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一、シャツ一枚で?


【現在、改訂中です】

五十一話まで投稿してあったのですが、人物設定の変更・削除・加筆しています。ページ丸ごとカットしたりもあるので、申し訳ないのですが、それが終わるまで第四章の投稿は延期させて頂きます。

漢数字の貢数がついているページが改訂済みの部分ですが、いずれ、未改訂のページは先行して削除していく予定です。

開示対象外にしてありますが、未改訂部分の削除が終了次第、開示します。




「誰かぁぁ! 助けてくださーい!」


(さむい……このままでは、凍え死ぬ)


 目が覚めたら巨大な鳥の巣で震えていた。

 その鳥の巣は、やたら寒い吹きっさらしの崖の途中にあって、逃げることも隠れることも出来ないハード仕様。


(でも、『崖の女性会社員、無事救助!』とかなんとかって、ニュースに流れちゃうよね? こんな格好、両親がみたら……ちょっと待って、その前に私が堪えられない気がする)


 どうしてこんなことに?

 彼シャツ(ハート)一枚の格好が、全くもって不適切だ。第一、このシャツの主に全く心当たりがない。


「いやいや、シャツより恥より命が大事よ。 ──せーのっ、おーい! 山岳救助隊とか自衛隊とか、この際担当はおいときましょー! 助けてくださーい!」


 ビュービュー吹きすさぶ風が五月蝿くて、返事はあったのかなかったのか。さて、どっちだろう?


(あ! もしかして救助隊、とっくにスタンバイ中だったりしない? なら早く居場所を知らせないと)


 でも立ち上がるのは論外だ。強風に揺れる鳥の巣は、湖に浮かぶボートより頼りない。ただ、揺れているのが巣なのか自分なのか、自信がないのは寒過ぎて震えているから。


(まさか、ひっくり返って真っ逆さま、なんてことは……)


 台風の翌日、地面でバラバラになっていた鳩の巣が脳裏を過る。


(あるかもしれない)


 ガタガタ震えながら四つん這いで端に寄り、下を覗く。とたんに強風が吹き上げ、長い髪を容赦なく顔に打ち付けてきた。暴れる黒髪の隙間から懸命に目を凝らしても、オレンジの制服は見当たらない。


「はは……」


 でも、スカイツリーの展望台より遥かに高い場所にいることはわかった、わかってしまった。


(違うの。到着しているけど、ちょーっと高過ぎるせいで見えないだけ。景色を眺めてたらすぐよ)


 目の前には馴染みのない山々。

 くねる大蛇のような大河を裾に、肌に緑を纏わせた岩山が聳えている。その頂上は雲を突き抜け見えない。


 こんな場合でなければ溜め息を吐く風景は、いつか友達と『行ってみたいねー』とパンフを眺めた、中国の桂林(コイリン)によく似ている。でもあれだ。そんなわけないのはわかっている。

 昨日、日本にいたのは確かだから。


(だからここは中国じゃない。そう、きっとあそこ、いつか友達と行った大分県の……なんて言ったっけ……ええと、そう、耶馬溪! 耶馬溪なの、ここは。お願い、誰かそうだと言って!)


 岩山がちょっと高過ぎないかなー、とか、何で息が苦しくないのかなー、とか、そんな違和感の前には移動距離の不自然さなんて些事だ些事。


(フッ 日本にもまだまだ秘境があるってことよね)


 嫌な予感を無理やり追いやって記憶を探ってみる。


 一番新しい記憶は、昨日港区であった同僚の結婚式だ。二次会にも行ったし間違いない。


『まだ二十三なのに、独身仲間がいなくなったー』

『やっと見つけました。夏乃さん、僕が番ですよ』


 いつものBarで愚痴ったら、急に若返って格好よくなったマスターに、妙な慰めをもらったことまでは覚えている。でもその後がさっぱりだ。


(ロマンスグレーの良きおじさまだったのになー。お持ち帰りされて、ポイッてされたのかな。こんな崖に? ヒドイ)


 デリケートなところに使用済み感があるけれど、なかったことにした。だって、今悩んだってしょうがない。どんな悩みも生きていてこそ、だ。


(神様、私にもご縁をくれとはもう言いません。自分で何とかしますし、お酒も呑み過ぎません。ですからお願いです、お布団をください)


「…………神様も反応無しか」


 せめて空耳くらいは聞かせる度量があってもいいだろうに。


「誰かぁ! 助けてくださーい!」


 神頼みを諦めてもう一度叫んでも『おーい、助けに来たぞー』なんて素敵な声は聞こえてこない。


(あぁ日本が誇る、橋桁の子猫すら救助してくれるオレンジ隊まで私を見捨ててしまったの? はは、そんなまさか)


「さ、ぶい……さぶ、いよ」


 さっきより歯の根が合わなくなってきた。


(帰りたいー)


 狭くてもいい。暖かい我が家が一番だ。第一、父親が建ててくれた憩いの家より大きい巣なんて、ケツァルコアトルスの生き残りでもいたのだろうか。


 そんなことはどうでもいい。今、私に必要なのは熱源! 炬燵、ストーブ、暖炉に焼きいも・・・。芋?


(いよいよヤバいかもしれない。支離滅裂になってきた気がするし、ちょっと眠くなってきた。 ──素敵な彼が川の向こうで手を振ってるぅ……ダメ! ダメよ。本物とチャペルを歩くまでは死ねない!)


 だいぶ前から存在しないので、妄想でも彼氏の顔がはっきりしない。


「おーい、夏乃さーん、大丈夫ですかー?」


(アウトだこれ。幻聴まで聞こえてきた)


「すみませーん、お待たせしましたー」


 帽子のピザ屋かと思うような気軽さで、誰かが呼んでいる。うっすら瞼を上げると、真っ黒な羽を背負って手を振る二十歳くらいのイケメン。


(あのジェンヌ、浮いてない? いや、男ならジャンだし。そもそも宝塚に男はいない。──父さん、母さん、ミースケ。ついでに兄貴。幻聴に幻覚まで見えちゃってるけど、ちゃんと帰る。絶対に帰るから)


「すみません、夏乃さん。浮かれてて、コートをあちらに置いてきたこと忘れてました」


 アップで映る、金が散った紫の瞳。


「ピザ屋さん、ヅカと迦陵頻伽(かりょうびんが)、どっちですか? どっちも間に合ってます」


 ちゃんと言えたかわからない。

 だって、歯がガチガチするくらい寒かったから。









長編なので、お話はゆっくり進みます。


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