23話 ゼゾッラの姿と現れた猫
それから俺たちは豪華な部屋に案内され、来たこともない服を着させられた。
最初にメイドの女性が着替えを手伝いますと言った時には断ろうと思ったが、ゼゾッラから彼女たちはそれが仕事であること。
何より自分では全く服の着方が分からないことから諦めて着せ替え人形になることにした。
そして着替えさせられたのは俺だけではなくイナバも同様だった。
白と黒で彩られたフリルの付いたゴシックドレスを着ている。
最初は服など面倒くさいと言っていたイナバだったが、動物好きのメイド達があれこれと服をあてがい可愛い可愛いと持て囃した為に満更でもない様子である。
そして、ゼゾッラだが最早別人であった。
「お待たせしました、カラバ侯爵」
そう言って現れたゼゾッラはピンクを基調としたドレスに背中まで伸びた金の髪が映える。
頭にはプリンセスの証ともいうべきティアラを着けていた。
そこには俺の知っているゼゾッラの面影は全く無い典型的なお姫様がいたのだ。
「い、いや、それ程待ったわけじゃないさ」
「それなら良かったですわ。
さぁ、行きましょう」
ゼゾッラに促されて俺たちは王様のいる部屋に向かっていた。
イナバの定期検診である。
「しかし、そうしていると本当にお姫様だな。
以前のゼゾッラが思い出せないよ」
「以前の私ですか?
それはどのような姿だったのでしょうか?」
「どのようなって、そりゃ・・・」
あれ?ゼゾッラの姿?
顔は?髪の色は?体系は?
何で全く思い出せないんだ?
ピノッキオの時にフードを被っていたこと。
猫の耳が生えていたことは思い出せる。
でも、それ以外の情報が全く思い出せない。
何でゼゾッラの姿が出てこないんだ?
あんなに一緒にいて旅をしていたというのに。
「おやおや、困らせるつもりは無かったのですが。
そうですね、彼女はこんな姿をしていたのではありませんか?」
彼女は一枚の絵を俺に渡した。
そこには二足歩行する長靴を履いた猫の絵が描かれていた。
ゼゾッラは人間だったはずだ。
なのに俺はその絵を見てからそれがゼゾッラに・・・いや、共に旅してきた猫にしか見えなくなっていた。
頭では違うと繰り返しているのに口からは全く違う言葉が出てくる。
「そうそう、こいつですよ。
ありがとうございます、ゼゾッラ姫」
「全くご主人はおっちょこちょいですな、この吾輩を忘れるなんて」
唐突に横から声がかかる。
そこには先程の絵に描かれた猫がいた。
「イナバさんと会った時も、ピノッキオの時も、ヘンゼルとグレーテルの時も、狼の時も隣にいたのは吾輩だったでしょう?
パートナーの吾輩を忘れるとは酷いですぞ」
「そうだった・・・そうだったな。
俺がお前に長靴と袋をあげてから旅が始まったんだよな」
「さぁ、王の御前に着きましたからお喋りはこのくらいにしておきましょう。
父上、失礼します」
「おお、カラバ侯爵にイナバ殿、それにゼゾッラよ。
よくぞ来てくれた。
見てくれ!
昨日の今日だというのにこんなに体調が良くなったぞ」
王様はベットから起きて屈伸運動をしていた。
そこには昨日の悲壮感に包まれた顔はなかった。
「本当に、父上がこんなに良くなるなんて・・・カラバ侯爵には感謝してもしきれませんわ」
「いえ、本当に王様が良くなられて良かったです」
「ゼゾッラを助けてこの国まで連れてきてくれ、私の命を救ってくれた恩人よ!
何でも望みを言ってくれ。
その全てを叶える程の恩が君にはある」
お礼・・・お礼と言われても何も思いつかないな。
「いえ、ゼゾッラ姫をここまで送ったのはついでのようなもの。
そして王の命を救ったのはこちらのイナバです。
私はお礼を受け取る謂れなどありませんよ」
俺がそう言うと王は何故かプルプルと震えだした。
「何と謙虚な若者なのだ。
侯爵位でありながら民草と共に語り合い、これだけの功績を驕ることなく人に譲ることなど普通の人間に出来ようか?
気に入った!
気に入ったぞ、カラバ侯爵殿!
是非我が娘を嫁にもらってほしい。
そして、ゆくゆくはこの国を継いでほしいものじゃ」
あまりの話の大きさに一瞬思考が飛ぶ。
「いやいや、待ってください。
そもそもゼゾッラ姫の気持ちも考えてないではありませんか」
「私はシャルル様のことをお慕いしておりますわ」
ゼゾッラ姫は頰を染めて俺の方を見つめる。
「ならば決まりじゃな。
いや〜このようにめでたいことはない!
それで一つ頼みがあるのじゃが、婿殿にお願いしてもいいだろうか?」
「え?あ、何でしょうか?」
あまりの展開の早さに頭がついてこないが何とか返事をする。
「カラバ侯爵領を見せてもらっても良いだろうか?」




