はちゃんとした人の姿だったが、スキルの力が強まるとそれは一変した。蝙蝠人間のような、どう見ても怪物としか呼べない容姿に変わったことで、嫌悪を向けられた楓はこの施設に送られ、同じ境遇の仲間達とひっそり過ごしていた。
だがそれは突然変わる。
『鬼ごっこしようぜ鬼ごっこ!』
人生経験が足りていないカエデ達でも、全く何も考えず生きているのではないかと思ってしまうほど、裏表を感じさせないタイガが活発に行動したのだ。
だからこれはカエデ達にとって大事な記憶の夢だ。
『ダンスってのがあるんだってよ! どうやるか詳しく分かんねえけど……手を繋いで適当に動いたらいいのか? やってみようぜ!』
タイガに促されるまま五人全員が手を繋いで輪となり、リズムもなにもなくただぐるぐると回転した記憶。
『ぬおおおお! 雪だよ雪! でっかい雪だるま作ろう!』
一緒に巨大な雪だるまを作るため雪玉を転がした記憶。
『昼寝しようぜー。ぐう……』
無遠慮なタイガと一緒に昼寝した記憶。
『稀に王紋や女王紋と呼ばれる証が体に浮かび上がる者がいる。そういった者は空いている土地で建国する資格がある……常識的に考えておかしくね? 空いてる土地ってなに? それで建国する資格? え? 疑問に思ってるの俺っちだけ?』
共に勉強した記憶。だが妙に発想や感性、身に着けている常識に違いがあるためタイガはよく首を傾げていた。
それがここ三年程ずっとであり、カエデ達とタイガは肉親同然の友達として過ごしてきた。
「……」
だからこそ、目覚めて部屋を出たカエデはその光景を不思議に思わない。
「いえええええええい! 朝の運動最高ー!」
「いえええええい!」
外の運動場でハイテンションの叫びを上げながら爆走するタイガと、彼の背に絡みついたエルシーが少々幼い声と共にクラゲのような触手をばたばたと動かしているのなんていつものことだ。
カエデの見たところでは同年代ながら甘えん坊のエルシーが彼の背にいるのは日常の光景だし、アレックスがそれを羨ましがり、ローズが一歩引いた余裕の雰囲気を醸し出しているのもまたいつものことだ。
「アレックスも一緒に走ったらどうです?」
「うえ⁉ ど、どうしようかなー……」
おっととりとカエデが話しかけると、アレックスは中性的ながら奇妙な声を上げて自分の人差し指をツンツンとし始めた。
「今更何を恥ずかしがってるんだ? 昨日はタイガと引っ付くどころか、尻尾まで絡ませて昼寝してただろう」
「何で知ってるの⁉ 僕の部屋に来てた⁉」
「ああ」
毒虫の顔を傾けたローズが大人びた声を発すると、アレックスはトカゲのような尾から頭の先までピンと伸び、目に見えて狼狽してしまう。
「いよっすカエデ!」
「おはよー!」
「はい、おはようございます」
そんな時、カエデに気が付いたタイガが走り寄ってエルシーと共に声を掛ける。
「汗が流れてますよ」
「あ、悪い」
「いえいえ」
だがカエデは返事をするだけではなくタイガの首にあったタオルを手に取ると、彼の額に浮いていた汗を拭きとり蝙蝠の顔でにっこりと笑う。
その動作はあまりにも自然であり、日常の光景の一つということが分かる。
「じゃあ私もー!」
「ぬおおおお。汗で虹とか出てない?」
そこへエルシーも加わってタオルの端を触手で掴むと、タイガの頭をわしゃわしゃと拭き始めた。
「明日するといいさ。明後日は私だがな」
「僕なにも言ってないよね⁉」
「顔が言っていたし、その返答は正解と同義だ」
ローズは再びアレックスの状態を察して揶揄うと、素直なアレックスは打てば響くと表現できる反応を示した。
「あんがとー。よーし、朝飯朝飯ー」
物事を深く考えないタイガはカエデとエルシーに礼を言うと、朝食が楽しみだと言わんばかりに軽い足取りで歩く。
いつまでもこれが続けばいいのにという願いを持つカエデもまた続いて歩くが、人の夢は大抵が叶わないものだ。
「んがっ⁉ 何だあ⁉」
突然の凶行としか言いようがない。
困惑の声を漏らすタイガだけではなく、施設にいた人間全てが身動きできず金縛りのような状態となってしまう。
「隔離された変わり者がいるって話だから来てみたら、珍しいのを見つけちゃったー」
細かく動く蝶のような羽を持ち、人の掌ほどしかない身長ながら可愛らしくも美しい少女の顔の生物、ピクシーがカエデ、アレックス、ローズ、エルシーを興味深そうに見ながら現れた。
この幻想的な生物を前にしたカエデ達は感動する。ことなく焦る。
ピクシー。それは恐怖と嫌悪の代名詞だ。
