穏やかな日々②〈グレイシアside〉
メイルの事を考えていたら、ヴィックがテーブルの手紙を一瞥した。
「陛下から来たの？」
「そうなの。……とても耐えられないそうよ？」
肩をすくめた私の関心は息子の怪我の様子のほうに集中している。
擦り傷が少しだけでホッとした。
「俺たち別に、無理なんてさせてないんだけどなぁ」
心底不思議そうに首を傾げるヴィック。
私は思わず苦笑する。
「マイティー妃が『王妃の最大の役目』を果たそうと、毎晩強請られて大変だとも書いてあったわ。……新手の惚気かと思ったんだけど、何か違うみたいなの」
「あぁ、お世継ぎか……」
「睡眠時間も休憩時間もお金も足りないのですって……」
「ん？ お金？」
「そう。陛下はあれで信心深いのよ」
「うん？」
「だからする事してるのにお世継ぎができないのは、お布施が足りないからだって言ってるわ」
「……嘘だろ？」
「彼は本気よ？ 学園を卒業できたのだって、王妃様の裏工作とは思ってないし、自分が国王になれたのも、信仰心の賜物だと思ってるのよ？」
「……そんな馬鹿な。だったら、俺たちの苦労は？」
「気が付いてないでしょうね。……ある意味最強よ」
愕然とするヴィック。
そして沸々と黒いオーラが立ち上る。
あ……。
ヴィックの地雷、踏んじゃった？
え？
わ、私は……悪くないわよね？
クラウン陛下にはすっごく迷惑掛けられたんだし、これくらいは……許されるんじゃないかしら……？
「あの野郎にはもう少し、色々分かってもらう必要がありそうだ」
「あの野郎……？」
「いや、何でもないよ。それよりグレイシアは何もしなくて良いからね？ キミは楽しく過ごして、元気な子を産んでくれるのが一番だ」
器用に感情を切り替え、満面の笑みに戻ったヴィックが私の少し膨らんできたお腹を愛おしそうに撫でる。
私もさっきのことは忘れる事にして微笑み返した。
そこにヴィックの優しい抱擁とキスが降る。
「今度はシアにそっくりな女の子が良いな……あ、でもメイルに弟が居てくれると楽しいだろうな……」
隣で真剣に悩む夫と、気持ちよさそうに眠る息子。
あの時、クラウン殿下が『婚約破棄を宣言』してくれて本当に良かった。
私は改めて感謝し、今後も大変そうな陛下に心の中でエールを送った。
──クラウン陛下、お達者で！
end
この作品を見つけて、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
そして私の拙い作品にご意見・ご感想・誤字報告をいただき大変感謝しています。
少しでも楽しかった、面白かった、と思ってもらえていたら嬉しいのですが……。
最後に、読んで頂いたみな様に厚く感謝いたします。
紗奈(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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