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【 フランクリン 】で死んだアイツと【 ベロー・ウッド 】で死んだアイツと・・・そして生き残った僕

作者: 花 美咲

太平洋戦争末期...

時代は、若者に死ぬ勇気を求めていた。

250㌔爆弾を抱えた零戦で、敵艦隊に体当たり攻撃をする。

人間の生命が軽視された、最低最悪な特攻作戦の犠牲者になった若者たちの物語…



この小説はフィクションです、実在する人物や団体などとは関係ありません。



1945年8月15日


日本、無条件降伏


然レトモ朕ハ時運ノ趨ク所

堪へ難キヲ堪へ忍ヒ難キヲ

忍ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平ヲ

   開カムト欲ス



天皇陛下の玉音放送後...



愛する恋人を戦争で亡くした女性の元へ、特攻隊員の生き残りが、遺書を届けに行き、無言で、彼女に、その遺書を渡していました。



田中(たなか) (きく) 様


菊が、この遺書を読んでいると言う事は、天馬が菊に遺書を届けてくれている事だな、菊からも、お礼を言っといてくれ...


さて、1944年、10月30日に、俺、雨傘(あまがさ)完爾(かんじ)は、250㌔爆弾を抱えて零戦で敵艦隊に突入する。


戦争が無ければ、菊と夫婦(めおと)となり、子供を産んでもらって一緒に育てたかった。


孤児院育ちの俺には、家族と呼べる者は皆無だが、唯一、俺の家族になってくれると信じていた女へ、遺書として、俺の気持ちを伝えたかった。


ありがとう、菊、俺は、お前を幸福(しあわせ)にする事は出来なかったけど、お前を幸福にしてくれる男と夫婦となって、子供を産み、俺が、一番欲しかった家族を作り、幸福に暮らしてくれ...


俺は、お前との思い出を胸に、敵艦隊に突入する。


ありがとう 菊


フィリピンの海に散った、俺の事は忘れてくれ...



帝国海軍 雨傘完爾 飛曹長





雨傘完爾 飛曹長... 戦死


田中 菊 は、彼女は、雨傘完爾の遺書を読み、戦死と言う現実を必死に受け止めようとしていた。


『 愛する人の最期を 私は知りません 戦争は 私と完爾を引き裂いた 私と同じ思いをしている女性は たくさん存在するのでしょうね... 』


「 ・・・・・・ 」


『 なんの為の戦争だったのでしょう? 完爾は 雨傘完爾は 最後は 日本男子として 立派でしたか? 』


「 ・・・・・・ 」


特攻隊員の生き残りは、終始無言でした。


愛する恋人を戦争で亡くした女性への気遣いなのでしょうか?


それは、特攻隊員の生き残り、彼にしか、わからないことである。


『 雨傘完爾は 言っていました 貴方(あなた)が 上官でもあり 親友でもある 晴山(はるやま)天馬(てんま)少尉が遺書を持って来る その時は よろしく頼むと言った時が 雨傘完爾と会話した最後の言葉でした 』


「 完爾が... 」


『 戦争とは (むご)いですね 私は ただ 完爾と一緒に居たかった その願いすら 戦争は奪うんですからね 差し支えなければ 完爾の最後の日を教えて頂けないでしょうか? 』


「 雨傘完爾の最後ですか? 」


『 完爾が 貴方に遺書を渡した時の事を教えて頂ければ 嬉しく思います この遺書と一緒に 残りの人生を生きて行けると思います 』


戦争が終わっても、悲劇の連鎖が続いていると痛感しながら、晴山天馬少尉は、雨傘完爾の最後の日を語り始めました。


戦争は、愛する恋人同士を切り裂く愚かな行為だったんだな... と、痛感しながら...



「 完爾が 僕に その遺書を渡してくれた時は... 」




太平洋戦争末期・・・




時代は、若者に死ぬ勇気を求めていた。



神風特別攻撃隊が、幾多数多いくたあまたの部隊が、大空へ飛び立ち、そして散っていた。 


そんな、悲惨な時代...


1944年、11月26日に、また、新たな部隊が編成されました。


そして、10月29日...


