第一話 出会い
2023/5/27 加筆修正
ふ、と意識が浮上する。
ざわざわと木々がこすれる音に、鳥の声。そっと目を開けると雲一つない青空が広がっていた。自分はどうやら外に寝転がっているらしい。
しかし地面というには違和感がある。頭の下がぬかるんでいるような、そんな感覚。そして鼻につくにおい。まさか、と思い、ゆっくりと頭を持ち上げて左を向いた。
眼前に広がる、赤。いや、赤黒いといったほうが正しい。あまりに現実味がなく目を閉じた。
自分の頭の下にこれが広がっているということは、自分のものなのだろう。まったく記憶がない。頭を打っているならそれも仕方のないことなのかもしれない。
おびただしい量の出血。ここがどこかも、自分が何をしていたのかも思い出せないが、俺はここまでなのだろうか。まだ死にたくない。
いや、もしかするとこれは夢かもしれない。そうであってほしい。
もう一度確認しようとそっと目を開けると、赤い双眼と、目が、合った。
「ヒィッ!?」
周りに人がいるとは思わなかったし、音もなくこんな近距離に近づかれるなんてことさらだった。思わずひきつった声を上げると、赤い目の持ち主―相当な美人である―が首を傾げる。耳にかけられていた黒髪がさらりと落ちた。
「なぜ、動いている」
血だらけで倒れている人間を見て、心配ではなく生きていることに疑問を抱くということは殺人鬼かサイコパスだろうか。
こんなきれいな美人が、とは考えたくないが少なくともまともじゃないことだけは確かだろう。
しかし自分は無防備に寝転がっており、相手は上からのぞき込んでいる。下手な動きをすれば今度こそ殺されるに違いない。バクバクと上がる心拍を抑えようと息を吸った。
「確かに送ったはずだが…。ん?この世界の魂ではないな。傷もふさがっている」
命乞いをしようと口を開けたところで気になることを言われた。傷がふさがっているということは、死にそうなわけではないのだろうか。そして魂?厨二病か何かか?
「お前、何者だ」
鮮血のような赤い目がぼんやり光ったような気がした。正直言って怖い。ジワリと目のふちからこぼれる感覚がした。
自分が直前何をしていたかも思い出せないし、そういえば名前も思い出せない。なんとなく学校に通っていたような記憶と、姉らしき人と喧嘩した記憶。
今この状況がどうして起きているのかも、どうしたら切り抜けられるのかもわからない。怖い。わからないことだらけの状態がこんなに怖いとは思わなかった。
涙があふれていく。ひゅっひゅと息を吸いながら泣く自分の頭に、美人が手を伸ばしてきた。ああ、殺される、と目をぎゅっとつぶれば優しい声が頭上から降ってきた。
「すまない。怖くないぞ、よしよし」
頭をなでてくれているらしい。どこかぎこちない動きに、ぼんやりと姉の顔を思い出した。記憶が不明瞭でなんとも気持ち悪い。
もしかして、自分に傷を負わせたやつとは別なのだろうか。ちょっとずれていても根はいい人なのかもしれない。
そっと目を開ければ美人は真顔であった。いや何故。美人の真顔は怖いというけれど、本当に怖い。下がりかけていた恐怖ゲージと心拍数がまた上がった。涙はもちろん止まらなかった。
それにしても、ずいぶん子供のような扱いをする。身じろいだところではたと気が付いた。自分の腕、記憶より短くないだろうか。
そろりと目線を下に、腕を上げればふくふくとした幼子の手があった。どうして。学校、おそらく高校に通うような年齢であったと思うのだけど、なぜこんな幼稚園生のような手に。
