3話 タヌキとウサギの悪逆行為
「タヌキを縛るのは分かるが、何でウサギは袋に入れた上で縛ってるんだ?」
「うーん、なんとなく?
私の役割からこれはしとかなくちゃいけないも思うんだよね。
まぁ、シャルルが気にすることじゃないよ」
現在、俺たちの前には縛って転がしてあるタヌキとウサギがいる。
このまま放っておいても良かったのかもしれないが、この2匹は俺たちの言葉を喋っていた。
ならば話を聞けば何か分かるかもしれないという好奇心に勝てなかったからだ。
「ウサギは私的に役に立つけどタヌキは意味ないんだよね。
やっぱり鍋にしちゃわない?」
「ゼゾッラはどんだけタヌキ鍋食いたいんだよ。
タヌキの肉は不味いって話だぞ」
「うーん、別に食べたいわけじゃないんだけど。
何となく鍋にしてあげたほうが因果応報?
そんな気がする」
「全く分からん。
とりあえず起きたら話を聞くとして俺たちも少し休むか」
「ふふーん、じゃあ私はここで休もうかな」
ゼゾッラはそういう胡座をかいて座る俺の上に乗っかってきた。
力を抜いて背中から俺にもたれかかってくる。
「おい、これじゃ俺が休めないだろ」
「こんな美少女がくっ付いてるんだから精神的に休めるでしょ。
ほら、手はここ!」
と俺の手を持つとゼゾッラを抱きしめる形に動かした。
「はぁ〜もう好きにしてくれ」
俺はそう言って目を瞑る。
口ではなんだかんだ言いながらもゼゾッラの存在を感じて安心したのか直ぐに意識を失ってしまった。
「は〜い、お休みなさい」
意識を失う直前、ゼゾッラの声が耳の側で聞こえた気がした。
夢を見ていた。
紙に何かを書いている中年男性。
あの男性は俺だ・・・今より歳をとっているが俺のはずだ。
書いているのは絵・・・何かの動物の絵だ。
何の動物だったかな?
ウサギ?キツネ?それとも犬?
いや、違う。
あの絵は・・・
「タヌキーーーーーーー!!」
そう!タヌキの絵だ!!
「いやいや、違うでしょ。
もう少しだったというのに・・・これ以上変なことにならないうちに起きた起きた!」
誰かの声が聞こえて俺はゆっくりと目を開ける。
そこには袋に詰められたウサギが何とかタヌキに攻撃しようともがき、タヌキも何とかウサギから離れようとするも縛られてもがいているという状況だった。
「シャルル、おはよう!
よく眠れた?」
「ああ、寝るには寝たが・・・目覚めは最悪だな」
「変なことに首突っ込むからだよ。
それよりも君たち、少し大人しくしないかい?
私はシャルルとの時間を邪魔されて気が立っているんだよね」
ゼゾッラはそう言って爪を伸ばし2匹の喉元に突きつけた。
「ひいいいいい、大人しくしますので命だけはお助けを」
「私のことは好きなようにしなさい。
しかし、そのタヌキだけはこの世に生かしておいていい生き物ではないのです」
「どういうことか詳しく話してくれないか?
その内容次第ではお前の好きにさせてやる」
俺がウサギにそういうとポツリポツリと語り出した。
その内容は驚くべき話であり本当であるのならタヌキは正に殺しておくべき存在だと思った。
ウサギの話ではこの近くに老夫婦が住んでいたらしい。
ある日畑が荒らされているので罠を仕掛けるとこのタヌキがかかったそうだ。
タヌキは泣いて懇願し、婆さんの説得によりお爺さんはタヌキを逃したらしい。
逃げたタヌキは別の日、お爺さんがいない隙を狙ってお婆さんに会いにきた。
あの時のお礼がしたいといいながら接触し、隙を見てお婆さんを殺害。
お婆さんの皮を剥ぎ、肉を団子にして鍋にしてしまったそうだ
そして変化の術と皮を駆使してお婆さんに変装したタヌキは帰ってきたお爺さんを騙して作った鍋を食べさせる。
全て食べきったお爺さんを見たタヌキは変装を解き
「爺が婆を食った!爺が婆を食った!」
と叫びながら逃げていったそうだ。
自分が食べたものが何だったかを理解したお爺さんはその場で嘔吐した。
それ以来何も食べられなくなり日に日に弱っていくお爺さん。
その時に駆けつけたのがウサギだった。
ウサギはかつて怪我したところを2人に助けられて治療された経験があった。
その時のお礼をしようと立ち寄った際にこの事を聞かされて激怒。
入念な計画を練ってタヌキを貶めて泥の船に乗せ、湖の中央で沈めて復讐は完了するはずだった。
しかし、そこを偶々通りがかった人間が溺れるタヌキを助けてしまった。
そう・・・俺たちのことだ。
何ということだろうか。
ゼゾッラの言う通りに何もしないほうが遥かに良かったじゃないか。
ウサギの話を聞いて俺はタヌキを庇護しようという気持ちがなくなっていた。
寧ろここで殺したほうがいいとさえ思えてきた。
「ま、ま、ま、待ってくだせえ!
