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オレは魔王。人間に告白しようと思っている。

作者: カンタロウ

 オレは今日、告白しようと思っている!!


 ……と生き込んだのはいいものの、心が折れそうになっていた。

 今日と言う1日は、まさに波乱で仕方がない。ずーと戦って、戦って、戦って、やっと気が休めるかと思えば、気付けば太陽が沈んでいた。正直、何も準備ができていない。一応、部下に任せて料理や庭の手入れ、魔王城の掃除などをしてくれたが、本来であれば自分でしたかった。



 だって、好きな人に


「魔王城、綺麗ですね」と言われ、


「そうなんです。自分1人でしました」



 と、言えたら褒められること間違え無し。

 ……まぁ褒められるとはわからないけど、それでも多少プラスになるはず。人間界では身の回りのことができると良い、なんて聞いたからだ。

 そういうことで、掃除、洗濯、料理をしようと思った――にもかかわらず、勇者たち。どうして、こうもタイミングが悪いのか。


 そういえば、と思い当たる節もあった。勇者というのは、まぁ一言で言えば傲慢だ。おまけに自分勝手でわがままだから魔王であるオレの気持ちをまっっっったく理解してくれない。そのくせして、偉そうに――



「この世界は、おれたちが救う!!」



 だってさ。

 意味が分からない。どうして魔王であるオレの日常を考えずに攻めてきて、そんな偉そうな口が利けるのか不思議でたまらない。

 


 今日攻めてきた勇者もそうだった。同じよーなセリフを吐いて攻めてきた。それも2回も。一回は朝で寝ぼけていたということもあって逃がしてやったのに、2回目は生き残ったからと言って調子乗って、援軍200人連れてきた。

 だから、まぁ一瞬にして炭にしてやったよ。ほんとよく燃えてた。


 それだけじゃない――んだけど、これ以上この話をするわけにはいかない。



 とにかく、オレは今落ち込んでいる。自分に対する準備がすべてできていないから、失敗する気がして仕方がない。



「はぁ、なんで今日に限って勇者が攻めてくるんだ」


 全く――こぶしを握り締め、ため息を吐く。

 上手く行くといいなぁ。



 恋1つで悩んでいるけど、オレは立派な魔王である。暗黒のような黒い鎧に全身を固め、部下1000万人を統一し、手にした国は数知らず。他にももっとある。富や名声、力を自分の手中にだって収めた――もう世界を手にしていると言ってもいいぐらい、オレは全てを手にしている。


 ……はずなんだけど、好きな人だけはできなかった。そもそもの話、この世に生まれて250年、オレは一度も人を好きになった事が無い。魔王になるためだけに生まれ、魔王として降臨し、魔王のために日々生きていた。だから、恋なんて自分には関係ないと思っていた――そう3年前まで。



 その日、オレは大事な用事のために人間界へと行った。そして、ある国(名前忘れた)の大通りを歩いてるとき、見つけてしまったんだ――そう愛する人を。

月のような銀色の髪。水のような透明の肌。小鳥のような優しい声――初めて目があったとき、天使かと思った。……あっ魔族だから悪魔になるのか? まぁいいや。


 とにかくオレはもうゾッコンしてしまい、何度かデートに誘った(もちろん人間基準のところ。魔族のところには近づけていない)。デートを重ねていくうちに、やっぱり、と見た目から感じられるおしとやかな雰囲気にオレはさら惹かれた。もう気がつけば、彼女の事を思い出し、浮かれている日々。

 でも、そんな日々は長く続かない――それは、魔王だからこそ知っていた。人間というのは寿命が短くて、あっという間に死んでしまう。だから、オレは決めた。今日告白する、と。



「あああああああああああ!!」



 玉座の上で叫ぶオレ。

 気を取り直して、咳払いし、気持ちを落ち着かせる。



 落ち着け、オレ。部下10人と作戦を立てたあの5日間を思い出せ。


 オレは頭の中でもう一度作戦をシュミレーションする。




 まず、彼女をお出迎えし、バルコニーまで直行する。ただし、魔王城は広いので徒歩の移動は困難。そのため、乗り物を使って移動する。


 バルコニーについて、星を眺めながら料理を運んでもらう。その際、オレはしっかりとシェフたちにお礼を言う。まぁいつも言ってるから、問題ないか。


 食事をしながら、会話する。ただしこのとき気を付けなければならないのは、自分の自慢話をしない事。魔王であるから強いアピールをしたいところだが、それだと相手は楽しめない。なので、相手が好きな話――彼女の場合、自然になるので、花とか動物の会話をする事。ただしこれもしすぎない。出しすぎれば、自分の知識をひけらかしてるようになるので、相手に会話をさせつつ知識をさりげなく小出しするのが理想的と言えるだろう。


 食事が終わりそうなタイミングで自分は席を外し、花束と宝石を受け取り、彼女に渡し、一言。



「すきです」


と。

 