... フィリピン・セブ島・基地 ...


明日、30日に、特攻隊が出撃する。



爆戦隊


雨傘完爾 飛曹長


雲仙佐助 飛曹長


○○○○ 飛長


□□ □ 一飛曹


△△△△ 一飛曹


○□ △ 一飛長


直掩隊


風見雷蔵 中尉


晴山天馬 少尉


○△○□ 上飛曹


□○△△ 一飛曹


△○□△○ 飛長




この、特攻隊は、2隊に分かれ、それぞれ、3機の爆装特攻機に2機の直掩機がつけられ、さらに、敵戦闘機を引きつけるための制空隊として、1機が先行した。


合計11名で結成された部隊は...


のちに、「 ざくらたい」と、呼ばれる部隊である。


この物語は、フィリピン・セブ島で、新たに設立された部隊で、生命いのちを落とした特攻隊員2名と、特攻突入を見届け、生き残った直掩機・隊員1名の友情の物語である。




※... 直掩機ちょくえんきとは、搭載艦(艦載機の場合)などの目的艦、または、飛行場の上空を周回し、敵航空機を迎撃して味方敵船や飛行場を守ったり、味方の航空機を掩護えんごする戦闘空中哨戒を行う航空機である。護衛機ともいう、尚、直掩とは直接掩護の略である。




フィリピン・セブ島・基地・指揮官・小島(こじま) (ただし) 少佐の部屋に、若き特攻隊員が抗議をする為に訪れていた。


「 僕が 第1航空艦隊司令長官・晴山空馬はるやまくうま)中将の息子だから 直掩機なんですか? 」


フィリピン・セブ島・基地・指揮官・小島 正 少佐に抗議をするのは、晴山天馬はるやまてんま少尉である。


晴山少尉は、明日、30日に、零戦に搭乗し、特攻隊員として、フィリピン・セブ島・基地を出発をするつもりでいた。


しかし、辞令は、直掩機搭乗だったのだ。


納得が出来ない、晴山少尉は、父親の晴山中将が、自分の息子を死なせたくないから、特別な配慮をしたのだろうと推測をしたのだ。


明日、零戦で搭乗する、特攻隊員たちにも家族がいる。特攻隊員の親たちも、皆、本音は、死んで欲しくないはずだし、お国に捧げた身体、こんな言葉で、自分の子供が自分より先に死ぬ、本音で言えば、納得が出来るわけがないんだ。


だから、晴山少尉は、父親の晴山中将の特別な配慮に怒りが沸いたんだろう。


不満顔の晴山少尉に、指揮官・小島少佐は、言った。


「 晴山少尉 上層部の決定事項は覆ることはない 君の父上 晴山中将が この辞令に特別な配慮をしたのか? していないのか? そんなのは知らん 言えることは 君は 明日 直掩機搭乗が決定している ただ それだけだ 」


続けて、指揮官・小島少佐は、晴山少尉に命令した。


「 直掩機は 敵機の攻撃を受けても 反撃はいっさいしてはならぬ 爆戦隊の盾となって弾丸を受け 敵機の攻撃を阻止すること 戦果を確認したなら 離脱帰投してよろしい もし 離脱困難の場合は 最後まで 戦闘を続行することを命ずる 」


冷酷のような命令に絶句する、晴山少尉であった。


軍人たる者、上官の命令は絶対である。海軍兵学校時代から、叩き込まれた精神論であるから引き下がるしかない、晴山少尉であった。


ガチャ


部屋を退出をしようとした晴山少尉に、指揮官・小島少佐は言った。


「 今宵は 皆と盃を交わすと良い 今生の別れとなるからな... 晴山少尉 」


無言のまま... 扉を閉める、晴山少尉であった。


バタン


指揮官・小島少佐の部屋を後にした、晴山少尉は、基地内・駐機してある零戦の元に向かった。


明日、飛び立つ零戦が並んでいる。


「 ! 」


晴山少尉は、人影に気づいた。


人影は、晴山少尉の同期、雨傘完爾飛曹長と、雲仙佐助うんぜんさすけ飛曹長であった。


「 完爾... 佐助... 」


晴山少尉は、雨傘飛曹長と、雲仙飛曹長に声を掛けた。


振り向く、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長...