そのウサギだって極悪人だ!
あっしの話を聞いてくだせえ」
俺の視線が冷たくなるのを感じたのかタヌキは慌てて喋り出した。
正直タヌキの話はどうでもいいと思ったが、ゼゾッラが
「片方の話しか聞かないのは不公平だよね」
と言ったのでタヌキの話も聞いてやる事にした。
タヌキの話ではこのウサギは海の向こうの国からやってきたらしい。
ウサギは海を渡る時にワニザメに声をかけて君たちが何匹いるか数えてあげるから縦に並んでくれと言ったそうだ。
そして並んだワニザメを数えながら踏んで行った。
そのままワニザメを踏んで行って向こう岸が見えるとウサギを自分の目論見がうまく言ったことに気を良くし、ワニザメを騙していたことをバラしてしまった。
怒ったワニザメは踏みつけられる直前にウサギに噛み付いた。
幸い食べられる直前に回避する事に成功したが、その一撃はかすり、ウサギの背中の毛と皮を剥いでしまった。
「と、まぁこんな極悪非道な奴なんでございまさあ。
こんなウサギの言う事なんて聞いちゃなりませんぜ」
「確かに私は昔ワニザメさんに酷いことをしてしまいました。
その後は苦しむ私に対して子供達が塩水をかけたりなど地獄の苦しみを味わったものです。
しかし、それを救ってくれたのがお爺さんとお婆さんだった・・・そんな優しい2人の命を奪ったお前だけは許せぬ!
罪で地獄に落ちようが、その前に必ず2人の仇はとってみせるぞ!!」
2匹の話を聞いた俺はうーんと唸る。
ゼゾッラも同様の感想を得たのであろう。
「ウサギはタヌキの極悪非道を伝えて生かしておけない奴だと話した。
タヌキはウサギの悪行を伝えてそんな奴の言うことなど聞く必要はないと言う。
そもそもタヌキの論点はズレてるよな。
ウサギは過去の非道を反省してるというのに、お前は上手いことウサギに責任をなすりつけてここから逃れようとしたんだろ?
やっぱりお前の事は信用できんわ」
「だから最初から鍋にしようって言ったんだよ。
やっぱりそれが因果応報だったじゃないか」
「ゼゾッラの言う通りだったな。
ウサギよ、お前は解放してやるからタヌキを好きにしていいぞ」
「ほ、本当ですか!
貴方達をタヌキと間違えて襲いかかった事はお詫びしますので何卒!!」
俺はウサギの言葉に頷き袋から出してやろうとした。
しかし、そこにゼゾッラが待ったをかける。
「いやいや、ここで解放してしまっては折角捕まえた私の苦労が水泡に帰してしまうじゃないか。
シャルルには私の苦労も分かって欲しいものだね」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ?」
「ウサギさんには正当な報酬を払ってもらおうじゃないか。
襲いかかってきた君を無力化した苦労と敵討ちを手伝ってやる苦労の分は請求したいものだね」
ゼゾッラがそう言うとウサギは暫し考えた後に口を開く。
「復讐計画を練る時に予算を使い果たし渡せる金銭はありません。
しかし、私を旅のお供にしてくださるならば必ずお二人の役に立ちましょう。
私は先程見せた戦う力の他に薬の知識もあります。
決してお二人に村はさせないでしょう」
ウサギの言葉を聞いたゼゾッラがこちらを向いた。
「だってさ、どうする?
私はこのまま2人旅でも構わないけど」
「でも、そうしたらウサギが報酬を払えないって文句を言うんだろう?」
俺がそう言うとゼゾッラはニヤっと笑う。
「おや、私のことをかなり理解してくれたらしいね。
素直に嬉しいよ」
「会って一日も経ってないのに、残念ながらな。
ウサギさんよ、それで決まりだ。
俺たちの旅についてきてくれ」
俺はそう言ってウサギを袋から解放する。
ウサギはしばらく体の調子を確認するようにピョンピョンと飛び回った後で俺の肩に飛び乗った。
「必ずや貴女様方のお役に立つと誓いましょう。
私の名前はイナバ。
これからよろしくお願いします」
「俺の名前はシャルルだ。
よろしく頼む」
「私の名前はゼゾッラだよ。
これからは仲良くしようじゃないか」
こうして俺たちの旅に新たな一匹が加わる事になった。
こうしてこの話は大団円で終わりを迎える・・・かに見えたが、まだ話は終わらない。