「……フフッ」


 大勢の部下と話しただけあって、あまりにも完ぺきだ。しかしまぁ、万が一ということもある。自分でも把握するべきだろう。

 手を叩き、「セバス」と彼の名を呼んだ。

 その人物は、下からぬるりと現れて、膝立ちをした。



「お呼びですか魔王様」


 白髪の青年は、凛々しい顔のままオレに対して敬意を払ってくれる。

 頼もしい部下だ。



「あぁそうだ。彼女――ケイカは、どうなんだ?」


「もう手配済みでございます。もちろん、護衛も付けて」


「そうか」


 懐かしいものもある。彼は最初、無口で敵意むき出しだったのに、今じゃこんな明るくなって――オレも嬉しい。



「ご苦労。下がってくれたまえ」


「では、失礼します」


 現れたときと同様に、セバスはヌルッと姿を消した。


「……ふぅ」



 とりあえず、彼女が向かっていることは喜ばしい――はずなんだけど、少し胸騒ぎがある。

 なんか、嫌な予感がする。あまり気にしない方がいいのかもしれないが――いや、気にするべきだ。

 オレは、立ち上がり、バルコニーへとテレポートした。



◆◇◆◇◆◇



 バルコニーは、魔王城4階にある彼女のためだけに改築した空間だ。わざわざこの日のためにベランダには鮮やかな花を植え、噴水を建て、綺麗な庭が一望できるのは勿論のこと、月と星がよく見えるように設計してある。

 特に、今日は素晴らしい。なんと月の光が明るいのだ。まるでオレの告白を応援しているかのようだ。


「フフッ」


 あぁニヤケてしまう。改めて、とバルコニーを見る。

 彼女と対面し食事ができるよう、花柄のテーブルを準備した。

 創造するとニヤケが――口角が緩んだ瞬間、



「ま、魔王さま!!」



 甲高い声に呼び止められ、現実に戻される。


「どうしたフート」


 フートと呼ばれた人物は、魔物だ。魚の見た目をした二足歩行の魔物で、役職は料理長である。つまり、実質的には魔王城で2番目に偉い尊大とも言えるであろう(1番はオレ。絶対に譲らない)。



「料理が完ぺきにできているであります!!」


「人間ように出来ているか?」


「もちろんですよ。魔王様のため我々人間の料理を勉強しましたから」


「それはご苦労。デザートもあるか?」


「はい! 今をときめくスイーツをたくさん準備しました。味見されますか?」



 ちょっと、食べてみたい――が、ここは魔王、我慢するべき。

 オレは、フートに背中を向け、



「けっこうだ。本番の楽しみとしてとっておきたい」


 と、強がってみる。

 本当は、食べたい。なんせオレは、スイーツが大好きだからだ。




「報告は以上か?」


「はい、以上であります」


「ご苦労だった。現場に戻れ」


「はい」


 フートは、歩いて(いや、ジャンプか?)しながら、戻って行った。


「…………」



 食事もできている――よし。

 全てが完ぺきであるが、ただし胸騒ぎは一向に消えない。もしかしたら、彼女が泊まる――と言い出すかもしれない。まぁ時間も時間だし、そのまま帰らすのはきっとよくないだろう。