「 天馬 」


晴山少尉と、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長は、海軍兵学校時代以前からの親友同志である。


海軍兵学校時代に親友の絆がより深まり、少尉と飛曹長の立場の違いがあるが、3人の絆には... 関係がなかった。


「 零戦を見て どうした? 」


晴山少尉は、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長に聞いた。


「 250㌔爆弾を抱えた 明日の棺桶を見てただけだよ! 」


晴山少尉の問いに答える、雲仙飛曹長だった。


「 フィリピン・セブ島・基地が オレたちの最後の基地となる 目に 脳裏に焼きつけときたいだけだよ 天馬 」


続けて、雨傘飛曹長が、晴山少尉に言った。


明日、30日に、特攻により、確実に死ぬと自覚をしている、雨傘飛曹長と、雲仙飛曹長の言葉に、晴山少尉は自責の念を感じた。


何故、完爾と佐助は、死ななければならない、何故、オレは生き残らなければならない。


海軍兵学校時代に、オレと完爾と佐助で誓ったじゃあないか、3人で、特攻に志願をした時に誓ったじゃあないか...



オレたち、3人の合い言葉...


靖国で、再び、再会して、酒を飲もう...



特攻を成功させて、その後、靖国で再会する約束をした...


オレと完爾と佐助の誓い...


何故、オレは、誓いを守れないんだ。


そう、苦悩する晴山少尉が、無言で、その場で膝を曲げて、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長に... 土下座をした。



突然の、晴山少尉の土下座に驚く、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長だった。


無言の土下座をする... 晴山少尉...


土下座をされた、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長...


... しばしの沈黙が流れた。


そして、沈黙を破ったのは、雨傘飛曹長だった。


「 天馬 何故 土下座をする? 」


晴山少尉は、雨傘飛曹長の言葉に答える。


「 誓いを守れないからだ... 」


雨傘飛曹長は、再び、聞いた。


「 明日の直掩機 搭乗の話か... 天馬 」


晴山少尉は、雨傘飛曹長の言葉に返答する。


「 そうだ オレが 第1航空艦隊司令長官・晴山空馬中将の息子でなかったら 誓いは守れたんだ 」


晴山少尉と、雨傘飛曹長の会話に、雲仙飛曹長は言った。


「 仕方ないよ 天馬 なぁ 完爾?... 」


確実に死ぬ人間と、確実に生きる人間、温度差を感じる。


しかし、温度差を打ち破ったのは、雨傘飛曹長だった。


雨傘飛曹長は、晴山少尉に言った。


「 オレと佐助と お前 オレと佐助が准尉で 天馬は少尉 三者三様 功績は一緒なのに 天馬だけ少尉 晴山空馬中将の恩恵があるに決まってるやん なにを いまさら... 」



※ 階級... 少尉は士官で、飛曹長は准士官の階級、准尉とも呼ばれる。



「 完爾 言い過ぎだぞ (怒) 」


雨傘飛曹長の言葉に、注意する雲仙飛曹長だった。


土下座をしている晴山少尉に、雨傘飛曹長は、立つように促した。


「 天馬 立てよ 少尉が准尉に 土下座をするな 」


雲仙飛曹長は、晴山少尉の背中を擦り、無言で、立つように促した。


晴山少尉が、立った時...


「 ... ... ... 」


後方から、晴山少尉、雨傘飛曹長、雲仙飛曹長を呼ぶ声がした。


明日、晴山少尉、雨傘飛曹長、雲仙飛曹長と一緒に、零戦に搭乗する特攻隊員たちだった、


特攻隊員たちは、晴山少尉、雨傘飛曹長、雲仙飛曹長に向かって言った。


「 宴会の準備が出来ました 作戦会議室まで集合をお願いします 」


呼びかけに、雲仙飛曹長は返答する。


「 すぐ 行くよ... 」


人生、最後を一緒にする仲間と最後の酒を飲む、神風特別攻撃隊の特攻隊員たちは、人生、最後の酒をどんな気持ちで飲み、どのように過ごしたのか、考えると想像を絶するだろう、決して、美味(うま)い酒ではないことだけは言える。


