26話 カラバ侯爵の城とシャルルの記憶
俺は猫に何度も城など持っていないといっていたが彼は
「大丈夫ですぞ。
大船に乗ったつもりで任せてください」
と自信たっぷりに言って馬車の道案内を務める。
やがて遠くからでもハッキリと分かる大きくて立派な城が見えてきた。
「ご覧ください、王様。
あちらが我が主人、カラバ侯爵の城でございます」
「おお、おお!
我が城にも負けず劣らずのなんと立派な城ではないか。
いやはや、このような素晴らしい城をお持ちとは・・・これならば安心して娘を嫁がせれるというものよ」
馬車は城の前で止まり俺たちも降りていく。
俺たちは猫を先頭に王様が、そして横並びに俺とゼゾッラ姫が進んでいく。
「本当に立派なお城ですわ。
これだけ大きければ維持も大変なのではないですか?」
ゼゾッラ姫が俺に尋ねるがどう答えれば良いか分からない。
何せ、俺は初めてこの城に来たのだから。
しかし、その言葉を耳聡く聞いていた猫は振り返る。
「ご安心を。
この城には執事も侍女もメイドすらも必要がありません。
なぜならば・・・ほら!」
パチーンという甲高い音と共に猫が指を鳴らすと箒やモップといった掃除道具が一斉に動き出す。
「この城は其々の道具に命を吹き込む魔法がかけられております。
彼らは私たちが止めない限り半永久的に城の様々な雑務をこなしてくれますぞ。
さぁ、今度はこちらに」
案内された先は大きな食堂だった。
俺たちが椅子に近づくと椅子は一人でに動く。
試しに椅子の前に立ち腰を落とすとその動きに合わせて椅子が前にスッと動いて受け止めてくれた。
「なんと素晴らしい。
私は今までにこのような体験をしたことはないぞ!」
「私もですわ、お父様。
なんと夢のようなひと時でしょうか」
そうして席に座ると料理の乗った皿が自動的に机の上に並んでいく。
そして、その度に料理に必要なフラットウェアがやってくる。
そこは正に魔法の国のようであった。
食事が終わると人一人が乗れる絨毯が現れる。
「どうぞ、その絨毯にお乗りください。
お客様をそれぞれのお部屋に案内してくれるでしょう」
王様とゼゾッラ姫がその絨毯に乗ると絨毯はフワッと浮き始めた。
「旅の疲れもありましょう。
本日はそのまま、お部屋でどうぞお寛ぎください」
「うむ、素晴らしき歓待であった」
「おやすみなさいませ、シャルル様」
2人がそういうと絨毯は二人をスッと運んでいった。
「ささ、どうぞ主人はこちらに」
猫に案内された部屋で俺はようやく人心地ついた。
「一体ここは誰の城なんだ?
勝手に使ってもいいのか?」
早速問いただすが猫は自信満々に
「ここはカラバ侯爵の城、つまりご主人様のお城なので何も問題はありません。
何も気にせずおくつろぎください」
と言うばかりだった。
「そのカラバ侯爵ってのも何なんだ?
俺にはちゃんとした名前が・・・名前が?」
あれ?俺の名前・・・何だったっけ?
「どうされましたか、ご主人?」
思い出せ・・・さっきゼゾッラ姫も呼んでいたじゃないか。
・・・シャルル、そうシャルルだ!
「そうだよ、俺の名前はカラバ侯爵ではなくシャルルだよ!」
「そうでしたね。
しかし、王様達にはカラバ侯爵で通していますので今後はそちらの名前でよろしくお願いします」
猫はそう言って部屋を退出していった。
俺はベッドに寝転びながら考える。
何故、自分の名前を忘れていたのかを。
ゼゾッラ姫が俺の名前を呼んでくれてなかったら思い出せなかったのではないか?
そう考えると胸がゾッとする・・・それと同時に何か違和感を感じた。
猫は王様達にはカラバ侯爵で通していると言っていた。
なら何故俺の名前を姫は知っていたんだ?
「!?」
そこまで考えた時に俺の頭の中に今まで忘れていた記憶が次々と浮かんできた。
ゼゾッラとの出会い、ピノッキオ、ヘンゼルとグレーテル、赤ずきんとフラッシュバックしてくる。
だが、思い出した話は自分が実際に体験したものではなく物語を読んでいるような感覚であった。
「なんだ、これは?」
俺は自分の身に何が起きたか分からずに汗が噴き出していた。
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
「はい、いま出ますよ」
ドアを開けると目の前にはゼゾッラ姫がいた。
「やぁ、シャルル。
もう限界みたいだね。
君が消えて無くなる前に最後の仕上げをして欲しいんだ」
彼女はゼゾッラ姫の皮を被りながら猫のように笑ってそう言った。
物語も佳境に入ってまいりました。
次回、最終回となります。