 っということで、準備をしていたものがある。早速、彼女を呼ぼう。




「ローズ」


 その言葉一つで現れるのは、メイド長ローズだ。黒い髪を結び、黒のメイド服に身を包んだ女性は、音を立てず現れる。



「お呼びですか」


「あぁそうだ。部屋のほうは……?」


「それは、できています。確認されますか?」


「させてくれ」



 赤いカーペットが敷かれた廊下を歩き、右に曲がると左側に木の扉が現れた。

 扉にかけた看板にしっかりと『ローズ様専用』と書かれてある。

 よし、できている。


「中は、こう

なっています」


 扉を開けた先に広がる空間は、想像と違った。

 紫色の光に包まれ、カーテン付きの2人用ベッドが1つ。その上にはハート形の枕などが敷かれており、一言で言うのならばいやらしい。



「ちがーーーーーう!!」



 オレは、声を大きくした。


「なんなんだ、この部屋は!! オレが言ったのと全く違うじゃないか!」


「そうですか」



 ローズは、首を傾ける。


「ワタシは、いわれたとおりしましたよ。しっかりと休めて次の日を迎えれる部屋を」


「たぶん、それ間違った解釈だよ!! オレが休めると言ったのは、普通の休憩だよ! 休憩!! こんな部屋で休めるか」


「言われればそうですね。すぐに作り直します」



 ローズが指パッチンすると、白のメイド服を着た女性が8人部屋へ入る。


「普通の部屋に作り直せ」


 ローズの指示に、メイドたちは背筋を伸ばし、頭を下げた。


「「了解です、メイド長」」


 そう言って、せっせと作り始めるメイドたち。

 これは間に合うのだろうか――オレとローズは、外へ出る。



「頼むよ、ローズ。今日は大事な日なんだ。わかってるよな?」


「もちろんですよ魔王様。大事な日がさらに大事な日になると思っていましたよ」


「と、言うと?」


「致すのかと思いました」



 サラリとローズは言うので、オレは最初わからなかった。しかし、脳内で反芻されるうちにその言葉の意味が分かり、オレはあわあわした。



「い、致さないよ!! 大体、段階があるでしょ」


「あら、そうでしたか。でも、女性って強気に行ったほうがときめくらしいですよ」


「えっそうなの?」


「そうです。わたしで試してみますか?」


「しない! からかわないで」



 最初出会った頃は、こんな人になるとは思わなかった。まぁでも、それだけ慣れてきたということだろう。オレとしては、喜ばしい事だ。



「ところで魔王様」


 上目遣いしてくるローズ。


「なんだ?」


「不思議だったんですけど、どうして告白というまどろっこしい手段を選んだんですか?」


「んーそれはぁ……」



 答えを出し惜しんでいると、ローズは手を合わせた。



「魔王様でしたら、他にも方法があるじゃないですか。拉致して脅迫とか、催眠魔法かけて屈服させるとか」


「オレにどんなイメージ持ってるの……」



 部下に暴力的に思われているのは、何気にショック。まぁ魔王になるため色々なことしたから、思われても仕方ないんだけど……それでも、ね。

 しかし、ローズはそんなこと気にせず、


「で、どうしてですか?」



 と、催促してくる。

 仕方ない、ローズからは逃げられないのだ。

 オレは、口を開いた。


「オレは、支配とかじゃなくて、純粋に好きな人と結ばれたいだけなんだ」


「ふーん」



 返しが思ったよりも、普通。頑張って言ったんだから、それなりの反応が欲しかった。



「ピュアですね」


 ローズが鼻で笑う。完ぺきに彼女は、からかっている――昔からの連れだから、許しているけど、お前じゃなかったら絶対許してないからな。

 という気持ちを込めた、ありったけの一言。



「ピュアだよ、悪いか!」



 オレは、強気に言った。

 

「そんなピュアだからこそ、世界を征服できたのかもしれないですね。優しいお方です」



 表情1つ変えていないが、昔から知っているからこその優しさがあった。

 だからと言って、許せる発言ではない。すぐさま指示をする。



「うるさい、うるさい。お前は、さっさと仕事に戻れ」


「はっでしたら、ひにn……じゃなくてー、なんか適当にちょっとした道具集めてきます」


「いいの、そういうの気を付けなくて。ちゃんと準備してるから!!」


「そうでしたか。でしたら必要ないですね。では」


 ローズは消える。



「はぁ疲れた」


 壁にもたれて、ため息を吐く。

 ローズと話すと疲れはするが、昔ながらの馴染みもあって、心が休まる。それは彼女だけじゃなくてセバスもなんだが、やはり昔馴染みというのはいいものだ。


 ……まぁローズに関しては、甘やかしすぎた。まさかいつも死んだ目でいたあの子があんな冗談を言う人に育つなんて、思ってもいなかった。



「さて、と」



 現状を一度振り返る。


 1.ケイカはいま魔王城に護衛と共に進んでいる。

 2.バルコニーと食事は準備済み。

 3.ケイカを楽しませるために、人間に合わせた話題も頭に入ってる。

 4.告白文。これも頭に入ってるので、準備はできている。

 5.彼女にプレゼントする宝石と花。一応、オレの部屋に置いてあるが最後の確認はしておこう。万が一のために。

 6.帰りが遅くなった際、彼女が泊まる部屋の準備を今しているところ。

 


「………まぁ大丈夫か」



 たぶん6が心配だけど、きっとやってくれる。なんせ魔王のメイドなんだ。必ずやり遂げてくれる、と信じている。



「とりあず、問題はなしっと」


 あとは、オレがバシッと決められればいいのだが――そのときだった。

 白髪の青年が下から現れるなり、緊迫した顔をしている。明らかに、非常事態だ。



「どうした、セバス?」


「申し訳ございません。ケイカ様が……」



 その言葉を聞いた瞬間、視界がパチパチと白黒になり、何を言ってるのか理解できなかった。だけど、脳内に残るその言葉はしっかりと頭の中に入っており、伝わってくる。



「そんなことあるわけ、あるわけが……」


 魔王軍の中でも軒並み強いやつを選び、彼女の護衛に就かせていた。にもかかわらず、それが起きたと言うことは――非常事態である。



◆◇◆◇◆◇



 オレは、すぐにテレポートし、彼女が最後に確認されたところまで移動した。

 魔王城までおよそ30キロの位置。そこは、木が1つ生えない、荒廃した土地だ。一応、彼女たちが乗った馬車は魔法でカモフラージュしたのだが、それを見破るってことは相当な勇者で間違えないだろう。