雨傘飛曹長は、晴山少尉と雲仙飛曹長に向かって言った。


「 人生 最後の酒を飲むか? 」


呼びかけをした、特攻隊員たちの元に向かおうとする、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長に対して、晴山少尉は、立ち止まったまま動かなかった。


それに気付いた、雨傘飛曹長は、晴山少尉に言った。


「 どうした... 天馬? 」


雲仙飛曹長も立ち止まり、雨傘飛曹長と晴山少尉に視線を向ける。


晴山少尉は、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長に言った。


「 僕は 宴会に参加する権利は ないと思う... 」


直掩機搭乗の晴山少尉は、敵に撃墜をされない限り、生き残る可能性が高い...


しかし、雨傘飛曹長や雲仙飛曹長、他の特攻隊員たちは....


確実に死ぬ...


当たり前だ、敵の艦隊に突撃をするのだから...


雨傘飛曹長は、雲仙飛曹長に視線を向けてから、晴山少尉に視線を向けた。


そして、雨傘飛曹長は、晴山少尉に言った。


生命(いのち)に嫌われているだけだ オレも佐助も そして... アイツらも... 」


続けて、雲仙飛曹長が、晴山少尉に言った。


「 天馬は 生命に好かれているだけだ 生きろって 言われているんだよ 」


それでも立ったままの晴山少尉に、雨傘飛曹長は近づいて、持っていた手さげの巾着袋を、晴山少尉に手渡した。


手さげの巾着袋を受け取った、晴山少尉は、雨傘飛曹長に聞いた。


「 完爾 この巾着袋は?... 」


雨傘飛曹長は、晴山少尉に言った。


「 オレと佐助の遺書を入れている この戦争が終わったら 天馬が 無事に日本に帰国することが出来たなら オレと佐助の家族に届けてくれ 頼んだぞ それから 日本に帰国するまで その巾着袋は開けるんじゃあないぞ... 」


確実に死ぬ人間が、撃墜をされない限り、生き残る可能性が高い人間に遺書を託す...


親友と呼ぶ人間同志の会話なのだから、これもまた、戦争が生んだ悲劇と言えよう...


雨傘飛曹長と雲仙飛曹長は、作戦会議室に向かった...


それを見送る、晴山少尉だった。



・・・ バシッ ・・・



立ったままの晴山少尉は、突然、背中を叩かれて声を掛けられた。


声を掛けたのは、晴山少尉と同じく、明日、直掩機に搭乗する...


風見(かざみ)雷蔵(らいぞう)中尉であった。


風見中尉の直掩機指揮下に、雲仙飛曹長の零戦があり、晴山少尉の直掩機指揮下に、雨傘飛曹長の零戦がある。


雨傘飛曹長は、晴山少尉が、直掩機の翼をバンクした瞬間、敵に体当たりをする。


雲仙飛曹長も、風見中尉が、直掩機の翼をバンクした瞬間、敵に体当たりをする。


直掩機が、左右に傾けられた瞬間は、死んでこいと言う合図であり、合図をする者、合図を受ける者、この現実が、晴山少尉を、宴会参加に躊躇(ちゅうちょ)させた理由の1つだろう...