美人への返答も忘れ、頭の中をクエスチョンマークで埋め尽くしていれば、美人は合点がいったかのように「ああ」と声を上げた。
「お前はよその世界から魂のみの状態で浮遊し、迷いこみ、ちょうど死んだこの身体に入ったらしいな」
「ど、どういうこと、ですか」
「異世界、という言葉を聞いたことはあるか」
異世界。異世界転移。異世界転生。転生したら〇〇でした、なんて本が流行っていたような気がする。ということは。
「俺、元の世界で死んだってこと…?」
黒髪ではあるが、日本人にはありえない、恐ろしく彩度の高い赤い目。黒いローブを纏い、片手には背丈ほどの大鎌が携えられている。もしかしてこの美人、異世界の死神なのだろうか。ならば死ぬほどの大怪我を負ったこの身体の主のすぐ近くにいた理由が付く。
「さあな。生死の境をさまよっているだけかもしれん。だがどちらにしろお前をもとの世界に帰す術は持っていないんだ。すまない」
「そうですか…」
美人は声色こそ申し訳なさそうではあるが依然として真顔である。しかし受け答えから察するに自分を害そうという気はなさそうだ。簡単に殺せるからという線も捨てきれないが。いかんせん真顔で怖い。本心で話しているのかどうかさっぱりわからない。
自分は死んだのだろうか。生死の境をさまようにしても、それなりに大怪我をしたということだ。この身体の持ち主みたいに。自分はこれからどうしたらいいんだろう。帰れるのだろうか。そもそも帰りたいのだろうか。元の世界のことだってよく思い出せない。とめどなく不安があふれて、また目からしずくが落ちた。
「ふむ…。動物でも呼ぶか」
美人な死神が指笛を吹くと周りの草木から小鳥や猫っぽいのとか鹿っぽいのとかリスっぽいのとかウサギっぽいのとかスライムっぽいのが集まってきた。ぽいの、としか言えないのは額に角や宝石のようなものがついていたり、羽が生えているからだ。
なるほど、確かに『モンスター』より『ファンタジーな動物』のほうがしっくりくる。スライムに関しては両手より少し大きいぐらいの丸が動いているな、という感じ。恐ろしさを感じない。
それにしても、美人に動物が群がっていると夢の国のプリンセスみたいだ。服装は黒一色だけど。
とりあえず身体を起こし、額に宝石が付いたお猫様っぽいのに撫でてもいいかお伺いを立てることにする。俺は猫好きだ。多分。
「撫でてもいい?」
出した指をスンスン嗅いだ後に一舐め。許可してもらえたようだ。そっと喉元を撫でるとすり寄ってきたので両手を使って耳の裏や背中も撫でる。やはり異世界でもお猫様はかわいい。お猫様は正義。みゃぁんと鳴いて膝に前足をのせてきた。猫ちゃんかわいい~!とにまにましていたら、くすっと笑われた。
振り返ればあれだけ真顔だった美人が微笑んでこちらに手を差し伸べている。その破壊力たるや。
「坊、いくつか聞きたいことはあるが、まずは汚れを落とそう。ともに来てもらえるか」
そうだった。俺はなかなかに血みどろなんだった。
お猫様を汚すわけにもいかないし、泣きじゃくった俺をあやしてくれるぐらいだから、おそらくついて行っても殺されることはないだろう。
お猫様をしぶしぶ手放し、差し伸べられた手を取り立ち上がると、その流れのまま抱きかかえられた。
「いや!俺!歩けます!」
「この短い足で歩いていたら、日が暮れるどころか明日になってもたどり着かないだろうな」
ごもっともである。しかしこんなにしっかり抱きかかえられては、容姿端麗どころか人間離れした美人の服まで汚してしまう。上下ともに真っ黒なので血がついても目立たないだろうが。あれ、死神が黒い服なのって、そういう?