 オレは、セバスの言葉を思い出す。



「申し訳ございません。勇者たちにカヤコ様が誘拐されました」



 一言一句、忘れることはないその言葉。ここに着くまでの間と着いた後もずっとこの言葉を脳内で流していた。

 それぐらい衝撃だ。今回のこの出来事は。



「…………」



 オレでもびっくりするぐらい、怒りに満ちていた。拳が震え、歯をくいしばり、正直世界の半分を消したいと思えるほどに。

 でも、そんなことしたらケイカが悲しむだろうし、彼女は救えないだろう。だからしなかった。彼女を思えば、そんな選択は選べない。



「とりあえず落ち着いて、彼女を探そう」


 オレは無詠唱で、追跡魔法を使う。そうすれば、この土地を歩いた者の痕跡が炎のようにして見えるからだ。


 オレは周りを探して、痕跡を探した。勇者の事だから苦労すると思ったが、そんなことなかった。すぐに彼らの大きな証拠を見つけた。


 それは、死んだ魂の残骸である。炎で燃え、彼らが生きた証拠は表面上1つ残らず消されているが、オレは魔王。仲間の最後の場所ぐらいすぐに見つけられる。


「…………」



 オレは、屈んで青い布切れを拾い、追跡魔法で主を見つけ出す。どうやら、南東のほうに行ったらしい――オレは、その方向へと顔を向けた。


「お前たちの死は無駄にはしない。安らかに眠ってくれ」


 弔いの言葉を吐いて、空へと浮かんだ。

 悲しい気持ちと怒りが心を支配する。魔王になるとはこういうことだとわかっていたはずなのに、やっぱり受け入れたくない気持ちになる。



「魔王ってつらいなぁ」


 南東のほうへと体を向けて、一直線に飛んだ。耳元でビュービューと風が吹くも、全く気にならなかった。それよりも、彼女の身を心配する気持ちで胸いっぱいになっていた。

 さっさと見つけなければならない。ケイカのためにも。



「魔王様、勇者はあっちのほうですね」


「あぁそうだが……って、ローズ! なぜ?」



 いや、彼女だけじゃない。左には白髪の青年、セバスがいる。

 場所は言ってないはずだが――そう思ったが、あぁそうだった。彼らにだけ自分の居場所がわかるよう魔法道具を渡していたのだった。

 それはずっと昔――まだオレが魔王として生きる前に。



「まぁほら右腕が居たほうがいいじゃないですか。そのほうが強そうですし」


 ローズの言葉に、考える。



「そうだけど……でも、オレ一人でやれるんだが」


「そんなこと言わないでくださいよ。せっかく来た意味ないじゃないですか」


それもそう。

 

「わかった。いいだろう――ただし条件がある」


「?」


「?」


 二人の視線が集まる。

 オレは、その言葉をしっかりと聞こえるように言った。



「勇者は俺がやる」




◆◇◆◇◆◇



 荒廃した大地にある馬車。そこから光が漏れており、何やら楽しそうな雰囲気である。しかし、それが普通のことであれば――の話だけど。



「おいおい、魔物と一緒に女がいるなんて思わなかったぜ」


「なぁ。どうしてやろうか」


 ゲスな笑い声が響き、女性は涙を浮かべていた。


「んー! んー!」


 口に何かつめられているのか、喋れないようだ。



「何か、訴えてるぜ。もしかして魔王かもな」


「ここに魔王がくるはずないでしょ」


 その声は、下劣で品の無い笑い声。教育が行き届いていないようだ、全く。



「さーて、嬢ちゃん。お前のそれ剥がせてもらうぞ」


 男がカヤコに触れようとする――それは、許せない。

 オレは、テレポートし、荷台の中に入った。


「だ、だれだお前は!?」



 人数は少ない。勇者の男1人、僧侶の男1人、魔王使いの女1人――と言ったところ。見た感じ魔力も全く無いし、1人で片づけられる雑魚だ。


 勇者たちはオレを見るなり、驚いた。まぁ当然と言えば当然だ。人間よりもはるかに大きくて、黒い鉄の塊が現れればビビるに違いない。



「オレは、お前らの目標だが」


 と、だけ言って、ケイカを抱え、空にテレポートする。



「魔王様、お見事です。いやぁ間一髪でしたね」


 セバスがパチパチと拍手する。

 だけど、素直に喜べなかった。今は、ただ彼女に怖い目をあわせたことに対する罪悪感で胸いっぱいになっている。彼女を見るだけで心臓がドキドキするも、この状況にしたのは自分のせいだという罪の意識が針のように尖って、心を突き刺していた。