風見中尉は、晴山少尉に聞いた。


「 明日で雨傘と雲仙に会えなくなるんだぞ 宴会に参加をしたらどうだ 晴山少尉? 」


晴山少尉は、風見中尉に言った。


「 風見中尉 確実に死ぬ人間の宴会に 敵に撃墜されない限り 生き残る可能性が高い人間が参加したら 可哀想な気がするんですよ 」


「 可哀想な気がする... か? やはり お前は 第1航空艦隊司令長官・晴山中将の息子だよ 」


晴山少尉の可哀想な気がする発言に、苦言を呈する風見中尉だった。


風見中尉は、続けて言った。


「 お前は 晴山中将の息子だから 自分は 特別な存在だと思っているんだ 」


自分は、特別な存在...だと、風見中尉に言われて、即座に否定をする晴山少尉だった。


「 そんな事はありません 風見中尉 僕は 雨傘飛曹長と雲仙飛曹長と交わした誓いを守りたかった 」


即座に否定した晴山少尉に、風見中尉は言った。


「 フッ お前は 宴会に参加をしなかった事を 後世 後悔をする事になる まぁ いい オレが現実を教えてやるよ! 一緒に来いや!! 」


風見中尉は、晴山少尉を、とある場所に連れて行った。


風見中尉は、叩き上げで中尉の地位まで登りつめた、生粋の零戦パイロットである。


フィリピン・セブ島・基地・指揮官・小島 正 少佐の秘蔵っ子でもある、小島少佐が指揮する場所には必ず風見中尉が存在をしていた。


風見中尉は、小島少佐に生命を預けており、小島少佐の指令で、いつ、いかなる時でも死ぬ覚悟が出来ている人間だった。


死ぬ覚悟が出来ている人間は、死を恐れる人間の本当の姿を知っている。


だからこそ、死を恐れる人間の本当の姿を、風見中尉は、晴山少尉に見せてやりたかったんだろう。




そして、とある場所に連れて行ったのだ。




暗闇の坂道を登り、椰子やしの葉が屋根の掘っ立て小屋のような、搭乗員宿舎の入り口付近で、突然、飛び出してきた者に大手を広げて止められた。


「 ここは 士官の来る所ではありません 」


声の主は、嵐山あらしやま雪男ゆきお上飛曹であった。


風見中尉の直属の部下である、風見中尉は、嵐山上飛曹に言った。


「 構わない 搭乗員室を晴山少尉にお見せしろ 嵐山上飛曹... 」


風見中尉は、晴山少尉に言った。


「 士官には 搭乗員室を見せたくはないから 見張りの指令が極秘裏に発令されている エリート少尉は 知らないだろうけどな? 」


搭乗員室の扉を開ける、晴山少尉の目に飛び込んだのは...


電灯もなく、廃油を灯した空き缶が3~4個、置かれているだけの薄暗い部屋の正面に、ポツンと10名ばかりが土間に敷いた板の上で、あぐらをかいているのが見えた。無表情のまま、こちらを見つめる目に、晴山少尉は鬼気せまるものを感じた。


嵐山上飛曹は、晴山少尉に説明する。


「 正面であぐらをかいているのは特攻隊員で 隅にかたまっているのは その他の搭乗員です 」


「 晴山少尉 毎日 毎日 喜び勇んだ様子で出撃して行った搭乗員たちも 前日の夜 就寝前は こんな感じです 寝るのが怖くて 本当に眠たくなるまで あのように起きている 他の搭乗員も遠慮して ああして一緒に起きているんです 」


晴山少尉は、驚きを隠せなかった。


毎日、毎日、出撃をして行く搭乗員たち、あの、悠々たる態度、嬉々とした笑顔、あれが作られたものであるなら、彼らは、いかなる名優にも劣らない。


しかし、昼の顔も夜の顔も、どちらも真実であったかも知れません。


驚きを隠せない晴山少尉に、風見中尉は言った。


「 搭乗員たちの真実 知らなかったろ いいか 晴山少尉 オレも お前も 直掩機搭乗だが オレ達には 雨傘や雲仙の特攻を見届ける義務があるんじゃないか? 」


絶句する... 晴山少尉


「 ・・・・・・・ 」


絶句する晴山少尉に、風見中尉は言った。


「 宴会後 雨傘も雲仙も あーなるんだぞ 搭乗員たちの真実を知っても お前は まだ 宴会の参加を拒むと言うのか? 」


顔面蒼白な晴山少尉の背中を叩き、作戦会議部屋まで行くぞ... って誘う風見中尉であった。


立ち去る時、風見中尉は、嵐山上飛曹に言った。


「 引き続き 任務を頼むぞ... 嵐山上飛曹... 」


嵐山上飛曹は、風見中尉と晴山少尉に、無言の敬礼をする。


こうして搭乗員室を後にした、風見中尉と晴山少尉は、宴会が開催されている作戦会議部屋に向かった。


横並びで歩く、風見中尉と晴山少尉 ...


