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5話 木彫りの少年

俺とゼゾッラの旅に白兎のイナバが加わった。


2人と1匹と言う珍妙な旅ではあったが賑やかになったのは確かだった。


イナバは前に話していた通りに薬の処方が出来、その辺りにある野草から薬草になるものを見分けるのが得意だった。


そして、複数の薬草から旅の疲れに効く丸薬などを処方してくれるので自分たちの旅に役立ってくれた。


ある日、俺は


「なんでウサギが薬なんて作れるんだ?」


と聞いた。


その日は満月だったのだが、月を櫂で指しながらイナバは言う。


「月の模様を見てください。

あれは人によって色んな味方があるのですが、月の上で仙薬を作るウサギとも言われているのですよ」


俺は満月を見るがあまりよく分からない。


「シャルルには分かりづらいかな?

図にするとここがこうなって・・・」


「ああ、なるほど。

餅ではなくて薬をついているということか」


ゼゾッラが地面にカリカリと書いていくことでようやく理解した。


「しかし、その伝承があるからって何でイナバが薬を作れるのと繋がるんだ?

実際に月で薬の作り方を学んだ訳じゃないんだろ?」


「え、ええ、そういう訳ではありませんが・・・あれ?

伝承があるから私が薬を作れるで納得してもらえませんか?」


俺の言葉にイナバは明らかに戸惑っていた。


何故だろうか?おかしなところは無かった筈だが。


「ごめんね、イナバ。

シャルルの物語は動き出したばかりだから、この世界の法則や役割をまだ理解してないんだよ」


「え、そうだったんですか。

それなら仕方ないですね」


一体何の話をしているのだろうか?


物語?法則?役割?


よく分からない単語が並ぶ。


「おい、今のは一体・・・」


「はいはい、もう寝ようね。

ほら、今日も同じ毛布で寝てあげるから」


ゼゾッラはクスクスと笑いながら俺をテントの中に引っ張り込む。


男女でそれはどうかと思うのだが、ゼゾッラは何故か俺と同じ毛布で寝たがる。


無理に引き離してもいつの間にか毛布の中にいるので俺は諦めていた。


何故か安心する気持ちがあり眠りやすくなるので気にならなくはなってきたが。


こうして2人と1匹での旅は続いていき、俺たちはある村にたどり着いた。


村で宿を取ろうと思ったが路銀が心許ないことに気付く。


その事を話すとイナバが


「ならば私の作った薬をお売りください。

兎印の薬とあらば飛ぶように売れるでしょう」


という事で村で薬を売ってみた。


イナバの言う通りに薬は飛ぶように売れ、俺たちは村で1ヶ月以上滞在できるほどのお金を稼ぐ事ができた。


ただ、薬を売っている最中に不思議なことも起こった。


木で出来た人形が辺りをウロウロと歩いていたのだ。


少年と思われるフォルムをした人形はこちらをチラチラと見ながら持っている金貨をアピールしていた。


しかし、薬を買いたいと言う訳でもなく暫くするとそのまま去っていったのだった。


お客に話を聞いてみると、流石奥様方はペラペラと喋ってくれる。


「ああ、ピノッキオのことかい?

あれはオモチャ職人のジェペット爺さんの作品でね。

何でも生きて泣き叫ぶ木から人形を作ったら動いたらしいわよ。

ジェペット爺さんは自分の作品が動き出したことに喜んで息子のように接していたんだとねぇ・・・手がつけられないほどのイタズラ小僧になってしまって。

最近は大人しくなったけど、それまではピノッキオが何かするたびにトラブルが起きて大変だったんだよ」


立て板に水とはこの事か、ペラペラと淀みなく喋る奥様にお礼を言い薬を少しサービスしておく。


「あら、あんた中々いい男じゃないの!

また困ったことがあったら何でも聞いてちょうだいな」


と奥様は上機嫌で帰られた。


ここで俺は商売を切り上げて宿に向かった。


部屋に入るとゼゾッラに向き合う。


「一体何があったんだ?」


実は俺とイナバはそんな話かという様子で聞いていたのだが、その話の途中でゼゾッラの顔色がどんどん悪くなっていくのが分かっていた。


「シャルル・・・は知らないだろうがイナバなら分かると思う。

実は私とシャルルが出会った時に2人の野盗に襲われて撃退という名目で殺した」


俺にはその意味が分からなかったが、ゼゾッラの言葉を聞いたイナバの顔色もみるみる悪くなっていく。


「それってもしかして狐と猫なのでは?」


「ああ、ここでピノッキオが金貨を持ってウロついているのが証拠なのだろう」


「待て待て、2人だけで納得しないで俺にも分かるように説明してくれ」


ゼゾッラとイナバの間だけで話が進んでいてついていけない俺は思わず流れを止める。


「あんまり話したくは無かったんだけど・・・シャルルに狐の役割が与えられてるかもしれないから仕方ないか。

猫は間違いなく私だろうし」


「私が協力してもいいのですが、ウサギが狐をやるというのはかなり無理がありますからね」


「はぁ〜仕方ないか。

もう少し何も気にしない気楽な旅をしていたかったんだけどね。

この話を聞いたらシャルルの常識とか全部打ち崩されるけど、それでも聞きたいかい?」


普段とは違うゼゾッラの真面目な雰囲気に気圧されそうになる。


でも、俺には2人だけで納得して会話しており置いていかれるのが堪らなく嫌だった。


「・・・ああ、聞かせてくれ。」


そうしてゼゾッラが真面目な顔で話した内容は驚くべきことであり、俄かには信じられない話であった。


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