できる限り体を離そうと短い腕を突っ張ったが焼け石に水だった。
「ほら、飛ぶぞ。大人しくしていろ」
え、飛ぶ?と聞く間もなく浮遊感に襲われた。なんと美人は空中散歩をしている。異世界ってスゲー。考えることを放棄した俺は美人の腕の中で意識を失った。
「寝たか。生きた幼子の扱いなどわからんのだが…」
***
目を覚ますと、立派な大樹に寄り掛かるように座らされていた。あたりは広々としており、頭上には長い枝葉が覆いかぶさるように揺れている。葉の一枚一枚が発光しているようで、陰っているはずなのに明るい。
立ち上がり低い位置にある葉に触れると、不思議なことに触ったところがほんのりと温かくなった。
周りを見回しても見たことのない植物があるばかりで、ここに連れてきたであろう美人はおろか、動物の気配もない。いったいここはどこなのだろう。
汚れを落とすと言っていたのになぜ屋外なのか、と自分の身体を見下げれば、あんなに血みどろだった衣服は汚れ一つなかった。
「目が覚めたか」
「ヒィ!」
首をかしげていれば、真後ろから声を掛けられ飛び上がってしまった。いつのまに。
「すまない。驚かせてばかりだな」
「いえ、こちらこそ驚いてしまってすみません…」
「何か気になることでもあったか」
「あ、えっと、汚れがなくなっていたのが気になって」
何度も驚いてしまって申し訳ないが、音もなく近寄ってきたら誰だって吃驚するだろう。空中浮遊ができるわけだし、常に浮いているのかもしれない。そんなキャラクターが出てくる漫画があったような気がする。
「ああ、血の汚れなら私が消した。だがその服のままだとまずい。街に降りて服を買い、飯も済まそう」
消した、とは。やっぱり魔法とかあるのだろうか。何をどうしたのかも気になったけど、服を買うと言われ大事なことを思い出した。俺、無一文。
「あのっ!」
「金なら気にするな」
「あ、はい…」
言う前に断られてしまった。読心術でも使えるのだろうか。使えそうだな。
それよりお礼を言わなければならない。突然目の前でこの世界に来たとはいえ、こんな明らかな面倒事、捨て置くこともできたはずだから。なんならあの時持っていた得物で一思いに殺すことも可能だっただろう。
でもこの人は、泣き止まない俺をなだめ、助けようとしてくれている。自分のことばかりで、恩人に名前すら聞いていなかったなと反省した。
「あの、面倒かけてすみません、ありがとうございます。それと、お名前を聞いていませんでした」
「そういえば忘れていたな。私は創造主の御手より創られし一柱、」
「えっ」
「この世の生命すべてを管理する生命神だ。人々は私のことをアルモートと呼ぶ」
「…えっ、か、神様……!?」
「そんなに驚くことか?」
「いや確かに死神っぽいなとは思ってたけど、まさか本当に神様だなんて…」
神様に対して失礼なことをしていないだろうか。泣いて困らすし抱きかかえられるし、いや不可抗力だけど、と考えたところで「シニガミ?」と不思議そうな声色で呟く相変わらず真顔のアルモートに意識を引っ張られた。現在進行形で不敬だった。まずい。
「あの、その、アルモート様」
「アルでいい」
いやいやいやそれこそ不敬では。神様なのに名前を略すなんてしていいのだろうか。本人がいいならいい、のか?
「えっ、と、アル様?」
「アルでいい」
「…アル、さん」
「アル」
「………アル」
「ああ」
渋々呼び捨てにしてみればふわりと花が舞うような笑顔で返された。う、美しい……。
話し方から勝手に男性だと思っていたけど、よくよく見ると細く白く、まつ毛は長く、爪も綺麗に細長く整っていて、声が低めなだけの女性にも見える。神様だから性別なんてないのだろうか。とにかく美しさの権化という感じだ。視界を美で殴ってくる。
「あ、ええと、自分の名前は、ちょっと思い出せなくて…」
どうしよう、と悩んでいれば優しく頭をなでられた。
「なら私が、この世界での名を贈ろう」
頭に手をかざされると、どこからともなく風が吹きあがった。風は暖かく、枝葉が一層揺れ、葉から光が零れ落ち、光の粉が舞ったかのように辺りがキラキラと輝いて見えた。
「…ミカエル」
アルが名を呟いた途端、身体の奥から熱が込みあがってきた。不快感はなく、ただただ歓喜と感動に打ち震えるかのような。そして自分はミカエルなのだと、遥か昔からそう決まっていたのだと得心した。
高鳴った胸が落ち着き、熱と風が収まりふと顔を上げれば、相変わらず真顔のアル、ではなく焦った顔をしたアルがそこにいた。
何かまずかったんだろうか、と首をひねると同時に『ミカエル』という名に聞き覚えがあることに気が付いた。中学時代、そう、天使やら悪魔やらにハマる時期である。大天使、熾天使ミカエルと言えばもっとも偉大な天使の一人…!