風見中尉は、晴山少尉に言った。


「 作戦会議部屋で酒を飲んでいるアイツらは オレや 晴山少尉を妬んだりなんかしない 納得はしていないだろうけど 時代が 死ねって言ってるんだって 自覚しているんだよ わかってやれ... 」


晴山少尉は、終始無言だった。


終始無言の晴山少尉に、風見中尉は、自分の過去を語り始めた。


「 晴山少尉 オレにも 晴山少尉みたいに 雨傘や雲仙のような感じの親友がいた しかし 親友は特攻で オレよりも先に死んだ 親友が先に死ぬ悲しみは 晴山少尉よりもオレの方が知っている 明日 晴山少尉も 先に親友に死なれた苦しみを味わうことになるだろうが 後悔だけはしてほしくないんだ 」


先に、親友に死なれた苦しみを知っている、風見中尉にとって、明日、晴山少尉が、同じ苦しみを味わうことになるから、苦しみを少しでも和らげてあげたい思いからの、風見中尉の行動だった。



作戦会議部屋に到着 ・・・


ガチャ


扉を開く、風見中尉、背後には、晴山少尉...


バタン


古ぼけたテーブルに、一升瓶が3本、お茶を飲む湯飲みに、お酒を注いで、テーブルを囲んで、周辺に座ってお酒を飲んでいる、雨傘飛曹長や雲仙飛曹長以下、その他の特攻隊員たち...


扉が開いたから、みんな、扉に視線を向ける。


雨傘飛曹長と雲仙飛曹長は驚いている、何故なら、参加しないって言っていた、晴山少尉が、風見中尉と一緒に立っていたからだ。


雨傘飛曹長と雲仙飛曹長以外の特攻隊員たちが、風見中尉と晴山少尉に向かって言った。


「 風見中尉 晴山少尉 こちらへ 」



人生、最後の酒を、配給されている稲荷寿司の缶詰めをオカズにして、最後を共にする仲間と酒を飲み、一蓮托生の夜は更けていった。



「 天馬 最後の酒 お前と一緒に飲めて良かったよ 」


「 完爾... 」


「 オレも同じ気持ちだぜ 天馬 完爾 」


「 佐助... 」


三者三様、色々な思いを胸に、出発する時間を迎える。





1944年10月30日、午後13時30分...





零戦に250㌔爆弾を抱えて、フィリピン・セブ島・基地から、葉桜隊が出撃した。


1時間後の午後14時30分、スルアン島東方150海里を航海中の第38ー4任務群、正規空母【 フランクリン 】護衛空母【 ベロー・ウッド 】を発見、爆戦隊は、太陽を背にして、次々と突入していった。


猛烈な対空砲火で迎え撃つ... 米艦隊


ドドドドドドドッッッッッッッ


正規空母【 フランクリン 】のレーダー管制射撃の集中砲火により、1機目、2機目が撃墜された。


続く3機目は、その対空砲火を突破して急降下するも、被弾して右航至近海面に激突した。


続く4機目は、雨傘飛曹長が搭乗する、250㌔爆弾を抱えた零戦だった。


晴山少尉が搭乗する直掩機が、翼をバンクした瞬間、雨傘飛曹長が搭乗する、250㌔爆弾を抱えた零戦は敵艦隊に体当たりをする。


親友に死んで来いと合図を出す者と、親友に死んで来いと言われる者の計り知れない苦痛は、雨傘飛曹長と晴山少尉にしか分からないが、翼をバンクすることからは逃げられない。



晴山少尉が、翼をバンクした瞬間...