「すまなかった。怖い思いをさせて」


「…………」


 地上へと降りて、ケイカを縛っている全ての物を外して、地面に下ろした。



「てめぇ魔王だな」


 青い服を着た金髪の青年が、オレを指さしながら言った。

 やはり、礼儀がなっていない。これだから、人間は――いや、勇者は嫌いなんだよ。



「そうだが、何か問題でも?」


 とか言うけど、オレも礼儀がなっていない。怒りのあまり我を忘れている――もういい。こいつらに礼儀なんて使うか。知った事ではない。



「なら、幸運ね。わざわざ行く手間が省けましたから」


 黒いローブと黒いサンカク帽子に身を包んだ赤髪の女性。手には大きな杖を持っており、見るからにして魔法使い――それも上級の。

 彼女は、杖に魔力を溜めて、大きな火の玉を発射した。それはまるで太陽だ。空を照らし、地面を突き破る火の玉。

 ここはオレが――と思ったが、その前に動く人が1人。

 右の女性が前に出て、左手を突き出す。



「勇者と言っても、しょせん人間ですね」



 そう言って、その玉を素手で受け止めては、自分の力だけで消した。

 あんなに大きかった火の玉を瞬きの一瞬で、無かったことにする。

 いとも簡単に消したローズは、どや顔でこっちに目を向けた――主に白髪の青年に。



「やっぱり人間って、こんなもんですね」


「それボクに効くんですけど」


 セバスは表情一つ変えないが、声は明らかにだるそうに嫌がっていた。


「あぁそうだった。アナタ人間でしたね。しょせん人間でしたね」


「二度も言わないでください。意外と傷つきます」


 2人のやり取りはまだまだ続きそうだったが、それは1人の人間によって止められる。



「魔族如きが舐めやがって」


 槍を持ち、緑色の服を着た少年――僧侶が槍を構えると、先端がジリジリと光始める。

 僧侶というのは厄介だ。まぁ勇者もだけど。

 僧侶が出そうとするのは、神の魔法――つまり、オレら魔族が弱点とされる神の魔法だ。それを扱えるのが僧侶である。

 僧侶の魔法が肥大化する。どんどんどんどん大きくなっていた。



「あれをくらったら、魔王様どうなりますか?」


 隣のセバスが声をかけてくれる。まさか心配しているのか――嬉しい。オレは、嬉しい。


「無傷だな」


「あぁそうでしたか。なら、いいか」



 瞬間、セバスは風――いや、嵐の突風のような勢いで僧侶の近くまで移動した。地面の砂が宙を舞い、辺りに強い衝撃波を巻き起こす。


 ただやはり勇者たちと言える。彼らは、その風を前にしてもビビることなく、受け止めている。

 多少骨があるみたいだが、それでもまだまだ。



「では、さようなら」



 瞬間、オレはカヤコの目を塞いだ――彼の戦い方は、見せられないからだ。


 セバスは拳を上に突き出し、そして、下に振り下ろす。僧侶の手は槍で塞がっていたから、防御ができていない。まぁ防御していたとしても結果は変わらないだろうけど――僧侶の頭に拳がくい込んだ。下に下にと進んでいくのはまさにハンマーで叩きつぶされたような形で、脳を貫き、肉を散らし、骨を粉砕しながら拳は進んでいった。

 ただし、それはほんの数秒。ただの肉の塊となった僧侶を見て絶句する勇者たち。


 その間、セバスはオレたちのほうに振り向いた――まぁほとんどはローズにだったが。



「これでも人間と言いますか?」


 尋ねられたメイド長。彼女は、めんどくさそうに唸る。



「あーーーー微妙ですね。魔王様どう思います?」


 あっそこオレに振るか。

 少し考えた――が、人間1人を肉塊にするほどの怪力。これはもう――



「立派な魔族だろ」



 その言葉を聞いても、セバスは表情を変えなかった。しかし、月明かりのせいか、彼の顔色が少し明るくなってる。

 すごく喜んでいるように見える――あぁ可愛い部下だ。

 ただし、この状況で楽しめないのが1人。



「種族の壁はこえられない、と前言ってましたが」



 メイド長のローズである。彼女だけが少し退屈そうだ。だからまぁこんな嫌なとこ突いてくるんだが。


「知らん。覚えてない」


「はぁそうですか」



 その言葉を聞いて、ローズはつまらなさそうに返事する。


 けど、楽しんでいるのは事実。なんやかんや言って、ローズはセバスの事を認めている。だから、今回彼がついてきても何一つ文句を言わなかった。


「いつまでも茶番できると思うなよ。クソども」


 女魔法使いがセバスに向けて攻撃する。炎のビームが一直線に飛んだ。

セバスの背中を狙っているからたちが悪い――けど、それぐらい問題ない。セバスは気付いてるだろうから。


「…………」


しかし、現実は予想をはるかに超えていた。



「いま気抜いてましたね」


 ローズがその光を手で受け止めたのだった。

 まさか彼女が守るとは思わなかったが、それよりも気を抜いていた?


「いえ、抜いてませんが」


 その表情には、氷のように冷たい。まるで、ローズに向けて怒りを向けているようだった。



「いやいや、抜いてましたよ」


 ローズが後ろに目を向ける。


「だから、抜いてませんって。妄想やめてもらっていいですか」



 あぁ喧嘩し始めた。

 とりあえず、彼の出番は終わっただろうから呼ぼう。


「セバスこっちに来い」


 彼は不服そうにため息を吐いた。


「了解です」



 そう言って、セバスは背中を向け、こちらに歩いてくる。彼は自分で戦うつもりないのだろう――というか、最初からなかったが正しいと言える。たぶん気を抜いていたというのは、嘘だ。セバスは、最初からこの魔法使いをローズにやらせるつもりだった。



「やっぱり、抜いてたじゃないですか」


 なんで、この子は嫌味しか言えないのかなぁ!!

