厄祓師の1日
厄祓師の1日は早い。
朝の5時、家の隣にある小屋の扉を開ける。
彼の祓場だ。
先に、神棚のところにある、壺入りの清水で身体を洗う。
これをしないと、『力』が発揮しない。
清めたあとは、朝の祷を捧げる。
このルーティーンを終えると、『祓い人』がやってくる。
▪▪▪
今日の『祓い人』は、ここら集落の長の娘だ。
どうやら、最近……身体の調子がおかしいらしい。
医者に診て貰ったのだが、特に異常は見当たらなかったと聞き及んでいる。
「昨日の夜から、背中が寒いのです。所々痛くて……うぅ。」
娘が細々と言う。
「申し訳ない、少し身体を触ってもよろしいか。」
彼がそう言うと、娘は頷いた。
腰の凹みの部分を触った時、娘が悲鳴をあげた。
「ふむ、シャレンバの仕業かも知れん。」
シャレンバ……『村一番の家庭を襲う霊』で名を馳せている。
主に、背中の凹み部分に潜む。
男系を襲うとされるが、娘子に乗り移るのは珍しい。
「そういや、次期の長主はどうしたのだね。」
娘に聞いてみた。
次の長主は娘の兄だ。
「争いの地へ行ったっきり、帰って来ませんの。」
そう言えば、隣の集落とのいざこざが、またぶり返していると聞いた。
もしかしたら……と思ったが娘の前では言えない事だ。
「とりあえず、今はシャレンバの祓いをしよう。」
リナバの木の枝を、神棚から取った。
この枝は、霊力を失くすと言われているモノだ。
娘の腰に枝を置き、祓術言葉を唱える。
「……あれ、痛くない。」
娘がそう言った。
「お祓い、これにて終縁。お疲れ様でな。」
娘は「ありがとうございました」と言って去った。
▪▪▪
最近は、一人の『祓い人』で倒れそうになる。
儀式は、他人の思う以上に気力・体力を失う。
……後継者は、居ない。
この『力』は、先天的で習得して得られるモノではない。
彼の命が続く限りは、一人でも『祓い人』が減ることに従事しないといけない。
次の日もまた、『祓い人』が訪れる……。