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愛情たっぷりの妹と、恋さえ知らない兄  作者: にとろ
妹の想い、兄の考え

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017:「休養」

「ふぅ……徹夜で本を読むとか久ぶりだな」


 結局、雲雀の選んだ本を読んでいると夜が明けてしまった。意外と面白いものが多かったのだ、だからしょうがない。


「お兄ちゃん! 朝ご飯が出来てますよ!」


「分かった、今行く」


 ドアの外からかけられた声に答えて俺はキッチンに向かう、父さんと母さんもそこにいた。休日だからだろうのんびりしているのだが、俺は気にせず朝食を食べることにした。


「早く食べちゃいなさい」


 俺は言われるがままホットドッグを食べて『ごちそうさま』といって部屋に戻った。今日はソシャゲをプレイしようと思っている。昨日雲雀から買ってもらったラノベはなかなか面白かったのだが、調べてみるとソシャゲ化していることを知ったので昨日インストールして本を読みながらアセットのダウンロードを進めて置いたものがある。


 さて、起動してみるかな……


 起動させると今時の人気声優がゲームタイトルを呼んでゲームが始まった。ゲーム自体は至ってシンプルなガチャで強いキャラを引いて敵を倒していく至極シンプルなものになっている。PvP要素がないので今から始めても問題無くプレイ出来る。初日勢以外と明らかな差が出るようなゲームではない。


「お兄ちゃん? 部屋に入っていいですか?」


「ああ、構わないぞ」


 そう言っておかないと強引に突入してくることを知っている俺はそう答えた。今さら雲雀に見られて困るものも無いしな。


「お邪魔しまーす! 本は読んでくれましたか?」


「ああ、敬遠してたけどなかなか面白いな」


 その反応に雲雀は深く頷いていた。満足のいく答えだったらしい、妹との会話は探り探りに正解の答えを探さなければならない、面倒な奴ではあるのだが妹というのは一生続く関係だからな、無碍には出来ない。


「でしょう! お兄ちゃんは妹の尊さがよく分かりましたね!」


 それはどうなんだろうか……妹の雲雀は大事な家族だし、それを否定する気はないのだけれど尊さとは何か違う気がする。敢えて言葉にするなら家族愛というのが適切ではないだろうか? 俺の方は雲雀に嫌われてるんじゃないかと思うくらい信頼は出来ていないのだがなあ。


「お兄ちゃん……? まだこれでも妹の良さが分かりませんでしたか? ならもっとディープなシリーズものを……」


「いやあ! 妹って最高だな! 魅力が良く分かったよ、だから追加の必要は無いぞ」


 時間は有限だ、そんなに妹ものの本を読むのに使えない。いろんなジャンルの本を読みたいからな。あと俺の部屋の本棚にシリーズものを入れるほどの余裕はない、電子書籍ならともかく紙の本で置いておくといい加減置き場がないんだ。


「なるほどなるほど、お兄ちゃんも妹のありがたみが分かってきたようですね! 私の魅力にも気がつきませんか?」


「魅力……?」


 雲雀の魅力? 突然そんなことを言われても思いつかないぞ。胸が大きいこととか、いや普通にセクハラだな……


「なんで疑問形なんですか! まるで私の魅力に疑問があるようじゃないですか! そこは『愛しているよ』くらい言う甲斐性はないんですか?」


「無茶を言うなよ、それは甲斐性というのか? あとそうやって言論誘導してその台詞を言わせて嬉しいのか?」


「嬉しいですよ! 金の力だろうが何だろうが、お兄ちゃんに望みの台詞を言わせるのは嬉しいですね」


 断言する雲雀、お前は本当にそれでいいのか? 兄としては真っ当な生き方をしてほしいものだがどうやら自由すぎる発想をしているらしい。金の力を信じて疑わないあたり人格が歪んでいるんじゃないだろうか?


「お兄ちゃん、『愛しているよ』って言ってくれたら密林ギフト券をあげますよ」


 買収じゃねえか! そんなことに釣られるわけが……


「アイシテイルヨ」


 はっ!? カードを見せられて思わず本能的に言ってしまった……


「はい、どうぞ。お兄ちゃんはお金に素直でいいですねえ、可愛いですよ」


 どこがだよ……金に汚いクズみたいじゃないか。俺はそこまで落ちていないと思いたいのだが……否定出来ないのが非常に悲しい。俺の手にはもうすでに裏面のスクラッチを剥がしていないギフト券が握られている。なんだか人間として問題があるような気がしてきた。妹相手に金をせびる兄ってどうなのだろう? 親のすねをかじる人間はたくさんいるらしいが妹のすねをかじる兄は……


「お兄ちゃん? 深く考えたら負けですよ。素直にその券でなにを買えるか考えた方がいいですよ」


「お前はそれで満足なのか? 俺を買収して何の得があるんだ?」


 雲雀は分かってないなあと首を振って言う。


「私は『形だけでも』お兄ちゃんを欲しているのですよ、そこに心が無いとしてもお兄ちゃんを求めることに違いはありません」


 雲雀ははっきりとそう言う。驚くほどにためらいがない。心が通じていなくてもいいと断言する雲雀の心は理解出来ない。やはりコイツとはわかり合えないのだろうか?


 妹というのは家族の中でも近しい存在であるが、考えが似ているかどうかは別問題のようだ。


「お兄ちゃん、いいですか? 妹モノというのは全盛期に比べ減りつつあるわけです。お兄ちゃんならそのカードを貴重な文化遺産を残すために使ってくれると信じていますよ」


 貴重な文化遺産って……妙にこだわりのあるやつだな。理解の範疇の外にいるやつだ。発想が自由すぎるぞ。


「一応聞いておくが残高は自由に使っていいんだよな?」


「もちろんじゃないですか! 私がお兄ちゃんを信じているだけですよ」


 断言されると俺も雲雀の言うことを無視出来ない。いや、実妹モノを趣味で購入するわけではないにせよ、このカードで一冊なりにも妹モノの漫画やらラノベを買った方がいいのかもしれない、そう考えてしまう時点で雲雀の思想に毒されているのだろうか?


「分かったよ、何かピンと来るものがあったら買っとく、それで文句は無いな?」


「そうです、それでいいのです……お兄ちゃんを妹沼に沈められそうですね」


 沼るという表現は聞くが妹沼なんて怪しげなものは聞いたことが無い。世の中の性癖の多さには敬服するばかりだ。


「ところでさ、なんでお前と真希が険悪な雰囲気になってたの? 普通に友達になれるかと思ってたんだけど」


「はぁ~~~~~~~…………」


 思い切りため息をつく雲雀、なんかおかしな事を訊いただろうか?


「お兄ちゃんが分かってないのは知ってますけどね、もう少し勘が良くなってくれればなって思うときがありますよ」


「なんの話……?」


「そういうとこですよ」


「え? 何の事?」


「こればっかりはお兄ちゃんに考えて貰うしかないですね、それではごゆっくり」


 そう言ってさっさと俺の部屋を出て行く雲雀、俺は一体何について考えればいいのだろうか?


 俺はどういう反応が正解だったか考えてみたものの、一向に答えは出ないのだった。

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