なにせ強力な魔法を使えるくせに、蟻の巣に水を注いだり虫の足をもぎ取る幼子のような無邪気さを人間にも発揮するため、外見の可愛らしさとは無関係に危険な生物だった。
そんなピクシーがカエデ達の動きを封じて周囲を飛び回る。
「ふんふん。ふーむふむ」
「おいこら蝶々みたいなやつ! てめえがやってんなら今すぐやめろ!」
「あれ、喋れるんだ。っていうか蝶々って、ピクシーのこと知らないの?」
「火苦死ーだぁ? 中々かっこいい名前じゃねえか!」
「ありがとうって言いたいところなんだけど、なんか発音おかしくない?」
カエデ達を観察したピクシーはなにが面白いのかニヤリと笑ったが、元気いっぱいに叫ぶタイガには少し驚いたように首を傾げた。
「でも妙に既視感が……この感じはなんだろ? ちょっとバラすね」
「はん?」
それだけではなくピクシーはタイガに妙な既視感を感じると、詳しく調べることにした。
つまりは解体である。
瞬きの間の出来事だ。ピクシーがパチンと指を鳴らすとタイガの足が切断されて眼球ははじけ飛び、鼻はそがれ頭部は燃え尽きたように炭化する。
「うーんなんか思い出せそうなんだけど……こうしたらどう?」
更にピクシーはどこからともなく取り出した二本の剣の切っ先を、切断されて膝から下がなくなったタイガの足に突き刺す。
「!」
単に既視感を調べだけのピクシーと転がった肉の塊を見たカエデ達は、理性が焼き切れて声なき叫びを上げる。
異変が起こった。
蝙蝠の様だったカエデは象牙色の肌となり、絹のような黒髪と黒目の少女に。
クラゲの様だったエルシーは真っ白な肌と、輝く金の髪と目の少女に。
トカゲの様だったアレックスは僅かに日に焼けたような肌と、燃えるような赤い髪と目の少女に。
毒虫の様だったローズは艶やかな褐色の肌と、濃い紫の髪と目の少女に変貌した。
「あは! やっぱりスキルを活性化させるなら怒るのが一番だよね! しかもこの感じは女王紋じゃん! 珍しいの見たなー!」
ピクシーを殺すという感情しか浮かばない少女達だが、その殺意を向けられている当人は平気な顔で寧ろ面白がるような表情を浮かべた。
「ドラゴン、蟲毒、吸血鬼。わーお、超々レア。うん? 異界禁断? 初めて見たなー」
活性化したことで不安定だったスキルがしっかりと現れカエデ達に力を齎すが、それを気にしない程にピクシーは強力であり、事実として彼女達は少しも動くことができない。
「うーん。こっちもちょっとバラして色々調べたいなー」
しかし、ピクシーは自分の発言についてもう少し考えるべきだろう。
怒りで活性化するのはなにもスキルだけではなく、当人そのものもまた見境がなくなると。
じゃり。と砂を踏む音がやけに響いた。
「おい」
「え?」
あり得るはずのない男の声に、ピクシーは気の抜けた表情になる。いや、カエデ達もだ。
そこにいた。
ぽっかりと空いた眼孔。
削がれた鼻、唇がなく剥き出しとなった歯茎、一部が露出した頭蓋、爛れた全身、両足から生えた剣の柄。
死体も同然の姿。恐れることなどない。
しっかりと立って、ありもしないはずの目が爛々と輝いているようにさえ見えなければ。
「好き勝手やってくれたなコラ」
「ひっ!?」
しわがれたタイガの声に、ピクシーは悲鳴を漏らす。
歩けるはずがない。喋れる筈がない。意識を保っている筈がない。なにより生きている筈がない。
それなのに少年は幽鬼のようでありながらもしっかりと大地に立って、理解できていないピクシーを見下ろす。
だからこそピクシーは理解できない怪物を前にして、最も邪悪な生物という化けの皮が剥がれた。
無邪気な悪意は、理解し難い正気に気圧されたのだ。
「なんで!?」
「なにがなんでだ間抜け! 目の前でダチが磔にされてバラすなんて言われた日にゃぁ、てめえを殺すしかねえだろうがボケ!」
怯えるピクシーにタイガが吠える。
それは自分の惨状ではなく、友を害されることでスイッチが押された。
≪外れスキル≫が限界を迎えようとしていた。
タイガの窮地を救うため、ではない。
彼の弱体化に失敗してである。
経験の積み重ね、研鑽と努力。大いに結構。だが才能の一点だけで、なにもかもを凌駕できる存在を……現実を無視するべきではない。
「おおおおおおおお!」
生まれついての外なる者。理外の存在。言葉通りの桁外れに絡みついた枷が外れかける。
切断されたはずの足が一瞬で再生する。目も、肌も同じだ。
地にいるべきではない埒外とは。
それ即ち独立した究極の個! 特異点!根源! 根幹! 人型の宇宙!
つまりは【世界】に至れる資格を持つ者!