 もうちょっと優しさというものがあるでしょ、普通。



「…………」


 セバスは、明らかに怒っていた。

 だから、そうなんだよ。こうなると少しめんどくさい――ローズに察してくれ、と強い視線を送る。

 彼女は気付いたのか、頷いた。



「コイツ、もらいますね」


 ……ちがーーーーう! 倒してほしいけど、そうじゃない。セバスの気持ちを考えろ、ということだ。

 まぁ仕方ない。

 魔王であるオレは声音ひとつ変えずに、


「いいだろう」


と、言った。



「感謝します」


 ローズが右手を上に向けたそのタイミングで、「ただし」とセバスは喋った。



「ただし、無様な真似はしないでくださいね」



 彼は結構根に持つタイプ。取っておいたクッキーを食べたら2ヶ月ぐらい恨まれた経験があるオレは、よくわかっていた。今わざと言ったな、と。



「そんな真似しませんよ。ワタシ結構つよいですから」


「ほぉそうですか。じゃあ、見せてもらいましょうかね、その強さとやらを」


「いいですよ。見ていてください。今日は特別にオープンでやりましょう」



 ローズが指を鳴らすと、瞬間に暗黒が広がった。

 オレは、ケイカに注意を向ける。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫です」



 明らかにその声は、震えていた。仕方ない――オレとケイカはその暗黒世界から外れることにした。でも一応見ておきたいから、オレだけ透視魔法を目につける。



「ここは……?」


 真っ暗な世界の中、魔法使いは驚いていた。膝を揺らし、声を震わせ、今から何が起きるのかとその小さな脳みそで精いっぱい考えている。


「あぁここは、アンダーワールド」


「アンダーワールド……?」


「簡単に言えば、ワタシの精神世界ということですね。あっしょせん人間は、心の世界と行ったほうが理解しやすいですよね?」



 魔法使いの顔が赤くなる。


「バカにしないで」


 魔法使いは、杖を前に出し、何かを念じる――だが、それは出てこない。全く何一つ彼女が望むものをそこで表現できていなかった。



「な、なんで……」


 魔法使いは、驚きのあまり後ずさる。

ガタガタと歯を鳴らしながら、いま目の前に立っている魔王の右腕――ローズに対して恐怖心を抱いていた。



「そりゃそうですよ。だってここは、ワタシの精神――つまり、ワタシが想像したことしかできないってことですよ」


 ローズはわざと驚かすために魔法使いへと近寄る。

 魔法使いは恐怖で引きつった顔のまま後方へと足を動かした。

 


「…………」


 ローズは、すぐにやめた。きっとセバスの約束を思い出したのだろう。いい兆候だ。



「さて、茶番はここまでにしましょう。あなたには、死んでもらいます。では」


「…………?」


 女魔法使いは、恐怖と困惑の間に挟まれた苦い顔をする。

 でも、それは一瞬。

 突然、魔法使いの全身から赤い液体が噴出した。

 ローズは手に触れることもせず、何もしてないただじっと見ていただけで、魔法使いの体内にある赤い液体をバシャバシャと周りに飛ばしてそのまま絶命した。



「はい、終わりでーす」



 ローズはそう言うと、暗黒世界がスッと無くなり、元の世界へと戻る。

 そこに魔法少女と僧侶の残骸はない。彼女――の精神が食べてしまったのだ。


「魔王様、終わりました」


「ご苦労」


 ローズは、鼻歌をハミングさせながら歩いてくる。そして、セバスを見て、ニヤッと笑う。



「結構やりますね。でも、性格が出てる戦い方ですよ」


 セバスが嫌味っぽく言う。


「何を言ってるんでしょうか。人間の血に染まった手で魔王様を触りたくないだけです。人間には、わからないでしょうね」


「あなたのほうこそ、魔王様がわかっていません。それでメイド長とは、笑わせる。いいですか、魔王様は素手で戦うんですよ。言ってる意味わかりますか?」


「さぁ……」


「魔王様は、手で倒した者にロマンを感じるんです」



 違うほうに誤解されている。

 オレは、決してそういうわけじゃない。まぁ確かに素手で戦うけど、それは魔法が強いからその選択をしているだけで、武器を使えるのであれば使う。

 耐えられるほど強力な武器があれば――使う。


 でも、実際はこのオレに見合う武器が、1つも存在しない。どの武器も弱くて、一振りすればほぼほぼ粉々に砕けてしまう。例え耐えたとしても、二振り目が……ね。なので、武器を使わない――というよりも、使えない。



「言い争いしてる暇は無いだろう」


 オレの一声で、ローズとセバスが深々とお辞儀をする。


「失礼しました、魔王様」


「申し訳ございません、魔王様」



 反省しているのだろう、2人とも難しい顔をしていた。


「気にしてはいない……。さて」


 オレはケイカから離れ、前に出る。

 青い服を着た勇者――ボスのお出ましだ。

 まぁそうは言っても、オレの相手にはならないけど。



「勇者よ。お前と戦ってやろう」


「……ふざけた真似を」


 勇者が剣を構える。

 そんなおもちゃでオレが倒せるとでも? 笑わせる。

 内心ほくそ笑んでいた。

 が、ちょっと甘く見すぎていた――勇者は、瞬間移動した。

 これはセバスのような素早く動いたわけでもなく、言葉通りその場から一瞬にして何処かに移動した。



「…………!」



 まずい――どこに消えた?