「てっ、天使の名前じゃん!!?」
「テンシ…とやらは知らないが、どうやら私が名付けたことにより神の使徒となってしまったようだ。名付けなど初めてだったから知らなかった。すまない」
「え、えぇ…俺はいったい何をどうすれば…?」
神の使徒。要は天使のようなものだろう。使徒というからには何か果たさねばならない使命があるのでは。この世界のことを全くわからない自分に何かできるだろうか。
この尊きお方のためならば身を投げうってでもやらねば、という強い感情が生まれたことに気づいた。恩人ならぬ恩神とはいえ、この想いは行き過ぎているだろう。過激というか妄信的というか。使徒になった影響だろうか。
「ふむ。どうしたものか…。身体に何か不調や違和感はないか?」
「…特にないです」
「ならいい。何かあったら些細なことでも教えてくれ。それと敬語もいらない。気楽に話してほしい」
「わかりまし、わかった。気を付けるね、アル」
敬語を使いかけた途端、ほんの少し眉尻が下がったことが分かった。今まで真顔だと思っていた顔が、思い返せば僅かに表情が違って見える。有象無象にはわからないであろう微妙な差異。今この世界で俺だけがわかる優越感。これもきっと使徒になったせいだろう。
違和感がないと答えたのは、あながち嘘でもない。正しい、在るべき場所に戻ってきたかのような感覚。これを違和感として肯定してしまえば、きっとアルは俺を前の状態に戻そうとする。それはなんとなく嫌だった。
「とりあえず、この世界のことは後で教える。それよりも、街に降りて腹を満たそう。先程から小さな腹が必死に訴えているしな」
「うぅ恥ずかしい…でも確かにかなりお腹すいた…」
身体は小さいのに腹の虫の鳴き声は大きいらしい。気恥ずかしさを覚えながらも、正直この世界のご飯に興味津々である。
仕方がない、食の追及には余念がない国の生まれだもの。ラーメンやナポリタンなど、他国の料理は自分たちの舌に合うよう魔改造し、フグやコンニャクイモなど毒のある食材も調理法を工夫して何とか食べる。たとえ栄養がなくなってでも。なんでこんなことは覚えているのだろう。
「その身体の持ち主が生きていると知られるのはまずい。髪と瞳の色を変え、服も変えれば分からなくなるだろう。髪と瞳は私が変えてやれるが服はどうにもならんからな。買いに行こう」
「…この子は、一体どうして森の中で亡くなったの?」
「それは歩きながら話そう」
巨樹の広場の外側は水路で囲まれており、橋などは無いらしく、アルは俺を抱え水面を歩いて渡った。そしてその先は見渡す限りの木、木、木。どうやら緩く下りになっているらしいが、鬱蒼としていて遠くは見えない。あの光る巨木は山の頂点にあるようだ。
「この身体の元の持ち主、ライアンはある貴族の元に双子として生まれた」
アルは道なき道を軽やかに進みながら話し始めた。
「この大陸では双子は不吉を象徴する。と言っても実際何かあるわけではなく、創造神が定めた規則のうちの一つだ。理由は増えすぎてしまわないように、ということらしい。自然界で多産な生物は命を落としやすく、成長できる個体が少ないよう設計されている。人間は生き残る術が多彩で強力であるがゆえに、間引きという形でバランスをとっているんだ」
嫌な話だ。確かに、常に弱肉強食にさらされている動物と比べたら死ににくいかもしれないが、俺の中の人間の部分が非道だと恐れ嘆いている。
ちなみに使徒の部分は、御心を傷ませながらも規則を守り従う我が神尊い!と暴れまわっている。うーん慣れない。もうちょっと落ち着いてほしい。
「『双子は七つまでにどちらかを選ぶこと』が規則だが、双子が生まれることの珍しさも相まって、不吉の象徴であると広まってしまった。我が子可愛さに殺さず、秘密裏に孤児院に預ける者も少ないがいる。しかし不吉を恐れ、この『始まりの山』に殺して捨てる者がほとんどだ」
「それでこの子はここで亡くなったんだ…。始まりの山って何?」
「頂上に光る大樹があっただろう。あれは世界樹。神を含め、すべての生命を生み出し、死した魂を浄化する役割を持っている。生命の息吹はこの山から吹き始めるんだ」
