穏やかな日々①〈グレイシアside〉
時は経ち季節は巡る。
秋の収穫祭が終わり、私はやっとゆっくりと居間で寛げる日常に戻っていた。
「グレイシア様、書状が参っております」
「ありがとう。──また国王陛下からだわ……」
銀のトレイに乗った封筒には、一目でそうと分かる封蝋が押されていて、手に取るのを一瞬躊躇した。
でも読まないわけにはいかないだろう。
──親愛なるグレイシアへ
そんな書き出しで綴られた手紙にはいつもと変わらず、クラウン陛下のお願いが書き連ねられていた。
要点だけ言うと。
ヴィクターを何とかして欲しいのと、マイティー王妃殿下がもっと夜会に出るように、彼女の説得と相手を頼むということ。
前国王陛下が突然隠居すると言い出し、どういう訳か揉めることもなく、あの仕事嫌いのクラウン殿下が国王に即位したのが半年前。
国王でなければ困る事はいくらでもあり、今までのようにその殆どを側近任せにはできなくなっている。
でも、どう考えたって、国王が毎日遊んで暮らせる国はそう多くない……というか、たぶん無いだろう。
それでもヴィクターもヒポクリットも、マイティー妃ですら、クラウンを戦力外と見做し、彼には最低限の仕事しか振ってないはずなのに……。
まったく、あのボンクラ王子──いやもう国王か。
少しは頑張ろうという気になれないものか?
そしてなぜ私に助けを求める?
「私なら何でも助けてくれるとか思ってるってこと? もしかして私、舐められてるのかしら?」
「そんな事ないよ。シアなら助けてくれるって、無意識にそう思ってるだけだろ」
独り言に返事が来て驚いた。
振り返ると庭に続くウッドデッキから、ヴィックが入って来たところだった。
「あら、もうお散歩は終了?」
意外に早かったと思い、よく見れば……。
「うん。派手に転んでね……」
そう言って腕に抱いていた男の子の顔を覗き込む。
ヴィックの腕の中でいつの間にか泣き疲れて寝てしまったようだ。
「あらまぁ……それで怪我は?」
「大した事ない。それより驚いていたし、怖かったんだと思う」
「そう。怪我が無くて良かったわ」
ソファーの隣に子供を抱いたままのヴィックが腰を下ろす。
ヴィックの膝に乗せられているのは、彼の子供の頃そっくりなメイル。
一歳になったばっかりの私たちの息子だ。
ヴィックと意気揚々と庭へ散歩に出たのだけど……屋敷内と違って、芝生の上でも転んだら痛かったようだ。
部屋や廊下のように絨毯は張ってないものね。
次話『穏やかな日々②』
次話が最終話となります。
今夜23時に投稿となりますのでお楽しみに……。




