6、虹宮家の過去
.....。
その日の放課後の(結構待っていた様だが)鈴香と帰っていた。
鈴香はすっかり俺と打ち解けている。
因みだが鈴香じゃなくて鈴の方は部活をやっている。
その為に俺と鈴香しか居ない。
「先輩。.....やっぱり先輩と一緒は楽しいです」
「.....そうだな。.....俺もまあ昔よりかは遥かに楽しい」
「.....そう言ってくれるんですか?えへへ。嬉しいな」
鈴香は言いながら恥じらう。
俺はその姿を苦笑気味に見ながら空を見上げてから。
そういえば、と鈴香に聞く。
何で俺を好きになったんだ?、と。
すると鈴香は、え?話してませんでしたっけ?、と目を丸くする。
「.....そうだな。聞いてない」
「私が先輩を好きになった理由。.....それは先輩が勇敢だったから、です」
「勇敢ってどういう事だ?意味が分からない」
「先輩。覚えてないですか。.....私が中学生だった時に.....貴方が痴漢から私を助けてくれた事」
「.....?.....その時の女子がお前だったのか!?」
「.....そうです。あの日から私は貴方が好きになりました」
だけどこの有難うの想いを伝えれなくて.....私は小馬鹿にしてしまっていました。
先輩の事を何も知らないゴミクズの様に、です。
と言いながら悲しげな顔をする鈴香。
俺はその姿を見ながら目の前を見る。
「.....私は知っていたのに知らなかった。.....貴方の気持ちを.....。だって.....私だって祖父と祖母に育てられているのに。.....そんな事も.....分からなかったんですから」
「.....そうなのか?」
「私は母を持病で亡くしました。.....そして父親は孤独死で亡くしました。.....だから私達は孤独でした。そんな事も知らなかった。私は大馬鹿者ですね。.....昔の事を再燃させるつもりだったのでしょう」
「.....孤独死って?」
父親が何時も博打をしていて嫌いでした。.....だから母親ばかり構っていたのですが。父親はいつの間にか博打をやめていて何時の間にか真面目だったんです。私と鈴お姉ちゃんの為に真面目に働いてお金を貯めていたんです。.....その名義の2000万円程の通帳が出てきました、と言ってくれた。
だけど気が付いた時には既に父は心臓麻痺で孤独死していました。
私が馬鹿だったんです。
頻繁に会えば連絡を取れれば。
こんな事にならなかった、と話す。
「それはお前が悪いとは思えない」
「.....でも.....」
「.....でも親父さんの事。少しだけでも思ってほしい。それは」
「.....先輩.....優しいですね。昔から何も変わらないです」
「.....命を背負って生きるのは大変だよな」
先輩。そんな優しい先輩が好きです、と言ってくる鈴香。
俺はその言葉に少しだけ頬を掻く。
そして誤魔化しながら、全くな、と苦笑する。
それから夕焼けの空の下、歩く。
「先輩の気持ち。少しだけでも理解出来る様になります」
「.....その必要は無いんじゃないか。今理解しているし」
「.....ダメですね。まだまだです。.....だから先輩。.....何時かデートして下さい」
「いや。それとこれって関係あるか?」
「あります。重要ですよ?アハハ」
言いながら鈴香は笑顔を浮かべる。
そして駆け出して行ってから。
俺の前に立つ。
先輩は.....先輩らしく居て下さいね、と言いながら。
「.....何だそりゃ。先輩らしく?」
「私達は先輩を見守っています。何時でも何かあったら相談して下さいね。.....こんな身が言える立場じゃ無いですけど」
「.....そうか。.....有難うな」
「いえ。私は先輩が大好きですから」
「.....恥ずかしいんだけど?」
「恥ずかしく攻めますよ。これからもずっと」
満面の笑顔を浮かべながらニコッとする鈴香。
俺はその姿を見ながら溜息を吐きつつ笑みを浮かべた。
そして分かれ道に差し掛かり。
そのまま俺達は別れてから帰ると。
そこに.....飯島が門の前に居た。
「.....しずちゃん.....」
「.....」
「.....その.....」
「.....旗本から預かったものがある。.....俺はお前を見定めたい。.....だからお前のライブに行く」
「.....え?」
素っ頓狂な声を上げる飯島。
それから俺の持っているチケットを見て段々と嬉しそうな顔を見せる。
そして、分かった、と言いながら赤くなる。
俺はその姿に、飯島、と切り出す。
「.....何.....?」
「確認するが。.....浮気じゃ無いんだな?」
「.....うん」
「.....じゃあ大丈夫だ」
言いながら俺は門を開ける。
そして飯島を見る。
飯島はソワソワしながら、有難う、と言ってくる。
俺は、何もしてない、と言葉を発した。
「ただ旗本が頑張ったからな」
「.....うん!有難う.....!」
そして、じゃあまた明日.....ね!、と言いながら飯島は去る。
その姿を静かに見送ってから。
玄関を開けると笑みを浮かべた.....妹が。
俺を見ながら、それでこそお兄ちゃん、と言葉を発した。
「有難う!」
「.....どいつもコイツもに感謝されるが何もしてないからな」
そんな言葉を言いながら。
俺はチケットを見ながら.....そのまま前を見た。
仏壇を見つめる。
うん、と思いながら、だ。
.....。