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1話 少年は灰かぶりと出会う

思いつきで書いたら止まらなくなりました。

よろしくお願いします。

血だまりの中で2人は笑う。


少年の腰にある長靴を少女は手に取るその足に履く。


これは2人の契約。


返り血で赤く染まった身体で結ばれた約束。


死が別つまで一緒にいよう。






親父が死んだ。


親父は粉挽き職人だった。


後に兄弟に残ったものは粉挽き小屋とロバとよく分からん長靴だった。


一番上の兄貴からどれを遺産として引き取るか決める権利が与えられた。


当然、兄貴は粉挽き小屋を選んだ。


俺だって最初に選んだらそうするさ。


2番目の兄貴はロバを選んだ。


このロバを使って行商でもするんだと。


使い道がなくなれば食えるんだし悪くはないだろう。


最後の俺に残ったのは長靴だった。


試しに履いてみようと思ったがサイズが合わない。


こんなもの貰ったところでどうしようもない。


しかも親父が死んだ早々に俺は家を追い出されてしまった。


一番上の兄貴には彼女がいたらしく、親父が死んで職を引き継いだ早々に結婚を決めてしまった。


新婚の家に厄介者は不要ということなのだろう。


俺はせめてもの情けと渡された旅一式セットと使えない長靴を持ちながらトボトボと道を歩いていた。


元の村にいても住む場所も仕事も、何1つ無いから都会にでも行ってみるしかない。


そう思い村を出てひたすら道を歩いていたのだが、ふと気がつくと横に一緒に歩いている女の子がいた。


その子は何故か俺が腰に下げた長靴をジッと見つめながら歩いていた。


俺の視線に気づいた少女は俺の方を見る。


「この長靴はお兄さんのものなの?」


俺の目を見ながら問いかけてきた。


「そりゃ俺の腰に下げてあるんだから俺の物にきまってるだろ」


「でも、お兄さんにはこれ使えないよね?」


使えない?履けないではなく?


そう思ったがまだ幼さが残る見た目だ。


言い間違いでもしたのだろう。


「まぁ、俺の足には合わないしな」


「そういうことじゃないんだけど・・・うーん。

ねぇ、お兄さん。

私その長靴が欲しいな」


「おいおい。

履けないとはいえ、これは親父の形見なんだ。

おいそれと手放せるもんか」


俺がそう言うと少女は薄く笑みを見せた。


その笑みを見た俺は何故か背筋がゾワっとした。


「へぇ〜お父さん死んじゃったんだ。

お兄さんが殺したんとかじゃないんだね」


「な、当たり前だろ!?

冗談でもそんなこと言うんじゃねぇよ!」


俺は反射的に怒鳴ってしまった。


しまった、何を少女の冗談にムキになってるんだ。


少女は見るからにシュンと小さくなってしまった。


「怒鳴って悪かったよ。

でもな、冗談にも言っていい・・・」


と言っている最中に少女は俺に足を引っ掛けてバランスを崩させる。


「うわっと」


そしてうつ伏せに倒れる俺に覆いかぶさるように少女も倒れ込んできた。


「な、な、な、何をして」


「おいおい、急に転ぶから外れちまったじゃねぇか」


「なーに、相手は丸腰のガキ2人だ。

サッサと片付けてしまおうぜ」


道の横の草むらから声がする。


俺は立ち上がりながらそちらに目を向けると、下品な笑みを浮かべた汚い身なりの男が2人あらわれた。


片方は剣を持ち、もう片方は弓を持っていた。


野盗だ・・・俺はなんてついてないんだ。


「あの、持ってるものすべて渡すので見逃してもらえませんか?」


「おお、中々良い判断してんじゃねえか」


「俺らも無駄な殺しはしたくないから話の分かる兄ちゃんは嫌いじゃないぜ」


俺はなるべく下手に出て持っているものを渡して見逃してもらおうと思った。


しかし、


「お兄さんの持ってる長靴は私が貰うことになってるんだから、あんた達みたいなのにはあげれないよ」


と声がかかる。


そこには先程倒れ込んだ少女が立っていたのだが様子が少し違う。


「なんだ、お前は俺たちの奴隷希望か?」


「見た目は悪くないし使う分には問題なさそうだな」


そう言って男達は少女に手を伸ばす。


その瞬間、俺の顔に何かの液体がベッタリとついた。


「ぎゃああああああ!!」


「お、俺たちの手が・・・!!」


叫ぶ男達の方を見ると腕から手の境目から血が吹き出していた。


その先には本来ある筈の手がない。


「てめえ、よくもやってくれたな!」


「ぶっ殺してやる!」


残った無事な方の手で少女に掴みかかろうとするが、それを易々と回避して男達の後ろに回り込む。


「もう、うるさいなぁ。

静かにしてよ」


少女はそう言うと男達の首に何かを突き立てスッと引いた。


首筋から血が吹き出し、辺りを赤く染め上げていく。


当然、その近くにいた俺も。


そして少女も。


「あはははは」


少女は笑いながらこちらにゆっくりと近づいてきていた。


その時に初めて気がついた。


少女が男達を殺害した時に使った武器。


それはいつの間にか長く伸びていた少女の爪だったのだ。


少女は近づきながら言う。


「ねぇ、お兄さん。

どうせこのクズにあげるつもりだったんだから、その長靴は私が貰っても良いでしょ?」


少女は笑みを浮かべながら長靴を爪で指す。


俺は辺りに充満する血の匂いで吐きそうになり冷静さを失っていたのだろう。


真っ赤な血に染まり爪の伸びたこの少女を美しいと感じてしまっていた。


そして、何故かは分からないがこの少女にとてつもなく興味を持ってしまった。


「条件が1つある。

それさえ受け入れてくれるなら長靴はお前にくれてやる」


俺がそう言うと少女は楽しそうに笑う。


「あは、あはははは。

この状況で!私に!条件を突きつける!!

なんて面白いお兄さんなんだい。

いいよ、聞いてあげる。

お兄さんが望むなら僕を抱かせてもあげてもいいよ」


「お前、俺の旅についてこい。

そうしたら長靴でもなんでもくれてやる」


俺がそう言うと少女は一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに笑みを浮かべる。


「そんなことでいいんだ。

いいよ、どうせ行くあても無かったしついていってあげる。

お兄さんが死ぬまで一緒にいてあげるよ」


そう言うと少女は俺の腰の紐を爪で切り、長靴を手にして履き始めた。


その時には邪魔だったのか爪は引っ込んで元の形に戻っていた。


「よいしょっと。

どう、お兄さん?似合う?」


長靴は少女の足にピッタリ入ったようだ。


「ああ、よく似合ってるよ・・・血まみれでなけりゃな」


「そういえば2人とも血まみれだったね〜これじゃ街にも入れないし洗いに行こうか。

近くに湖があったはずだよ」


少女はそう言ってまだしゃがんでいた俺に手を差し伸べた。


俺はその手を取って立ち上がる。


「そうだ、お前名前は?」


「私?私の名前はゼゾッラ。

お兄さんは?」


「俺の名前はシャルルだ。

これからよろしくな」


「シャルル、シャルル。

うん、覚えたよ!

これからよろしくね」



こうして俺は遺産として引き継いだ長靴の代わりに不思議な少女と旅することになった。

灰かぶりの名を持つ長靴を履いた少女との旅がどのようなものになるのか。

その時の俺は深く考えてはいなかった。


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