心の声〈フールside〉
本日3話目です。
薄暗い石造りの地下道に足音が響く。
不規則なその音は明らかに牢番のものとは違い、俺はオヤっと身を起こした。
身体中が軋むような痛みに耐えしばらく耳を澄ませていると、思った通り音が近付いて来るのが分かる。
ようやっと来たか。
遅いんだよ。
心の中で悪態を吐き、手早く最低限の身なりを整える。
こ汚くしたままでドン引きされ、逃げられたら敵わない。
でも同情を誘う事も忘れてもいけないから加減が難しい。
思わず俺は苦笑した。
やがて最後の角を曲がってお目当ての人物が姿を現す。
彼女はキョロキョロ辺りを窺い、そっと通路を歩き出した。
「……フール……? フール……?」
「ルーザリア様……」
俺を呼ぶ小声に哀れっぽく返事を返す。
「フール! 大丈夫? こんなになって……ごめんなさい私のために……」
「ルーザリア様……良いんです。謝らないでください……」
「でも……だってこんなに痛そうで……ひどい事されたのね……」
「えぇ。でも僕は間違った事は言ってない。グレイシア様があなたに酷い仕打ちをしていたと、証言してくれた人はたくさんいたんですから……」
「えっ……あ……いえ、そうね、そうよ……大丈夫……」
そんなに動揺してたら嘘だってすぐバレるぞ?
本人の知らないうちに工作してやった俺の苦労を無駄にしないでほしい。
今まで個々に嫌がらせしていた者たちを誘導し、纏め上げるのは結構大変だったんだ。
ベンチで嘘泣きしてるお前に、俺が集めたエキストラたちが『何かされた』とか『それは誰だ』とか聞いて、集まって来た誰かが踏んづけたペンケースを見付けて『これを壊されたから泣いた』とか『ここに来る時グレイシア様とすれ違った』とか言って罪を捏造してやったのが最初かな?
途中からイジメてた人が統率されたり入れ替わってたの、分からなかったろ?
殿下と出逢ってからお前が受けたイジメの首謀者は、実はグレイシア様と見せ掛けた俺たちだ。
まぁ薄々グレイシア様じゃないって分かってて否定しなかったのは当の本人だもんな。
あんたが確信犯なのはみんな知ってるよ。
ついでに俺の最後の仕事にも一役買ってもらう。
「ルーザリア様……僕、謝らないといけなくて……」
「謝る? なぜ? フールは悪くないんでしょう?」
「僕……騙されていたんです……今までずーっと気が付かなくて……」
「騙されたって、誰に? 誰がフールを騙したの?」
本当に初耳だろうから、演技要らなくて助かる。
あ、でもコイツ今ニヤって笑いそうになったぞ。
これで人のせいにできるって思ったのか?
途端に目がキラキラしてきた。
良い根性してやがる。
次話『依頼完了〈フールside〉』