「天上天外げえええええ!」
世界への入門者が意味も理解していないまま叫ぶ。
そして……。
【外れ!】【外れ!】【外れ!】【外れ!】【外れ!】【外れ!】
常時タイガを弱体化させていた正真正銘の外れであるスキルが、タガが外れて大我という答えに辿り着きそうな宿主に圧し潰されまいと必死に抵抗する。
だがピクシーの誕生は、数百年前に別の宿主に寄生していた外れスキルが強く関わっており、唆された所持者は拗らせてこのような生物を生み出した。
そのため当時と同一存在である外れスキルは、数百年前の悪行が巡り巡ってランダムに選んだ当代の寄生先に危機を招き、天への覚醒を引き起こして潰されかけている間抜けなのだ。
「ああああ!」
狂乱するピクシーの両手から、岩をも溶かす灼熱の魔法が解き放たれタイガを飲み込んだ。
「や、やった! ざまあみろ!」
これならばとほっと一息吐くピクシーだがなにもかもが甘い。
「ざまを見ろだあぁ? 男が生き様を見せつけねえでなにを見せるってんだ!」
臨界点に達しかけている天に攻撃など無意味!
存在が違う! 格が違う! 有り様が違う! 質量が違う! いったい誰が傷つけられる!
『……!』
声なき外れスキルの悲鳴が迸るが、間違いなくこの次元で最強の力を抑え込んでいるのだからもっと誇るべきだ。
流石は世界の認識を壊した大事件、常識外れの主犯。
流石は千年以上も暗躍して歴代スキル所持者を外道に落とした悪の中の悪。
馬鹿だ。
結局は世界という枠組みがあってこそのお遊び。砂場で子供が作ったものを壊していただけの馬鹿の中の馬鹿。
だから因果が巡り、世の理どころかそのものを圧し潰す化け物という、真の外れくじを引き当てる羽目になるのだ。
外れを引き当てるのは人だけではなく、スキルにとってもあり得る出来事である。
それはいいだろう。最早天の放つ波動は地を震わせ、ピクシーが絶望を感じるのに十分な域に達していた。
「ひっ⁉ ひいいいいいイイイイイイイイイ⁉ 許してえええええええ!」
「もう遅えええええええ!」
ピクシーは一見するとただの握りこぶしにこれ以上なく恐怖し、悲鳴と共に命乞いをする。
なにせピクシーの感知能力は、その拳に大陸一つを丸々凝縮したような質量とエネルギーが秘められていると察し、受けたなら絶対に死ぬと確信した。
だがそんなことはタイガに関係ない。
殺し合いの場である以上、命乞いなど遅すぎる。
「くたばれやあああああああ!」
「っ!?」
地にあってはならない天の拳は、ピクシーの断末魔を消し飛ばしながらその小さな体に衝突。着弾。
隕石の衝突すら生温いと貶すことができる破壊そのものは、物質的な理を無視してピクシーだけに影響を与え完全に消滅させた。
「ぐ……」
「タイガ⁉」
それと同時に外れスキルが目的を果たしたタイガの弱体化に成功し、彼は地面に倒れ伏す寸前に自由を取り戻したカエデ、アレックス、ローズ、エルシーに抱きかかえられた。
これは、底抜けの馬鹿と少女達、そして天を封じている愚かな外れスキルの物語である。
◆
≪スカ≫。≪外道≫。≪正解外し≫。≪外れスキル≫等々
正式名称なし。
悪意を継承しているスキルで、歴代所持者を尽くを外道に落とした外れの中の外れ。真の外れスキル。なのだが、スキルガチャならぬスキル所持者ガチャで大外れを引き当ててしまう。
現在は当代のスキル所持者となった馬鹿に圧し潰されまいと、常時フル稼働で必死に抗い弱体化させている。しかし馬鹿が死ねばどうなるかさっぱり分からないため、危機から遠ざけようとしているが、リソースのほぼ全てを弱体化に割いているせいで、完全に遠ざけることができていない。
数千年も歴代所持者を唆して混沌とした世界にする→そのせいで現代の所持者(馬鹿)に危機が迫って覚醒しかける→自分が圧迫されて死にそうになる。という間抜けを晒しているアホの中のアホ。
どこぞの次元の【自称お嬢様】が見たら、一日中人の頭の中で爆笑するレベル。首席なら腹筋崩壊からの過呼吸でぶっ倒れる。ずっとざまあでもう遅い状態。悪だろうが世界が圧し潰されないために頑張れ♡頑張れ♡
別に外れでもないスキルが外れ呼ばわりされているのは、それらに標準搭載されている正解を外す機能のせいであるという理論。
ついでにスキル側から見ても所持者ガチャの外れってのがあるんじゃないか。好き勝手する立場の黒幕が、最初から詰んでいて馬車馬のように働く作品があってもいいじゃないかという発想の作品。
無能の中の無能王子を書く前に構想だけ練ってましたが、スケールがガバ過ぎて断念した模様。
もしこんな作品もありなんじゃないかと思ってくださったら、下の☆☆☆☆☆で評価していただけると作者が泣いて喜びます!