20話 猫と姫
狼との会話を終えた僕は村に戻ってくる。
途中に村の名産品である羊毛を使った商品を売る店にやってきた。
「やぁ、こんばんわ!
「おや、いらっしゃい。
昼間に薬屋をやっていた子だね。
もうそろそろ閉めるところだったが、あんた達なら大歓迎だよ。
ゆっくり見ていっておくれ」
店主の言葉に甘えて僕は店内を物色する。
そこで棚の奥に隠れている目当ての物を見つけた。
「おや、これは素敵な品物なのに何でこんな所に隠すように置いてあるのかな?」
「ああ、品はいいんだがその分値段が高くなっちまってね。
しかも、若い娘さん向けだから中々売れないんだよ。
お嬢さん良かったらどうかね?」
「残念ながら僕には似合わないかな?
ああ、でも僕の連れの男の子がいただろ?」
「ああ、確かにいたがあの子がどうしたのかい?」
店主が食いついてきたので僕はコソコソと店主に近づき声を潜める。
「ここだけの話、彼はこの辺りの領地を治めるカラバ侯爵なんだよ。
ああやって薬屋の真似をして各地の村々に薬を配っては安全に暮らせているか様子を見ているのさ。
本当に困っている人にはこっそり薬をタダで渡したりもしているからね。
嘘だと思うなら隣の村に住むのヘンゼルとグレーテルという兄妹と父親に聞いてみるといい。
この家族はカラバ侯爵の親切心で救われたんだ」
「それは実に興味深い話だね。
領主様自らが見守ってくれているなら本当にありがたい話だよ」
「うんうん、そうだよね。
さっきも言った通りにカラバ侯爵は困った人を放って置けない性格なんだ。
だから、この商品を目立つ所に置いてカラバ侯爵が気に留めるようにするのさ。
そして、彼にこの商品が売れなくてどれだけ困っているかアピールするのさ。
そうすればきっとカラバ侯爵は買い取ってくれるはずさ」
「そうなのかね?
本当に売れたならその侯爵の話は信じてあげるよ」
「もし売れたらこの辺りの土地はカラバ侯爵が治めて見守ってくださっていると皆に伝えておくれよ。
どうもこの辺りの人は自分たちの領主を知らないみたいだからね」
「ああ、この売れ残りが処理できるなら幾らでも協力するさ」
こうして僕は白いケープを目立つ場所に移動させ、この土地はカラバ侯爵のものだという話を住民達に覚えさせていった。
これは今までの村でもやっていた事だ。
全ての用事を終えた私は宿に帰ってきた。
シャルルが何だかご機嫌に見えるが予想はつく。
その調子でどんどんと舞台でダンスを踊ってほしいものだ。
次の日、僕はシャルルを観測していた。
予想通りの乙女と会っているようだ。
名産品店を覗いている時に嘘つき少年の叫びで乙女が飛び出した。
しかし、これはただの無駄足だろう。
狼は僕の合図が無ければ動かないはずだ。
そして店では白いケープがシャルルの手に渡った。
嘘つき少年の嘘に落ち込む乙女に白いケープを渡すシャルル。
ここまで確認できれば問題ないだろう。
私は狼の元へ瞬間移動する。
「やぁ、今日も来たよ」
「あんたか、全く驚ろかせやがる」
「狼なら匂いで僕だと分かるだろ?」
「その匂いが痕跡もなく急に現れたら怖いだろうが!」
「まぁまぁ、そんなことより朗報だよ。
乙女が白いケープを着た。
後は君が覚悟を決めればいい」
「ほ、本当にやるのか?
それで俺は助かるのか?」
「赤ずきんの原点は狼に食べられて終わり。
だから君の血で白いケープを赤く染めあげれば赤ずきんの話は無事に完成する。
そうなれば黒き森の乙女ではなく赤ずきんという話が新たに始まるはずさ。
狼は話が巻き戻って行きかえり、ラストは殺されることも無く赤ずきんを食べて終わりだ。
これが君の望んだ結末だろ?」
「ああ、そうだ。
分かった、やってやるよ!」
そこからは皆さんご存知の通りさ。
狼は赤ずきんに撃たれて死亡するも、乙女の頭巾が真っ赤に染まる。
その姿を見たシャルルが名付けた赤ずきんという言葉を鍵に、再構築された赤ずきんの物語が展開して行くだろう。
しかし、あれは傑作だった。
赤ずきんを作り出した製作者にざまあみろね。
黒き森の乙女に赤い帽子をかぶせたのは他ならぬ君だというのにね。
まぁ、そんな君も僕は大好きだよ。
「ふふふ、早く記憶を取り戻してくれないかな?
今回の話を聞いたら何を思うんだろうね。
その時は是非教えておくれよ、シャルル・ペロー」
こうしてチェシャ猫の暗躍を終えた僕は再びシャルル達に合流した。
ここで僕の猫の部分は終わり。
私の姫の部分を表に出す。
融合した物語の中で私は姫と猫の動きを繰り返す。
そんな物語も間もなく終盤、最後の物語が始まろうとしていた。
シャルルと私の旅ももうすぐ終わる。
最後の舞台の幕を開けようではないか。
演目名は「長靴を履いた灰かぶり姫」
これを読んでいる君たちも是非最後まで楽しんでくれたまえ。
ゼゾッラは自分が物語の登場人物であることを正しく理解しているために、この物語が何処かの誰かに読まれていることを知っています。




