十二、従者と侍女選び(二)
(ハァ、侍女は終わったけど、今度は従者選びかぁ。男性ばかりだと華やかさが無くな……え?)
もう一度、その人を見る。
(女性じゃない? あんなに美人なのに侍女じゃなくて従者になりたいってこと?)
色白でかなりの美形なので、てっきり侍女希望だと思っていた。剣とか持ちそうに見えないくらい細い。
私が見ていることに気がついて、その人の顔が一層強張ってしまった。
(私の従者は嫌なのかな?)
ちょっと悲しくなったけれど、侍女選びと同じように手を払っていく。
男性には眉を顰めた者はいない代わりに、口の端を上げた者や顔を強張らせた者が多かった。
(選びにくいなぁ……仕方ない、誰も選ばないというわけにもいかないし)
開き直って、顔を強張らせた人の中から選ぶことにする。嫌な顔をされるよりまだマシだ。
選ばれて、
礼をする体格のいい男性。
息を吐く細身長身の男性。
ガッツポーズする少年っぽい青年。
最後に、あの性別不明な白い人。
護衛もするなら気も張るだろうし最低限このくらいは必要だろう。
(やっと終わったぁ)
選ばれなかった者は既に仕事に戻ったらしく、小広間には、木槿さんの他に私が選んだ六名しか残っていない。
(はぁ、左手しか動かしてないのに酷く疲れた気がする。人を選別するのはこんなに疲れることなんだ)
ぼーっ、としてる間に六名が下に並んで膝をついていた。
「名を申し上げなさい」
木槿さんが彼等に声をかける。挨拶は女性かららしい。
元いた世界とは色々違うようだ。
「桑花と申します。奥様、この度はお選びいただき、本当に嬉しく思っております」
(ふんふん、若葉色の髪のキラキラちゃんは、桑花というのね)
本当に喜んでくれているのが伝わってきて嬉しい。
「瑠璃と申します。私のような者をお選びくださり心より感謝申し上げます」
うるうるさんも、肩までの光沢のある青髪をさらっと下げて静かに挨拶をしてくれる。
(うるうるさんは瑠璃さんか。似合ってるなぁ。桑花ちゃんは可愛い感じだけど、瑠璃さんは大人しい美人さんて感じ)
「青嵐と申します。誠心誠意お仕えしたく存じます」
「疾風と申します。至らぬ点もございますが精一杯精進し、奥様のお役に立ちたいと存じます」
「野分と申します。選んでくださって嬉しいです。頑張ります!」
真面目さんに、謙虚さんに、元気くんか、それから────
「花信と申します…………奥様、お仕えする前に、私をお選びになった理由を教えて頂いても宜しいでしょうか」
ピンと空気が張りつめる。野分が花信の袖を引っ張るのが見えた。
「花信、控えなさい」
木槿さんが目を眇めて声を低くする。
花信の発言は、彼の立場からするとかなり不味いものらしい。
スッと手を上げ木槿さんを止めた。
不満があるなら早めに聞いておいた方がいい。今なら選別を取り消すことも可能だろう。
「何故、それを聞くのです? わたくしの選んだ理由によっては従者になりたくない、と、そういうことですか?」
「はい」
「やめろ、花信」
花信は、止める野分を一度も見ない。ひたと私だけを捉えている。
「奥様は選別が始まる前、私にだけ長く目を留めておられました。ですからお聞きしたいのです」
(嘘はダメだろうな)
「わたくしが貴方を選んだのはその外見が理由です」
「くッ」
花信が歯を食い縛る。
彼にとっては屈辱でしかないだろう。でもしょうがない。本当のことだから。
「わたくしには貴方が女性と男性のどちらなのか、わかりませんでした。ですから、貴方が名乗って声を聞いてはじめて、貴方が男性であると知ったのです。わたくしの目は確かでした」
「どういう意味ですかッ」
「花信やめろ、頼む」
仲間に抑えつけられても彼は目を逸らさない。
「わたくしは、仮に貴方が女性だとして、侍女と従者のどちらを希望しても、貴方を選択したでしょう。ですが男性で安心しました。男性なら、たとえ護衛中に顔に傷を負っても女性よりは影響が少ないですから」
意味がわからないという顔で、今度は全員が花信ではなく私を見ている。
「貴方の様子からみるに、外見を揶揄されてきたのでしょう? 女男とでも言われましたか?」
花信の目が私を睨む。彼を抑えていた野分が、そっと目を逸らした。
「事実女性なら。力において圧倒的に不利な女性の身で従者を望み、選別の場に堂々と立っているとすれば、その研鑽は凄まじいものであったでしょうし称賛されるべきものです」
身長が百七十六もあって、男女と言われ続けた私にはわかる。女らしく見られようと精一杯努力して、砕け続けた婚活は涙なくしては語れない。
「ですが貴方は男性です。体格が不利なことはご自分でもおわかりでしょう? 同じ男性に女性と揶揄されながら、馬鹿にされぬよう、彼等以上に力を磨いたのではないですか? そんな貴方が、選別の場で堂々と顔を上げている。自信がなければ出来ないのではなくて?」
「大変、失礼を申しました。あまりにもこの容姿で難儀してまいりましたので、またそれで判断されるのかと。自惚れが過ぎたようです」
平静を取り戻した花信が、羞恥のせいか首まで朱くして平伏した。
「あら、自惚れではなくてよ。貴方の容姿を理由にしたのは事実ですもの」
「奥様、どうかご勘弁を」
顔を上げた花信に厳しい目を向ける。
「いいえ、花信。木槿に謝りなさいな。木槿は、わたくしを大層大事にしてくださる立葵様が信頼をおく者です。その木槿が、私の選択を止めなかった。わたくしは彼の貴方への信頼を信じただけです。つまり貴方は、立葵様を疑ったことになりますわね」
「申し訳ありませんでしたっ」
「お分かりになったなら良いのです。では皆さん、明日から宜しくね。行きましょうか、木槿」
木槿さんが怪訝そうな顔をしたけれど、部屋に戻りたいと目で訴える。もう体が怠くて早く休みたい。
「では、六名とも明日から奥様付きとする。本日中に部屋を移り、明日に備えるように」
言外の訴えが通じたおかげで、早々に切り上げてくれた。