輪廻転生の役割を担っているという所か。世界樹と聞くと体力が回復するイメージがある。現世ですり減った魂を回復しているのかもしれない。
「ライアンのそばにアルがいたのは世界樹に魂を送り届けてたってこと?」
「ああ。死んだ生物の魂は、基本的に自力で世界樹へ還ってくる。だがたまに、無意識のうちに死んだり、強い未練が残っていると正しく還れないことがあるんだ。そうした迷魂を世界樹へ送り届けるのが私の仕事だ」
「そうなんだ…」
「ほら、着いたぞ」
気が付けば山は降りきったようで、眼前には花畑が広がっていた。様々な種類はあるが全て赤い花で埋め尽くされており、圧巻の一言に尽きる。
花畑の中心には、つる薔薇で覆われていて見づらいが、丸い屋根の小さな白いガゼボがあった。目的地はそこらしく、アルは花の上をまっすぐ進んでいる。
「このガゼボはゲートになっているんだ。私しか使えない、街へ降りるための秘密の通路だ」
「俺に言ってよかったの」
「もちろん。お前なら、誰にも言わないだろう?」
そう言って人差し指を口元に当てふわりとほほ笑んだ。つまりアルと俺の二人だけの秘密ってやつですか。そうですか。ありがとうございます。ご褒美です。
いけない、使徒の自分が脳内ではしゃぎ倒している。表面にはおくびにも出さないが、正直嬉しくて仕方がない。これから先、どうなるか分からないのに大事な秘密を話してくれたのだ。信頼されている、それだけで何でもできそうだ。こんな小さい身体でできることはたかが知れているけれど。
でも、どうして出会ったばかりの俺にこんなに良くしてくれるんだろう。
「さあ、これをくぐれば街だ。髪と瞳の色を変えるぞ」
「うん!」
アルは自身の額に手を翳しスッと下におろせば、黒かった髪は明るいグレーに、赤い目はピーコックグリーンに変わっていた。何それかっこいい。ぼーっと見とれていれば「次はお前だ」と俺に同じ動作をした。視界の端に見える自分の髪がゴールドからグレーに変わる。もしかして、アルと同じ色だろうか。
「ほら、髪も目も、私と揃いだ」
お揃いだった。嬉しくて転げまわりたい気持ちをグッと抑えお礼を言う。この短時間で暴れまわっている感情にどうにか慣れないと、いつかぼろを出しそうで怖い。
「街に降り人と接すれば関係性を聞かれることもあるだろう。私は年の離れた姉弟が良いと思うんだが、どうだろうか」
「うん、それでいいと思う」
アルは一つ頷きガゼボに手のひらを向けた。突如ガゼボの中の空間が歪み、風景の色がすべて混ざり、貝殻の裏の輝きのような不思議な膜ができる。これがゲートなのだろう。
空間を転移するものだと思うけど、原理はわからない。アルが使っているのだから問題はないだろうが、もし一度分解して向こうで再構築するようなもので、向こうでバラバラ、あるいはぐちゃぐちゃになったりしたら…。
いや、よそう。アルが行けるというのだから行けるのだ、安全に。抱きかかえられたままなので、アルにしがみつき目を閉じた。怖いものは怖いのだから仕方がない。アルは微笑みながら頭をなでてくれた。
「ミカ、そんなに恐ろしいものではないぞ。さあ、街へ行こうか」
アルが一歩踏み出せばそよ風は止み、代わりに喧騒が耳に飛び込んできた。無事街についたのだ。
お読みくださりありがとうございます。
突如異世界転生したミカ。この世界の抱える問題、住人達の思想、創造神について……様々な謎と出会いがミカを待ち受けています。
一方アルには、何やら思惑があるようで…。
前半ほのぼの、後半シリアスな予定ですが、ハッピーエンドを目指します。もしかしたらメリバかもしれません。耐性無い方は、不穏な空気を感じたら逃げてください。自衛大事。
また作者の趣味により、今後ステキなお姉さんやかわいい女の子、男の子、褐色、獣人など様々な種族、人外がたくさん登場します。
twitterではイラストも描いていますので、良ければ見てやってください。
今後とも、ゆるりとお付き合いいただければと思います。