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六、求婚の歌(二)

本日二話投稿です。

こちらは二話目。

ご注意下さい。




「私は当然、兄が次代の長だと思っていましたから、人界行きを丁度良いとすら思っていました。ですが彩歌(さいか)は違ったのです。霊力が最も高い私を、共に人界へ降りたふりをして追い払い、こちらへ戻って来たのでしょう。一色しか持たない兄や私より、『未熟な四枚羽でも三色を持つ己が(おさ)に相応しい』と言いはなったそうです」


 立葵(りゅうき)が大きく息を吐き、私の肩で俯いたまま話を続けた。


「狙ったのでしょうが、兄が他の鳥族の調停で出払っていたのもいけませんでした。自分の伴侶になることを断った義姉を、彩歌(さいか)は配下に命じて露台から落とさせたそうです。彼女は(おう)に成れないように、罪人用の神縄で縛られたまま突き落とされていたと聞きました。……ツガイの叫びを聴いて急ぎ戻って来た兄が、彼女の亡骸を抱いて泣き叫んでいたと、私は彩歌を止めようとして痛めつけられた母から聞かされたのです。胸騒ぎがして私が戻ってきた時にはもう……伴侶を殺された兄は狂ってしまっていましたから」


「立葵さん。もう話さなくてもいいですよ、つらいでしょう?」


 つらそうな目をして立葵(りゅうき)が首を振る。今話さないと余計につらいですから、と言って。


「兄は、彩歌に従った者達を嘴で裂いて翔べないようにしたあと、義姉が落とされた場所から次々と落としていったのです。彩歌は兄から逃れようとしましたが、もとより四枚羽であっても奇形で翔べぬ彼に勝ち目はありません。兄は嗤いながら、彩歌を何度も何度も岩に打ち付けていたそうです」


 気がつくと私の手が励ますように立葵の手を握っていた。その手に力を込める。


「…………兄は暫くして正気に戻りましたが、その時にはもう、人型に戻れなくなっていました。自ら離宮に籠って、今もそのままなのです…………」


 何と声をかけて良いのかわからなくて、そっと垂れた羽を撫でる私に微笑んで立葵は話しを続けた。


「その結果、私は一族に、仙界の凰の中から伴侶を娶り長になるよう言われました。ですが、私はどうしても、仙界にいる凰から伴侶を選ぶことが出来なかった。だって、そうでしょう? 兄と私のどちらかが色つきの四枚羽であれば、あんなことにはなりませんでした。長は色付きの四枚羽でなければならないからです」


(あれ? なら解決してない?)

 違和感を感じたけれど、そのまま話を聴く。


「極彩色の父を持ちながら、兄は母と同じ紅一色の二枚羽の(ほう)。私は四枚羽で産まれましたが、黒一色で…………そのせいで羽族は二つに別れたのです。二枚羽でも翔べる兄を推す者達と、翔べなくても四枚羽で三色持ちの彩歌を推す者達とに。私は愚かでした。暢気にも、あんなことになるまで兄が長になれば全て落ち着くと、本気で信じていたのです」

「おかしくないですか? 立葵さんを長に望む者はいなかったの? 翔べるし四枚羽でしょう?」


 立葵は私を見てまた柔らかく微笑むと、両腕と四枚の羽で私を包み込んでくれた。


「ふふ。ありがとうございます、夏乃さん。でも私は、四枚羽であっても最初から、長にはなれぬと、重鎮達に言い聞かされてきたのです。黒は全ての色を呑み込むから、色とはみなされないと。それがどうです? 従兄がいなくなり、兄が籠ってしまったとたん、長になれ、ですよ?」


 優しく微笑んでいた立葵の顔に、一族に対する苛立ちと己への蔑みが滲んでいた。


「私は一族の言うとおりに伴侶を選ぶなど、意地でもしたくありませんでした。大体、ツガイではないとわかっていて伴侶にするなど出来ません。こちらに私のツガイがいないことはわかりきっていましたから、彼等を振り切って、もう一度人界に降りました。そこでやっと、私の凰である夏乃さん、貴女を見つけたのです」


 言葉を切った立葵が申し訳なさそうに、ですが後悔しています、と言い出した。

 

「……たとえどんな理由があろうと、こちらの事情で、納得していない夏乃さんを連れてくるのは間違いでした。申し訳ありません」


 絶滅の危機だと聞いて、許せはしなくても怒るに怒れなくなって、盛大に溜息を吐いた。


「ところで立葵さん、どうして私がツガイだと言い切れるんですか?」

「簡単なことです。(ほう)の求婚の歌が聴こえる(おう)こそが、その鳳のツガイなのです」

「私にも求婚の歌を歌ったんですか?」

「はい。夏乃さんは『ずっと聴いていたい』と言ってくださいました。覚えていませんか?」

「……ごめんなさい」


 酔っていたときに歌ってくれたらしいけれど、まったく記憶にない。申し訳なくて穴に埋まりたかった。


「いいのですよ『ちゃんと聴こえるでしょう?』


 立葵が鳳になって唄ってくれる。

 ルルルーという低い響きとツィーという高い響きが重なりあって、雅楽のような複雑だけども美しい、ずっと聴いていたくなるような調べが聴こえてきた。


「これが求婚の歌?」

『ええ、間違いなく夏乃さんは私の凰です』

「頭に立葵の声が聴こえるのはどうして?」

『最初から鳳凰に産まれた場合は別ですが、鳳凰以外の外身(そとみ)を持って産まれると、ツガイの鳴き声しか聞こえません。夫婦の契りを終えて初めて、ツガイの鳴き声が言葉として聴こえるようになります。鳳凰の外身を持ったあとも、他の鳳凰の鳴き声は只の鳴き声にしか聞こえないのですよ。ツガイの鳴き声だけが、どちらの姿でも言葉で聴こえるのです』


 立葵が再び人型に戻る。


「夏乃さん、大好きです。どうか私の伴侶になってください」


(あ~あ。危ないってわかってたのに)

 朱くなった私を見て嬉しそうに笑う立葵に、絆されてしまったことに気がついた。

 こんなに嬉しそうに笑ってくれるなら凰でもいいか、と思えてきてしまう反面、人外になっても帰りたいと思う気持ちも大きいままだった。


(どうしたって、私の世界は向こうだもの)


 肝心な聞きたいことが聞けていなかったから、黙って笑っておくだけにした。






長文が多くて申し訳ありません。

でもその分、大事な回なのでお許しを。


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