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愛情たっぷりの妹と、恋さえ知らない兄  作者: にとろ
妹の想い、兄の考え

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025:「買物」

「お兄ちゃん……何故人は知育菓子に惹かれるんでしょうね?」


 雲雀が水を入れて混ぜるとグミになるお菓子のパックを手に取って、深遠な疑問を呈している。知らんがな……とはいえ俺も昔は楽しみながら作ったものだ。何故ああも楽しめたのか分からないが、あるいはアレが料理の楽しさというものなのかもしれない。


「分からん、ただあのケミカルさが子供の心に刺さるんじゃないか?」


「そういうものなんですかねえ……ところでお兄ちゃん、カレーは牛肉と豚肉、どっちがいいですか?」


「そうだな……」


 俺は少し悩んだ。何しろ雲雀の財布から出すと言っているんだ。ここで牛肉と答えれば躊躇なく牛肉を雲雀は買うだろう。それはなんだか申し訳ない気がした。


「豚肉かな」


「そうですか、牛肉にしておきますね」


「人の話聞いてた!?」


 妹はやれやれと言った風に答える。


「お兄ちゃんが気をつかってくれるのは嬉しいですがね、お兄ちゃんの好みのものを作ろうってのに気をつかわれたら私の百パーセントの力が出せないじゃないですか!」


 真面目に怒っていた。どうやら気をつかったのが裏目に出たようだ。だって妹の財布具合が気になるじゃないか。財布事情を無視してクソ高い和牛をかってなんて頼めるのは真性のヒモかとんでもない金持ちだけだろう。


「お兄ちゃんは私に心を読まれたと思っているかもしれませんがね、顔に書いてありますよ? そんな分かりやすいお兄ちゃんが嘘をつけるはずがないでしょう」


 どうやら俺は分かりやすいそうだ。おかしいな、顔に出してなどいなかったはずだが……やはり、家族として一緒に暮らした年月のせいだろうか? 長年一緒に暮らしてきたから読心術に近いものを覚えたのかもしれないな。こわい。


「カレーは辛口でいいですよね? デスソースは要りますか?」


「いや……さすがにそれは要らない。ってかデスソース売ってるのか?」


 ひょいと雲雀は棚の一角を指さす。そこには確かに髑髏のマークのついたデスソースが置いてあった。何でこのスーパーはこんなものを置いてるんだ、サブカル系本屋で売っているようなものだろうに、明らかに浮いているぞ。


「お兄ちゃんは辛いのが好きかと思ったんですがね」


「辛いのは嫌いじゃないが限度ってものがあるだろ。昔ペッパーソース感覚でデスソースかけたカレーを食べて地獄を見たんだよ」


 明らかにアレは人間が食べられる限界に挑戦しているようなカレーだった。今思い出しても恐ろしいものだと思う。舌がしびれるような辛さだったので食べたあとしばらく舌が痛かったんだよな。


「というか雲雀こそデスソースなんてかけて食べられるのか? アレは正気とは思えない辛さだぞ?」


「お兄ちゃんが昔買っていたものを試しに使ってみましたが大したことなかったですよ」


 何この妹!? アレを平気な顔をして食ったというのか!? 明らかに人間業ではないと思う。妹の辛さ体制はすごいものがあるな。そんなことを考えていると雲雀はデスソースをカゴに入れた。


「使うのか?」


「お兄ちゃんの好みに合わないものは作りませんよ、ただお兄ちゃんが辛さを欲したときに用意出来ていると便利だなと思いまして。これでもアクセント程度に使うなら美味しいんですよ?」


「そうかい、どこまで薄めれば平気になるのか知らんが加減して使ってくれよ」


「もっちろんですよ!」


 自信満々に言う雲雀。料理上手なので心配は要らないか。しかし本当に慎重に使用して欲しいと心から思うぞ。


 そして俺たちは野菜コーナーに向かった。


「お兄ちゃんはニンジンはセーフですよね?」


「ん? ああ、普通に食べられるぞ」


「その割に理想の食事は肉なんですね……」


「それはそれとして俺は出された料理は残さない主義なんだよ」


 食べ物を粗末にするのはダメ絶対。それはそれとして食べられる料理を出して欲しいとは思うな。ただし美味しい料理を一発でダメにするような危険性のある調味料には気をつけて欲しい。


「お兄ちゃんの好みに合わせないと食べてもらえないかと思ったんですけどそうでもないようですね。じゃあジャガイモと玉ねぎも入れて構いませんね」


「ああ、どっちも嫌いじゃないよ。ジャガイモとか野菜なのにフライドポテトにすると美味しいし……」


「お兄ちゃん……穀物って概念を知ってますか?」


 残念なものを見るような視線が雲雀から向けられた。ジャガイモって野菜じゃないの!?


「お兄ちゃんには要教育みたいですね……というか小学校で野菜と穀類の違いを習いませんでしたか?」


「俺は実用的な教科以外は綺麗さっぱり忘れることにしていたからな」


 道徳の勉強が日常生活に役に立ったことが無いように、意義の無い教科が小学校には多すぎる。


「あとはカレールーですね、辛口で問題無いですよね?」


「ああ、しかし雲雀の方は辛口でいいのか? 俺は辛口でも甘口でも食べられるが雲雀は違うだろう?」


 雲雀が作るんだから好きなものを選ぶ権利がある。だから甘口が出たとしても文句を言うつもりはない。


「お兄ちゃんの好みに合わせたいんですよ。お兄ちゃんだって私と好みが一緒だと嬉しいでしょう?」


「俺は雲雀が欲しいものが食べられる生活を送れるといいなと思うぞ」


「っ……お兄ちゃんは天然でそういうことを言うからズルいんですよ……」


「なんだよズルいって?」


「なんでもないです! じゃあカレールーはこれでいいですね? 早く会計を済ませますよ」


「おう」


 こうして俺たちはレジに並んで精算を済ませた。俺が買い物袋を持って家への道を歩く。隣で楽しげにしている雲雀を見て少し気分が良くなった。


「ねえお兄ちゃん、カレーは期待しておいてくださいね?」


「ああ、たっぷり期待しているよ、雲雀は料理の腕は確かだからな」


 コイツ、時々趣味で料理を作っていたが結構な味がしたのを知っている。コイツは結構な完璧超人ではないかと思っている。ただし、恋人を作ろうと言うつもりはまるで無いようなので兄としては複雑な気分だったりもする。


「お兄ちゃん! 私の料理をずっとずっと食べてくださいね! 私の手料理を真っ先に食べるのはお兄ちゃんなんですからね!」


「はいはい、雲雀の手料理は信用してるからちゃんと食べるよ。だからデスソースは勘弁な?」


「分かりました。欲しくなったらいつでも言ってくださいね? 辛いものから甘いものまで、私がしっかり手料理をつくってあげますからね!」


「ああ、欲しくなったら言うよ」


「さて、家もそろそろですし、私が手料理を振る舞うチャンスですね。父さんも母さんもいませんし、お兄ちゃんが一番に私の料理を食べられますよ! 期待しててくださいよ」


 そう言って俺から買い物袋を取って家の鍵を開け中に入った。キッチンにダッシュしたのでなかなか気合いの入った料理が期待出来そうだった。

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