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愛情たっぷりの妹と、恋さえ知らない兄  作者: にとろ
妹の想い、兄の考え

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028:「時進」

「お兄ちゃん! 朝ご飯ですよ! 何を寝ているんですか」


「なんだよ……休みの日ぐらいゆっくり寝かせてくれよ。朝ご飯は自分で作ってるから急かされる覚えは無いぞ?」


 ちなみに今日の朝食は納豆ご飯、食べておけば死なない程度の栄養が手に入るものを目指している。


「まったくもう……せっかくのお休みだというのに……ご飯を作るのにも時間がかかるんですよ?」


「あれ」


 俺が指さした先には机の上にタワー状に積んであるカロリーブロックがある。それを食べていれば死ぬようなことは無いからな。


「お兄ちゃん……百歩譲ってご飯をアレで済ませるとして、隣に箱で買ってあるエナドリが気になるんですがね、まさかそれで朝食を済ませるつもりはないですよね? 死にますよ、マジで」


 真剣な声音でそう言う。どうやら雲雀にとって食事をカロリーブロックで済ませることは許せても、飲み物をエナドリで済ませることは許すつもりは無いようだ。


「分かったよ、起きるから朝の一本を飲ませてくれ」


「お兄ちゃん……エナドリに頼る癖やめた方がいいと思いますよ?」


「しょうがないだろ、昨日ソシャゲの周回してからサーバの管理してて夜更かししたんだよ……」


 緊急の脆弱性を休日前に発表するのはやめて欲しい。お前らの国と違ってこちらは翌日が休日なんだよ。


「まったくもう……言い訳は軟弱者のすることですよ! 私は昨日お兄ちゃんの部屋との壁にコップを当てて夜更かししてましたが元気でしょう!」


「え……何やってんのお前……」


 何をナチュラルに盗聴宣言してるんだ。本気でそんなものが許されると思っているのか? しかもそれを誇っているように言うところが普通に恐ろしいな。俺相手なら何をやっても許されるとか思ってないか?


「何を引いてるんですか! 朝食をエナドリにしようとしていた人にドン引きされるような行為ではないですよ!」


「いや……普通に引くだろ? え……お前はエナドリに親でも殺されたのか?」


「私とお兄ちゃんの親は一緒なんだからそんなわけないでしょうが……」


 それもそうだな、しかしああ言えばこう言うやつだ。俺は学校で数少ない役目であるソシャゲの解説という貴重な義務のために時間を使っていたんだぞ? それの何が悪いと言うんだ。


「まあいいです、朝ご飯は炊けているので一緒に食べましょう。納豆もありますよ」


「分かったよ……分かったから俺の上から降りてくれ。マウントポジションを取られていると起きられん」


「あ……はい……」


 顔を赤らめているが、それ以前の盗聴宣言の方がよほど恥ずかしがる事件のような気がするぞ。コイツ小学校から俺と同じ学校に通っているよな? 人のことを言えたわけではないが道徳の授業中は全部寝ていたのではないだろうか?


 そうして俺の上から降りてくれたのでベッドから起き上がって朝食を食べに行く。納豆ご飯が食べられるのは悪くない。


「お兄ちゃん! 今日のお味噌汁は私が作ったんですよ?」


 なんだそれを食べさせたかったのか。鍋には味噌汁が湯気を立てている。ゴミ箱の蓋からちょこんと出ているインスタント味噌汁の空容器は見なかったことにするのが優しさというものだろう。


 納豆のパックとご飯はもうよそってあったので納豆をかき混ぜてご飯と混ぜる。追い醤油をして混ぜたところで雲雀から文句がついた。


「お兄ちゃん、納豆にはちゃんとタレがついているんですからそれだけで我慢しましょうよ? 血圧が上がっちゃいますよ?」


「健康を気にする人間がエナドリを箱買いすると思うのか?」


 俺は自分の健康など気にしていない。長生きすることにどれほどの価値が有るのかも分からない。長生きしたいというお気持ちを否定する気はないが俺は賛同できないというだけだ。


「今のお兄ちゃんを見てると私より早死にしそうで不安なんですよね……」


 どれだけ将来のことを言ってるんだ、俺は呆れながら励ます。


「俺の方が先に生まれたんだから先に死ぬに決まってんだろ。そんなくだらないこと気にするなよ」


 そう言うと、それを聞いた雲雀は涙目になった。


「嫌ですよぅ……お兄ちゃんは私よりあとで死んでもらわないと私が死ぬときたった一人になっちゃうじゃないですか! 私は自然の摂理くらいはねじ曲げるだけの力はあると思っていますよ!」


 自称神のような宣言をする雲雀に呆れながら俺は納豆ご飯をかき込んだ。人生いつ死ぬかなんて考えるだけ無駄なことだ。そういえば……


「父さんと母さんは今日もデートか?」


「そうですね、だから今日は家に二人きりですよ! 興奮しますねえ!」


「買い物に出かけようと言っていたやつとは思えない言動だな」


 引きこもるのか遊び歩くのかはっきりして欲しいものだ。俺なら休日に家に誰もいなければ精神修行の如くあれやこれやを飲むところだが、いくら全年齢対応と言っても雲雀にそんなことを付き合わせるわけにはいかない、そう言う退廃的な行為は一人きりでするものだと思っている。


 そんなことを考えていると朝食を食べ終わった。味噌汁は……うん、美味しかったよ、インスタントだから誰が作っても一緒だろうという部分を無視すれば美味しい味噌汁だった。


「今日は何をしましょうかね……映画? でも最近は大作も出てないですしねえ……」


 ちなみに映画館に行くので一日仕事なので複数本の映画を映画館で一日に見るようなことはほぼできない。朝一に見に行ってシネコンの入っているショッピングモールで昼飯を食べてそのあともう一本見ることくらいはできるが、時刻はもうすでに九時を回っている。一番長いシネコンまでの移動時間を考えたら終電までに間に合わないのは明らかだ。


「今からどこかに行こうと思うともう時間が無いぞ、少なくとも汽車に乗るのは諦めるんだな」


「お兄ちゃんが朝一で起きてくれれば楽しめたのに……」


「無茶を言うな、休日まで誰も彼もが寝ているような時間に起きられるわけないだろう」


 朝一と言うことは六時台の汽車に乗れる時間ということだろう。いくら俺が外出するのに身なりに気をつかわないにしても五時台には起きないと間に合わない。一般人にそんな朝早くから起きている人が多いはずもない。


 あるいは東京のように朝早くから電車が走っていて終電も夜遅いというのならいくらかなんとかなっただろうが、田舎の赤字路線に充実のダイヤを求めるのは無謀だろう。


「むぅ……お兄ちゃんは私と一緒に遊びたくないんですか?」


 そう問いかけられるのにも慣れている。


「俺はいつだって遊びほうけたいと思いながら過ごしているぞ。学校だって嫌々通っているだけだしな。宝くじの一等が当たったら即ニートになるくらいには遊びたいと思っているぞ」


「私が聞きたいのはそう言うことではなくてですね……まあいいです、今からできることを楽しみましょうか」


 そうして俺たちは朝食を片付けた。その時にどこまで雲雀が関わったのかは分からないが……


「朝ご飯、美味しかったぞ、ありがとな」


「ふへへ」


 こうして朝食を済ませた俺たちは、高校生らしい遊びをこの田舎で必死に探す雲雀に付き合うことになるようだった。

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