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愛情たっぷりの妹と、恋さえ知らない兄  作者: にとろ
妹の想い、兄の考え
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006:「部活」

「ねえ蓬莱、あんたやっぱり今年も部活入らないの?」


 そう真希が問いかけてくる。妹がいないしなんとなく雰囲気で名字呼びになっている。


「入るわけないじゃん、入ったら絶対()()()()がついてくるのが目に見えてるだろ」


 そう、雲雀は俺が部活に入っていないと聞くなり即帰宅部になる事を決めた。そう言う妹なので安易に部活に入ることは出来ない。男女別の体育会系に入ればいいじゃないかと言う声もありそうだが根っからの文化系人間にその選択はあまりにも厳しい。その上二年から入るなど不可能に近いだろう。


「妹さんに命かけてるわねえ……」


 聞き捨てならないことを真希が言うので俺は反論した。


「失礼だな、俺だって雲雀のために生きているわけじゃないぞ。あくまで今楽しく部活をやっている連中の人間関係が破綻しないように気をつかってるんだよ」


「はいはい、シスコンシスコン」


 やっぱり失礼な真希はもう放っておいて、俺は陰キャらしくスマホを弄る。インスタオンスなどという陽キャ御用達のアプリは使えないので適当につぶやいている。陽キャはお洒落な料理を映えるように撮るらしいが、そのSNSで映えるのは三郎系ラーメンのようなジャンク飯だ。お洒落など知ったことかというやさぐれた雰囲気が非常に心地よい。


「相変わらずねえ……スマホでおしゃべりしてて楽しい?」


「真希だってしてるだろうが」


「私がしているのは自己主張よ、対話は求めてないわ」


 スッパリ言い切る真希。クラスカースト上位と下位の発想の差だろうか?


 俺はつぶやきを中断して真希の方を見て見る。学校で制服を着ているというのに自撮りをしていた。アレをネットの海にアップロードするのかと思うと心の底が冷えてくる思いだ。ネットの民からすれば実名はともかく学校の特定くらいは余裕だろう、そんなことをまったく気にしていない様子なのが恐ろしかった。


「なあに蓬莱? はとが豆鉄砲を食らったような顔をして」


「いや……自撮りってそんなにしたいものかと思ってな」


「蓬莱のことも撮って欲しいの?」


「やめてくれ、俺は写真を撮られると魂を抜かれるんだよ」


「いつの時代の人間なのよあんた……」


「雲雀のやつもSNSやってんのかなあ……」


「検索してみればいいじゃない?」


「パンドラの箱を開けることになりそうな気がして怖いんだよ」


「チキンねえ……」


 しょうがないだろ、妹のアカウントで兄は死んで一人っ子ですとか書かれていたら立ち直れないぞ俺は!


「それにしても……以外ね」


「なにがだよ?」


 真希は訥々と語った。


「いやね、雲雀ちゃんとは出会って浅いけどSNSに見当たらないのよね。絶対あなたとの関係を匂わせたりとかしてるだろうと踏んだんだけどね」


「勝手に人の家庭の事情をガサ入れしないでくれ……」


 ネット社会怖いよ……自由に人の事情をエゴサ出来る社会って怖いな……


 俺はつぶやきを覗かれるのではないかと氷柱を背中に刺されるような思いがして閲覧に切り替える。皆よくよくネタが出てくるものだと感心させられる。俺の退屈な日々など需要はないんだろうな……


「ね、ねえ蓬莱……」


「なんだ?」


「良かったら私と一緒に撮ってあげてもいいわよ?」


「やだ」


「即答!?」


 だってなあ……


「お前その写真をアップロードするだろ?」


「それはまあ……せっかく撮ったんだし……」


「やめとくよ、自撮りをネットにアップするなんていう度胸は俺にはないよ」


「そこまで卑屈にならなくても……」


 なるよ、インターネットのダークサイドを見た人間は慎重になるんだよ……ネットって怖いんだからな……特定されたやつの悲劇がどんなものかも知らない怖さ知らずのニュービーには分からないんだろうけどさ。


「おっかしいなあ……雲雀ちゃんの性格からして絶対にSNSやってるとは思うんだけどなあ……」


「本当にあった怖い話をするのはやめてくれないか、アイツがSNSで暴れ回っている様なんて想像もしたくないんだ」


「重傷ね……」


 重傷とまでいわれてしまったが、実際雲雀がSNSを知れば水を得た魚のように好き放題に登校するのは想像に難くない、危険なやつに危険な道具を持たせるような度胸はない。


「お兄ちゃん」


「おおっふう!?」


「焦りすぎよ、蓬莱。何なら私が妹役をやってあげようか?」


 質の悪いイタズラだ。頭が雲雀と声が違うと言っていても脳髄の方が反応してしまう。俺は兄として生まれついてしまったときから妹には頭が上がらないようになってしまったのかもしれない。


「葵ってとことんシスコンね、本当、そういうところ治した方がいいと思うよ?」


 そう言って陽キャの集団に消えていく真希。俺はなんともいえないモヤモヤとしたものを抱えた中、スマホを取り出してクエスト周回を始めた。しかし雲雀のことを考えると俺の心の中で『いいのか? 妹にちょっかいを出すやつが出るぞ』という声がどうにも消えなかった。


 午前一限の現国の授業を受けながらなんとなくペラペラと教科書をめくる。中には教科書だというのに外国で作った恋人を捨てて日本に帰ってくる男との話などがあった。コレを教科書に載せるのか……とは思ったものの、昔の文豪なんぞクズが多かったことを考えると精一杯まともな言動をしていた連中を集めて作品を選んだのかもしれない。この作者が海軍で脚気を広めたのは忘れてはならない歴史だろう。


 そんな益体もないことを考えているうちに一限が終わった。相変わらず退屈な授業だが、その程度は我慢しないとこの国で正常な生き方が出来ない。正常な生き方などという得体の知れないものを恐れるものの、その型にハマっていれば間違いがないので安心だ。


 そして一限目が終わると数人が俺の所へ来た。


「蓬莱、この間教えてもらった攻略法がナーフされたんだがいい方法は無いか?」


「そうだな……ヘルズブルーなら今の環境はコレだな」


 俺はスマホを出してゲームを起動し、現在の正解策を見せる。現実もこんな簡単な正解があればどんなに楽だっただろうか。世の中はままならないものだな。


「お! オートで勝てるじゃん! さんきゅー」


「デイリークエストはこなしておけよー」


 俺は見送ったやつが無事攻略出来ることを祈りながら自分のスマホに向き直る。ゲームを閉じてニュースをチェックするもののこれといってめぼしい話題は無い。相変わらず承認欲求のお化けが自己満足なコメントを並べているだけのニュースだった。


 その中に一つ、新規でソシャゲがサービス開始をするという広告が出ていた。普段はそんなものを気にはしないのだが、なんとなく好みの絵柄だったのでタップしてみた。どうやらブラウザのクリッカーゲームのようだ。暇つぶしにはもってこいだな。


 画面をひたすらタップしながら、雲雀が美味くクラスになじめているかと心配になってきた。アイツのことだからなんとかやっていくのだろうが心配なものは心配だ、コレも一つのシスコンなのだろうか?


 それでも入学してしばらくの間くらいはシスコンでいてやるか……アイツがどんな考えを持っているのかは分からないが、俺の価値のない人生でもアイツの役に立てるならそれでも良い、そう思えた。

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