11、内緒のデート
.....。
まあそこそこには良かったのではないだろうか。
思いつつ俺は飲み物を飲みながら屋上で空を見上げる。
そして息抜きをしていると。
雫、と声がした。
背後を見ると.....そこに鈴が立っている。
「どうしたんだ」
「いや。何をしているのかなって」
「見て分かる通りだな。.....息抜きをしている」
「そうなんだね」
そして横にやって来る鈴。
それから目の前を見ていた鈴は、ねえ。雫、と言ってくる。
俺は、何だ、と返事をする。
私って悪い事をした。貴方に、と言ってくる。
「だから何か色々と返したい」
「.....返したいってのはどういう意味だ?.....俺は特にそういう物を求めてないぞ」
「.....その。.....もし良かったら放課後に鈴香と別れた後に.....」
「.....?」
「付き合ってくれない?私に」
「それは構わない.....が?」
俺は赤くなりながら鈴を見る。
上目遣いの鈴を、だ。
そしてその赤いのを打ち消す様に空を見上げる。
すると鈴は、でも良い天気になったね、と言ってくる。
「そうだな。.....何というかこの前まで土砂降りだったしな」
「.....私.....その気持ちじゃなくて良かった」
「その気持ちじゃなくて良かったってのは?」
「.....貴方にずっと無視されるんじゃないかって思っていたから。.....私が悪いけど」
「.....」
言葉に少しだけ詰まる。
それから鈴を見た。
鈴は顔を上げながら、でも私は成長出来た気がする。全てにおいて、と笑顔になる。
俺はその姿に、そうか、と告げながら外を見た。
全くコイツは、と思いつつ。
「私は反省している。.....全部。.....君の気持ちを何も理解出来なかった事を」
「.....俺としてはお前の気持ちも理解出来なかった認識不足だ。.....だからお互い様って思い始めた」
「.....そう言ってくれるんだね。雫」
「そうだな.....」
そんな会話をしていると。
チャイムが鳴ってしまった。
俺は慌てながら、ヤバい!、と言う。
だが何故か横の鈴は慌ててないのだが。
それどころか俺に縋って来た.....。
「ねえ。授業サボっちゃおうか」
「.....あ?!」
「.....私ね。.....君と内緒のデートしたい」
「馬鹿言え!?いつかはこんなの見つかるぞ!?」
「私は構わない。.....それに.....私は君が好きだから」
「.....鈴.....」
そして鈴は俺を見ながらニコッとする。
俺はその姿に何とも言えず。
困ったな、と思ったが.....そのまま鈴の誘いに乗る事にした。
今日だけだぞ、と言いながら。
話もしたかったしな。
☆
「親父さんが2000万円遺していたって聞いたが」
「.....うん。そうだね。そのお陰で私はこの学校に通えてる」
「.....何というかご愁傷様だったな.....」
「そうだね.....でも最初は父さんが悪いんだから何も言えないけど」
排気口の影に隠れながらそう会話する俺達。
そして鈴は悲しげな顔をする。
俺はその姿を見ながら、俺達も保険があったんだ、と答える。
鈴は?を浮かべて俺を見てくる。
「.....その額が5000万円だった」
「.....ご両親が最後に遺してくれたんだね」
「.....ああ。万が一の時の為ってな。こっそり保険加入していたみたいだ」
「そうなんだね」
鈴は笑みを浮かべながら俺に寄り添ってくる。
何コレ?どういう状況?
俺は思いながら心臓をドキドキさせながら鈴の感触を感じる。
困ったな.....、と思う。
「私の父親も.....母親も。頑張ってくれた。.....だから感謝しかない」
「.....そうなんだな。その感謝をその。忘れない様にな」
「そうだね。.....私は今が幸せですって.....言いたい。とても幸せだよって」
「お、おう。.....それで良いんじゃないか」
そして俺の手に手を伸ばしてくる鈴。
赤くなりながら、だ。
俺はその事にビクッとなりながらも。
そのままで居た。
「何というか完全に悪い感じがする」
「そうだな.....というか完全に悪いと思うぞ.....サボってから不純異性交遊なんぞ.....!」
「エヘヘ。嬉しいな。.....何だか2人きりで邪魔されないって幸せ」
「そうか.....う、うん」
「妹にも.....君の幼馴染にも悪いけど。.....今だけは君を独占したい」
言いながら俺を見てくる鈴。
その顔はかなり赤くなっていた。
俺は頬を掻きながら、ま、まあその。そうなのか、と聞く。
すると鈴は話を続けた。
「2000万円はね。.....私と鈴香の幸せを願う為だけじゃないの」
「.....どういう意味だ?」
「遺された紙に、私のお婿さんとの.....幸せを願う、って書いてあった」
「.....!.....そ、それは.....」
「だから.....私の好きな人との幸せだね」
手を置いたまま笑顔を浮かべる鈴。
俺はその姿に赤面せざるを得なかった。
それから目の前を見ていると。
屋上のドアが開いた。
そして、この屋上で人影を見たって話ですが、という会話が聞こえてくる。
「.....!」
「.....!?」
何というか咄嗟に鈴を押し倒してしまった。
生徒指導室の先生から隠れる為に、だ。
鈴はみるみるうちに悲鳴でも上げたい感じで真っ赤になっていく。
俺は唇に人差し指を添えながら背後を見る。
「.....おかしいな?誰も居ないですね?」
「そうですね」
そして生徒指導室の先生は去って行く。
その去って行く姿を見ながら鈴を起き上がらせた。
鈴は、あ、有難う、と言ってくる。
その言葉に俺は曖昧な感じで、あ、ああ、と言った。
全く恥ずかしい。
「と、取り敢えず早く戻ろうか。授業終わったら」
「そ、そうだね」
そんな会話をしていると。
鈴が、有難うね。お話と.....一緒にサボってくれて、と笑みを浮かべる。
いやいや。お前が誘ったんだろ、と言うが。
でもこれで同罪だね、と小悪魔の様に笑う。
「エヘ、エヘヘ.....」
「.....やれやれ.....」
そして俺達はそのまま授業に戻る。
当然の事なれど担任の教師に怒られたが。
体調不良だった、と言い訳した。
納得した様だったが.....でも。
良い思い出が出来たんじゃなかろうか。
.....。