 オレは周りを見渡し、探すも見つからない。

 ただよく見れば、ケイカの姿も見えやしない。



「人間の分際が!!!!」



 オレは地面が割れ、雲を払うほどの大きな声で叫ぶ。ただこれは彼に向けた怒り――と言うよりも、自分が彼女を守れなかった怒りが正しい。

 まさに失態、それも大がつくほどの失態である。


 あぁクソ、こんなことになるのならケイカを連れて二人に逃げてもらえばよかった――オレは、時間を巻き戻す魔法を使うか悩んだ。

 でも、それは必要ない。見つけたからだ。



「…………」



 月を背中に浮かぶ勇者。ほくそ笑み、憎たらしく口角を浮かべる。

 すぐにでも殴りたいが、彼の手にはケイカがいる。無策で行くわけにはいかない。



「魔王、この女が大事なんだろ? なぁそうだよな!」



 ケイカの喉元に剣を立てる。

 オレは怒った――瞬間、影を勇者に向けて伸ばした。闇のようなどす黒くて覗き込むだけで人間が恐怖するほどの大きな影は、勇者の手を掴む。



「………ど、どうなってんだ!?」



 身動きが取れない勇者は、その場で暴れるも、外れるわけがない。彼の姿だけをガッシリと掴み、離れない。

 そして、ケイカが手から離れ下に落ちるも、オレは抱える。



「………ごめんな、ケイカ」



 彼女にそんな言葉をかけるも、それはただの言葉でしかない。彼女を傷つけたことに変わりないし、怖い思いさせてしまった。それは自分が魔王であるから起きた現実。もし魔王出なかったらこんなことは起きなかっただろう――しかし、自分が魔王であるからこそ彼女と出会えた奇跡もある。


 オレはジレンマに囚われた。

 ただ1つだけわかることがあって、それはケイカと結婚もできない――ということ。上手くことが運んで最終的に結婚できればなぁ、と思っていたけど、そうなればケイカが危ない目にあうことは確か。

 そうしないほうがいい――絶対にさせてはならない。

 


 爆発する好きという気持ちを押し殺して、勇者に顔を向ける。


「ゆ、許してください……」


 彼は無様に泣きながら懇願した。

 続けて、


「俺は、悪くないんですよ。あいつらが俺にさせたんすよ。だから、おれの意識じゃなくて……ほんと、マジ勘弁してほしいです」


「…………」


 たったそれだけ? 

 どこまでもふざけた野郎だ。自分がこの世界を救いたい、と思ったからオレの所に来たわけじゃなくて、まわりが担ぐから調子乗ってきた――と。で、危なくなったら命乞い……。それでも勇者と言えるのか。ただのゲスでしかない。


 こういうこと言うから、勇者が嫌いなんだ。やつら適当なことしか言わない。



「許すわけがないだろう!!」


 オレは言葉を強める。

 勇者の顔が歪み、涙でグチャグチャになる。



「オレの愛する人を傷つけておいて、許せ……と? 無理に決まっている。適当なことをぬかすな、人間が」


 右手に闇の玉を発生させ、勇者に放つ。それはゆっくりと移動し、到着するまで時間がかかるだろう。

 だから、言える――この言葉を。



「死ぬまでに考えておけ。自分の弱さを」




 オレは背中を向け、下に降りていく。

 彼がどんなことをしたのかわからない――でも、そんなこと知った事か。オレは、魔王。世界を統一し、人々から恐怖されるべき存在なのだ。



「お願い!! 嫌だ!! 死にたくない!! 助けて!!」


 勇者は必死に命乞いをする。

 それでも、オレは気にしない……つもりだったが、ケイカが泣いていた。

 大きな涙を流し、哀しそうな顔で勇者を見ている。



「どうした?」


 その言葉に驚いたのか、身をビクつかせ、オドオドした表情でオレを見る。


「助けてくれませんか?」


「誰を?」


「あの人を……」



 ケイカが指さした方向――それは、勇者だ。

 オレは困惑しながらも、言葉を出す。


「なぜだ。アイツは、お前を傷つけようとしたんだぞ」


「そうですけど……。それでも、あれは酷いと思います。いくら魔王でも、やっちゃいけないと思います」


「…………」



 オレは、魔王。やっちゃいけないことをすることが仕事である――でも、まぁ今日ぐらいはいいか。彼女の頼みとあれば、最後の頼みであれば、きこうじゃないか。


「わかった」


 オレは影を絡めたままの勇者を地面に下ろした。


「な、なんで……」


 勇者は驚いた顔をしているが、今はとても腹の虫が悪い――オレは、ゴミを見るような目を向けて、


「失せろ」


 だけ言った。


「は、はいーーー!!」


 勇者はオレに背中を向け、走っていく。

でも、たぶん彼が生きていける世界はないだろう――仲間を残して逃げたクズとしてどこか生きてくれるよう、強く願った。



「はあ」



 それよりも、オレの心にずっしりと負荷をかけるものがある。それは、告白だ。本来であれば今頃食事を楽しみながら、会話をしていた時間だろう――が、勇者が攻めてきたことによって彼女は攫われ、恐怖する経験をしてしまった。失態だ。自分が迎えに行けばこんなことならなかったわけだし――いや、でも気持ちだけ言うのは問題ないのではないのだろうか。恋人とか夫婦とかは、望まない。ただ1人よがりのオレの気持ちを知ってほしいだけだ。



 オレは、ケイカに目を向ける。


「…………」


 彼女は目線を上にあげず、地面を見ていた。


 嫌われた!!!!