「 天馬 先に 靖国で待ってる お前が 無事に基地に帰投することを願っている 」



雨傘完爾飛曹長の最後の言葉だった、信じられなかった。


今から、敵艦隊に、勇猛果敢に体当たり攻撃を仕掛ける雨傘飛曹長は、親友、晴山少尉の無事の帰投を願っていたのだった。


雨傘飛曹長が搭乗する、250㌔爆弾を抱えた零戦が急降下する。


「 完爾ぃーーーーーーーーーーーーーー! 」


無線の会話は、悲痛な叫び声のオンパレードである。


無論、晴山少尉と雨傘飛曹長の会話は、無線を通じて、雲仙飛曹長も傍受して聞いている。



ドドドドドドドッッッッッッッ 



晴山少尉、雲仙飛曹長の視界には、敵艦隊、正規空母【 フランクリン 】の集中砲火を右往左往と交わして、勇猛果敢に体当たり攻撃を仕掛けた、雨傘飛曹長の250㌔爆弾を抱えた零戦が、火を噴きながら、飛行甲板中央部に見事に突入した。



雨傘完爾飛曹長... 戦死



モクモクと沸き上がる黒煙の奥に、雨傘飛曹長は消えた。


爆発する艦上機、周囲の艦上機を誘爆させて、正規空母【 フランクリン 】は爆発炎上した。


正規空母【 フランクリン 】から立ち上る巨大な爆煙...


燃え盛る、正規空母【 フランクリン 】の艦上機...


消火活動に従事する、正規空母【 フランクリン 】の水兵たち...


同時に、艦上機の発艦準備が急ピッチで急がれる。


雨傘飛曹長がダメージを与えた場所に続けとばかりに、5機目が急降下を開始する。


5機目は、艦首至近海面に激突して、正規空母【 フランクリン 】は大火災を発生させて大破した。


正規空母【 フランクリン 】は、戦死56名、艦載機33機を破壊されて戦場を離脱した。


撃破、雨傘飛曹長の生命と引き換えに得られた戦果、本当は、撃沈までの戦果が欲しかったのが本音だろう。


6機目は、風見中尉の直掩機の指揮下、急降下を開始する雲仙飛曹長の250㌔爆弾を抱えた零戦だった。


急降下を開始する直前、雲仙飛曹長も... また無線で...


「 天馬 いや 晴山少尉 そして 風見中尉の無事の帰投を願っています 風見中尉 お世話になりました 天馬 先に 完爾と一緒に 靖国に行っているから お前は 後から来いや... 」


急降下を開始した雲仙飛曹長だったが、しかし、突入せず進路を変えて上昇する。


ドドドドドドドッッッッッッッ


対空放火が集中する、左上方から真一文字に、護衛艦【 ベロー・ウッド 】に体当たり攻撃を仕掛ける雲仙飛曹長だった。


護衛艦【 ベロー・ウッド 】の後部飛行甲板に突撃...


無線からは、晴山少尉の絶叫が響いている。


「 佐助ぇーーーーーーー! 」


この瞬間、晴山少尉は、親友、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長を戦死により失った。


親友の死を見届けなければいけなかった、晴山少尉の胸中は、穏やかではなかったであろう、しかし、雨傘飛曹長と雲仙飛曹長の勇姿を無駄にするわけにはいかないと決意する晴山少尉であった。


そして、護衛艦【 ベロー・ウッド 】は爆発、炎上した。


燃え盛る、護衛艦【 ベロー・ウッド 】と、なすすべもなく見つめる水兵たち...


一生懸命に消火活動に従事する、護衛艦【 ベロー・ウッド 】の乗員たち...


激しく炎上する米艦上機...


火はおさまる気配を見せない...


飛行甲板上は、発進準備中の艦載機が並んでいた為に、誘爆を起こし、12機が焼失し、14機が破壊された。


護衛艦【 ベロー・ウッド 】は乗組員92名が死亡、または行方不明となり、戦場を離脱した。


撃破、雲仙飛曹長の生命(いのち)と引き換えに得られた戦果、本当は、撃沈までの戦果が欲しかったのが本音だろう。


護衛艦【 ベロー・ウッド 】が鎮火をした時...


護衛艦【 ベロー・ウッド 】の前方では、カタパルトを使い艦上機を発艦させていた。


次々、発艦する艦上機...


直掩機搭乗の晴山少尉、風見中尉たちも正念場を向かえる。


撃墜する、撃墜されてたまるかの攻防が開始された。


黒煙が、大空を舞う、その空で、直掩機搭乗の晴山少尉、風見中尉たちの必死の攻防戦...


