表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛情たっぷりの妹と、恋さえ知らない兄  作者: にとろ
妹の想い、兄の考え

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/32

019:「閑々」

 キーンコーン


 昼休みのチャイムが鳴った。ようやく退屈な授業が一段落つき、俺のような陰キャにとってはあまり愉快ではない時間になる。俺は鞄から買いだめしておいたカロリーブロックを取り出して袋を開けようとした、そこで教室に声が響いた。


「お兄ちゃん! 一緒にお昼ご飯を食べましょう!」


 我が妹の登場である。来るとは思っていたが、手にはカロリーブロックが握られている。どうやらしっかりと俺に合わせた食事をするようだ。


「一緒に食べていいですよね? ね?」


 やれやれ、断る理由はいくらでもあるが、カロリーブロックなら感想を求められることもないだろうし、すぐに食べ終わってしまうだろう。ならまあいいとするか。


「分かったよ、食べたら教室に帰れよ?」


「えー……お兄ちゃんとお話をするのがメインじゃないですか、分かってるくせに!」


 知っているからそう言ったのだが、ご丁寧にその意見は無視するようだ。かくして俺の昼休みが潰れることが確定した。俺には平和はやってこないようだ。


「お兄ちゃんはカロリーブロックの何味を買ったんですか?」


「チョコ、これが一番甘いからな」


「お兄ちゃんの性格くらい甘いんですか?」


「少なくともお前ほど辛辣じゃないよ」


「ちなみに雲雀は何を買ったんだ?」


 ふっふっふと笑ってからカロリーブロックの箱を俺に見せた。


「バニラか……期間限定なんだっけ?」


「どうでしょうね、売れれば定番になりそうな気がするんですが」


 俺は内袋を開けてかじる。口の中の水分を全部吸われるのじゃないかという勢いで口中がパッサパサになる。ジュースのブリックパックと交互に口に入れながら一個目を食べ終わった。雲雀の方も一個目は食べ終わったようだが水分を用意していなかったのか渋い顔をしている。


 しょうがないので鞄からオレンジジュースのパックを取りだして渡す。雲雀はすぐにそれにストローを突き刺し吸った。


「はぁ! お兄ちゃんは知ってましたね? こういう食べ物ならあらかじめ注意してくださいよ」


「いや、こういう食べ物なのは知っているけどお前が買っていることまでは知らんよ。次からゼリーにしたらどうだ? あっちは水がいらないぞ」


 栄養的にはそう変わらないから問題無いと思うのだが。そもそも栄養を考えるなら手料理だな、俺は長生きにこだわらないのでジャンクフードで十分だ。


「うぅ……カロリーゼリーにしておくべきでしたか……お兄ちゃんと揃えようと思ったのが裏目に出ました……」


「何で俺に合わせようとするんだよ……」


 わけが分からん、俺に合わせる意味ある? 好きなもの食べればいいじゃん。


「お兄ちゃん、毎日こんなものを食べてたんですか? 私の手料理の方が百倍美味しいですよ」


「人は高いんだよ、これなら購入するだけで工数ほぼゼロじゃん」


「料理に工数とか持ち出す人初めて見ましたよ……」


 だって簡単なんだからしょうがないじゃん。


 そこへ真希が割って入ってきた。


「雲雀ちゃん、良かったらこれどうぞ」


 そう言ってレモンティーのペットボトルを俺の机に置いた。


「真希さん……さすがに今回はお礼を言っておきます、ありがと……」


「殊勝な雲雀ちゃんとか気味が悪いよ」


 地味に失礼なことを言って真希はいつもの友人達のもとへと歩いて行った。アイツにはアイツの付き合いがある。俺たちに深く関わるつもりもないのだろうが心遣いには感謝したかった。


「雲雀、ちゃんと感謝出来るんだな」


「お兄ちゃんは私を舐めていませんか? 助けてくれたら感謝くらいしますよ」


「そりゃあ悪かった、お前はよくできた妹だもんな」


「そうですとも!」


 そう自信を持てるのはなかなか羨ましかった。どこからその自信が出てくるのかは分からないが、決して悪いものではないのだろう。


「ところでカロリーブロックは美味しいか?」


 雲雀の料理の腕から言って不満を持つであろうレベルであることは分かっている。コイツは結構料理が美味いので、栄養を最低限摂取することが目的のカロリーブロックでは不満が出るだろう。


「うーん……確かに味は微妙なんですけど……お兄ちゃんと同じものを食べていると思うと美味しく感じられますね!」


「理解は出来んが満足しているなら何よりだよ」


 同じものを食べているからなんだというのか? 雲雀の考えというのは理解の範疇の外にあるようだ。もっとも、『俺は雲雀ではない』という時点で理解出来ないのは当然なのかもしれない。世の中なんて分かった気になった連中で動いているのだから実際に理解する事などそもそも不要なのかもしれないな。


「お兄ちゃん、一つ交換しませんか? 私、チョコの方も食べてみたいんですけど」


「別に構わないぞ」


「ではバニラをどうぞ」


「ほら、これがチョコだ」


 俺はバニラを受け取りかじってみる。甘ったるいアイスのような味がした。これで健康食品の類いに分類されるのだから世の中は分からないな。


「チョコはちゃんと色が違うんですね」


「まあそりゃ、チョコの味がするんだから当然だろ」


 雲雀がチョコ味のブロックをかじると恍惚とした表情になった。


「お兄ちゃんとお弁当の交換……嬉しいですねえ……」


 少なくとも俺が渡したものは大量生産されている製品であって弁当などと言う高尚なものではないと思うのだが、雲雀の中ではそうではないらしい。


「物好きだなぁ……」


「お兄ちゃんと一緒ならなんだって美味しいんですよ。一緒に食べられるなら百円のハンバーガーだって私にとっては美味しいんです!」


 まったく……俺ももう少し食生活に気をつかった方がいいのかもしれないな。でないと妹の食事がみすぼらしくなってしまう。そう考えると俺の責任はそれなりに重要なようだ。


 妹と食事というのは思うようにはいかないものだ。明日からおむすびでも買うことにしようかな……コスパで言えばカロリーブロックの方が上なんだがなあ……


 食事の悩みは尽きないものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