 もうこれは、無理だ。諦めるしかない。

 次は、何年後だろうか――いや、何百年も後になるか。とにかく、オレの恋愛は終わりを迎えた。

 意気消沈ではあるけど、だからと言って自分がそっぽを向くわけにはいかない。彼女を傷つけたのだからせめてその償いとして、家に帰すべきである。

 ケイカにとって嫌かもしれないが、それぐらいはさせてほしい。



「け、ケイカ……こんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ない。すぐに家に帰ろう……今帰れば問題ないはずだ」



 オレは彼女の手を取った。別にいやらしい意味は無くて、ただただそうしなければテレポートできないからだ。

 だけど――彼女は、その手を振り払う。


「…………」


 もうだめ。オレは、もう生きていけない。

 帰ったら自害しよう。そうしよう。

 心は全てボキボキに折られ、生きる尊厳が無くなった。



「家には……帰りたくないです」


 帰りたく……ない?

 えっなぜ――オレは、ローズに目を向ける。


「…………」


 逸らされた。

 次に、セバスへと向ける。


「…………」


 彼もまた逸らした。



「…………」



 な、なんで……。オレは一体、何をしたんだ。

 一体どんなことを――ここに至るまでの間の記憶、その全てを掘り起こし、回想させる。

 思い当たる節が……ない。ケイカを傷つけた記憶はあっても、家に帰りたくないと思えることが全く思い当たらない。


 喧嘩をしたのだろうか――だとすれば、あり得る。そもそもの話、魔王と接していると知れば親と喧嘩するだろうし、国民からも迫害されるだろう。

 当たり前だ――どれだけオレは、バカなんだ。そんなことが起きてもおかしくないのに、オレは気持ち1つで彼女と関わっていた。全くそれ以外の事を考えていない。

 魔王になったからと言って、浮かれていた――バカだ。大馬鹿だ。



「…………」



 ケイカが見上げて、彼女と目が合う。

 背後の月光が、彼女の全身を綺麗に彩る。やっぱり美しい――完ぺきである彼女を更に仕上げていた。


「ワタシ、魔王様と……」


 まるで果実のように、ケイカの顔が赤くなっている。

 目をウルウルさせ、唇を震わせていた。

 緊張しているのだろうか――まぁ無理も無いか。今までもそうだった――


「一緒がいいです!!」


「……え」


 処理能力が落ちる。

 何を言ったのか考え、彼女の言葉をもう一度復習する。


『一緒がいいです』


 つまり、これって……成就してるってこと?

 

「……………!」


 それなら動かなければならない。魔王として、年上として、オレがするべきだ。

 それは考えたあの言葉。当初長ったらしくポエムのような愛の言葉を紡ぐつもりだったが、今は恥ずかしい。だから、直球に言う。自分の気持ちを全て。



「結婚を前提に、付き合ってください!!」


 心臓がバクバクと音を立てる。

 正直な話、魔王に就任した際のスピーチよりも緊張していた。

 

「……魔王様」


「は、はい!」


 顔が見えない――ケイカに正面を向いているのに、目は瞑っていた。強く絞り、この光景を見ようとして居なかった。


「もちろんです」


 ケイカは、包み込むように優しく言ってくれた。



「……………!!」


 喜びの言葉を噛みしめる。手放しで万歳したいところだが、それをしてしまうとケイカを落とすことになるので強く喜んだ。


 ケイカは優しそな表情のまま、手を伸ばす。ハグかと思い心構えしていたが、違った。


「今の顔、見せてください」


 彼女はそう言って、 オレの兜を両手で持ち上げる。


「あっちょ……」


 言い終える前に、露わとなったオレの表情。

 肩を流れる黒い髪。オレは止めることができず、素顔を彼女の前で披露した。何度かあるのだけれど、正直恥ずかしい――特に告白が成功した今、絶対に緩み切った表情をしているからだ。


 オレが思考回路を急速に回していた時、ケイカは微笑んだ。


「魔王様、やっぱり素敵ですよ。素顔晒したらどうですか?」


 好きな人に褒められたから、顔が熱くなる。

 もう直視できなくなっていた。



「だ、だって、女のオレが魔王だったら顔が立たないじゃん」


「そんなことないですよ。わたしは、素敵だと思います」



 急速に動く脳の思考回路がオーバーヒートしそうだ。このまま彼女に褒められでもしたら、オレは倒れてしまう。

 

「そ、そうか……」


 なんて流すけれどぎこちない。もう口もままならないオレは、照れの感情で死んでしまうかもしれない。

 それはなんとしても避けたい。魔王が照れ死んだんだって――なんて噂を流されたら、顔が立たないかだ。


 オレは強く悩んでいるさ中、ケイカは再度口を開く。



「わたし、魔王様の事がす――」


 何を言いたいのか、オレは魔王だからわかっている。

 それ以上、何も言わせないために勢いのまま彼女と唇を重ねた。

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