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母の憂い〈王妃side〉

 豪華さに気品も備えた王妃の客間。


 今しがた私の密偵が報告に来た。


 昼間の彼は平均的な貴族に擬態していて、出された紅茶を美味しそうに飲んでいる。




「ルーザリア嬢の件です。罪状通り修道院に送られたのですが……」




 彼は言い淀む。




「途中で一緒に居た商隊ごと盗賊に襲われまして……現在行方不明です」


「まぁ。捜索は?」


(おこな)っていますが、望み薄かと……」


「ふぅ、仕方ないわ。それは続報待ちね。でもそれ……クラウンには伏せてね?」


「かしこまりました」


「それで、フールの脱獄の件は?」


「こちらも(かんば)しくありません」


「困ったわね」




 うーんと唸って紅茶を飲んで考える。


 フールが捕まらない事で、不利になる事はもう無い。


 彼が第二王子派の仕業と言い残した為に、こちらは優位に立てる気配さえある。


 でも、だとすると彼は誰の味方なのか?


 そこに謎が残る。


 


「奴はかなりの手練(てだれ)でした。もし本当に第二王子の手の者なら、こちらも腹を括ったほうが良いと思うくらいに……」


「そんな者が向こう側の人間……それは大丈夫なの?」


「王妃殿下、安心なさってください。アレは恐らく第二王子の手先ではなさそうです」




 やはりそうかと思うが、では誰かというと心当たりがあり過ぎて分からない。




「誰が彼を送り込んで来たかは?」


「我々は今それを調べている所です。簡単にはいきませんが、遠からずご報告できると思います」


「それは、フールを泳がせているという意味?」


「そうですと言いたい所ですが、彼は途中までしか追えませんでした。しかし次に繋がる者の追跡はできている。そういう事です」


「……分かりました。引き続き続けてちょうだい。──それから。……クラウンはどうでした?」




 私の声の調子が変わった途端、彼はニヤリと笑った。




「結果から言いますと、概ね計画通りいきました。ただ、思いの外ダメージが大きかったようで……」




 やっぱり、今朝の体調不良はそれが原因ね。




「ルーザリアの言動が予想以上に酷かったの?」


「そのぉ……彼女がと言うより、奴のほうが何枚も上手でして……」




 はっきり言ってもらわないと、どう言う意味かさっぱり分からない。


 私の苛つきを察して男は言い直す。




「奴は我々が見ている事も、クラウン殿下がいる事も分かっていて……完全に煽ってました」




 これはこちら側を取るに足らない相手と見下されたも同然だった。


 捕まって牢に入れられ、拷問も受けていた彼にそんな余裕があるなんて……。


 私はフールの背景に強大な者の影を感じ、戦慄を覚えたのだった。

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