晴山少尉の胸中は、雨傘飛曹長、雲仙飛曹長の特攻の死を無駄にしない、そのモチベーションで戦っていたであろう...




そして、戦いは終わった。




正規空母【 フランクリン 】... 撃破

護衛艦【 ベロー・ウッド 】... 撃破


撃破と引き換えに、葉桜隊は...


爆戦隊、雨傘飛曹長、雲仙飛曹長、以下、6名の特攻死...


直掩隊、直掩機搭乗員2名の戦死だった。


晴山少尉は、生き残った、雨傘飛曹長、雲仙飛曹長の特攻死を見届けて... 




そして、終戦を迎えた。




「 そして 僕は あなたに完爾の遺書を届ける為に訪ねたのだが 巾着袋に入っていた中身には 僕への手紙も入っていたのです 」


「 完爾が... 手紙をですか!? 」


「 読みますか? あなたに見せるなって 完爾には言われていないし... 」


「 せっかくですから... 拝見します 」





晴山天馬少尉へ


お前が、この手紙を読んでいると言う事は、もう戦争は終わったんだな、どうだ、無事に日本に帰れたか?

この手紙は、お前が、小島少佐に抗議に行った時に、雨傘と雲仙の共同で書いている。

書いた理由は、ただひとつだけ、雨傘完爾飛曹長と雲仙佐助飛曹長の戦死に、お前が、晴山少尉が気にする事はなにもないと言う事だ。

人間は、誰しも死ぬんだ。死ぬと言う事に関しては、人間、皆、平等だな、お前の事だ、自分が、海軍中将・晴山空馬の息子だから、生き残ったと思っているんだろうけど、そんな事は関係ないんだ。

お前は、残りの人生、雨傘と雲仙の分まで、一生懸命に生きてくれ...


これからの、晴山天馬の人生に幸あれ...


追伸

雨傘と雲仙の遺書、家族に無事に届けてくれてありがとうな、お前の事だ、絶対に届けてくれていると思っている。

じゃあな、先に、雨傘と雲仙で、靖国で待ってる。

お前は、一生懸命に生きて、生きて、生きまくれ...

そして、その後、靖国で会おう...

再会した時は、美味い酒で語り合おうな...


帝国海軍


雨傘完爾 飛曹長

雲仙佐助 飛曹長





「 完爾らしい手紙ですね... 晴山少尉 あなたは これからどうされるんですか? 終戦後 特攻隊員の生き残りの方々にとって 風当たりの強い世の中になっていますけど... 」


「 心配 ありがとうございます これから 残りの人生は 完爾や 佐助の特攻 神風特別攻撃隊の真実を後世に伝える活動をしたいと思っています... あなたは どうされるのですか? 」


「 愛する完爾の骨はありませんけど 残りの人生は 完爾の遺書を心の支えにして 死ぬまでにはフィリピンの海を訪ねたいと思っています バリバリ働いて お金を貯金しますよ... 」


「 ・・・ ふっ 」


「 どうかされましたか? 」


「 あっ いや 完爾が あなたに惚れている理由が なんとなく わかった気がします... 」


「 えっ!? 」


「 そろそろ おいとまいたします お元気で... 」



晴山少尉は、遺書を届けた相手、田中 菊 と別れた後...


残りの人生、神風特別攻撃隊の真実を後世に伝える活動に従事した。


一方、雨傘完爾の遺書を受け取った、田中 菊 は、生涯、独身を貫き、人生を終えた。


独身を貫いた、田中 菊 は、雨傘完爾への愛を貫いたのか?


雨傘完爾の遺書を懐に入れて、毎年、命日に、靖国に参拝をしていたから、そうあって欲しいと... 作者・花 美咲 は思っている。







【 終わり 】























































































実在する部隊、葉桜隊の活躍をモチーフとした作品となります。

モチーフにした事により、不愉快な思いをされた方々が存在するならば、この場を借りて謝罪致します。


申し訳ありませんでした。 


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