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20.解放

本日2話目です。

 ランプの灯りしかない馬車の中は薄暗く、その心許ない明るさの中灰金髪(シルバーブロンド)鷲目石(イーグルアイ)のような銀の瞳が、幻想的な美しさで輝いている。


 私の記憶に強く残っているヴィクターはまだ少年時代の姿で、青年と呼べる年齢に育った彼とこんなに近付いたのは初めてだった。


 ほんの少し前までは従兄弟(いとこ)や兄弟とそれほど変わらない、対等な関係の友人だったのを……ここ数時間で身近な異性へと認識を改めたばかりだったのに……。


 まだヴィクターとどんな距離感で接すれば良いか分からなかった私は戸惑い、その雄々しくも美しい獣のような瞳に射られて、胸が爆発しそうなくらい高鳴っていた。




「俺は殿下の婚約者の『グレイシア王太子妃候補』を自由にしたかったんだ」


「え?」


「ただのパール侯爵令嬢に……俺の幼なじみの『シア』に戻したかった」




 クラウン殿下と婚約する前にヴィクターが呼んでいた愛称で呼ばれ、くすぐったい気持ちになる。




「私は自由じゃなかった?」




 クラウン殿下の婚約者としては行動制限も緩く、割と自由に何でもさせてもらっていたと思っていたのだけど……?


 どうしてそんな結論に至ったのかと首を傾げる。




「少なくともあれはシアが望んだ場所じゃなかった」


「王家に望まれたのだから、それは言っても意味がないわ」


「でも。その原因を作ったのが俺だってことが……自分で許せなかった」


「それは違うわ!」




 その言葉に異常な反発をしてしまった。


 思わず見上げた先で、真剣な彼の瞳とかち合って動揺する。


 今この空気を乱したらいけない気がして──だから慎重に言葉を紡いだ。




「殿下の婚約者に指名された事はヴィクターと関係ないわ。少なくとも私は、ヴィクターのせいだなんて一度も思った事ないのよ?」




 確かに、王太子妃になるのを夢見ていた令嬢はたくさんいた。


 そして私が殿下の婚約者という立場を有り難がっていないなど、けしからん事だとお叱りを受けることもあった。


 現にその事でライバル視されたり嫌がらせされたりも経験している。


 しかし選ばれてしまった以上、自力で変えようが無いのも事実で……。


 だからってそれを誰かのせいにはしたくない。




 それをどう説明したら良いか悩んでいる私をヴィクターは何か勘違いしたみたいだ。


 彼は沈痛な面持(おもも)ちでおずおずと問いかけてきた。




「殿下と……あのまま結婚したかった?」


「そんなことない。今もホッとしてる。国王陛下からの声掛かりだなんて、絶対(くつがえ)せないって思ってたから……」




 即答したら、小さく安堵の息が聞こえた。




「余計なことしたのかと思った……」


「婚約解消できたのは嬉しいの。だけど、その可能性すら私は考えた事がなかった。それが情けなくて……」




 ダメだと勝手に決め付けて諦めていたのは私だ。


 自分の決まってしまった未来をそういうものだと無理に納得させて、全部の苦労を自分で背負い込もうとしてた。


 それすら気が付いてなかった。


 もっと前に、自分とパール侯爵家(家の力)を最大限に活用して根回しを念入りにやっていたら……?


 今頃とっくに婚約解消できたのではないかって、ヴィクターに罪悪感を持たせないで済んだかもしれないって、思ってしまった。




「手を貸してくれる人はいたのに、素直に『助けて』って言えなかったのは私だもの……」




 私はゆるく首を振って『ヴィクターは悪くない』って伝えたつもりだけど、どこまで伝わるだろう?


 握られた手は離されず、彼の親指が手の甲を撫でる。




「ずっと後悔していたんだ。あの時、俺が変な意地を張らなかったらって……」

次話『ヴィックとシア』

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