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姫君の肖像〈王妃side〉

 クラウンの婚約者の事も、第二王子派の動きもひと段落。


 まだ不穏分子の洗い出しは続いていたけれど、今現在私ができることは無くやっと一息()ける。


 そんな平和な午後のことだった。




「王妃殿下、マイティー様の姿絵が到着致しました」


「あら、楽しみにしていたの。早くこっちに持っていらっしゃい」




 現在は隣国の王宮に住まうマイティー殿下。


 その肖像画を待ち兼ねていた私は機嫌よくそう言った。


 殿下の母であるコンシール侯爵令嬢とは面識はなかったが、殿下の祖母コンシール夫人は典型的な美人だし、コンシール侯爵と隣国の国王もそこそこ悪くない顔立ちだ。


 きっと殿下も凛とした美人だろうと、私はワクワクしていた。




「こちらでございます」




 目の前に大きな絵画が運ばれ、静々と布が取り払われる。


 そして私は固まった。




「こ、この御方(おかた)が……マイティー殿下……?」


「……左様でございます」




 目眩がした。


 いや、決してブスでもデブでも無い。


 人の美醜という点では何ら問題は見当たらない。




 (きら)めく蜂蜜色の金髪。


 海のような青緑色の瞳は切れ長の三白眼(さんぱくがん)




 何と言うか……中性的?




 凛々(りり)しくキリリと直線的な眉。


 鼻は高く、形は良いが存在感がある。


 面長(おもなが)で細っそりとした頬。


 何でもよく噛めそうなアゴ。


 細く弧を描いた唇。


 楽器演奏向きな大きな手に長い指。




 どう考えても手にしたカップが小振りに見える。


 ソファーのサイズにも違和感が……。


 遠近法?


 いや、違うと思う。


 ハッキリ言えば……。




 雄々(おお)しい……。




 きっと女性にモテるだろう。


 彼女を男装させて二人を並べたら……。


 息子にあらぬ噂が流れそうで怖くなる。


 確実に受けはクラウンだ。




 しかも彼女は護身術の腕も良いらしい。


 私にはマイティー妃の尻に敷かれる我が子の姿が見えた。


 物理的に……。




「クラウン……ごめんなさい……母を許して……」




 グレイシアを捨ててルーザリアを好んだクラウンだ。


 きっと彼の好みは、小柄で可憐で儚げで……。


 守ってあげたくなるような美少女だろう。


 決して女騎士のほうが似合いそうな、守ってくれるタイプでは無いはずだ。


 クラウンが国王として求められる仕事は唯一、妃と世継ぎを作る事だけなのに……。




「そうだわ! ──クラウンには直接会うまでサプライズにいたします。ですからそれまで、決してマイティー殿下の容姿については他言(たごん)しないように」




 この場にいる者全員を見渡し念を押す。


 そしてもう一度肖像画に目を戻した私は、何事もなかったようにそっと布を掛け、王妃の寝室のクローゼットに運ぶよう言いつけた。


 大丈夫。


きっと何とかなるわ。


 私は心の中で呪文のように何度も唱えた。

次話『第二王子の誤算』〈ベイトside〉

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