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17話 白いケープ

翌日、俺たちは其々に別行動をとることになった。


ゼゾッラは昨日に引き続いて一人で出かけて行った。


イナバは三男、末っ子と共に近くの森を散策してくるらしい。


俺は昨日の約束した場所で乙女を待っていた。


約束の場所といってもこの村に宿は一軒だけなので同じ場所に泊まっている。


つまりは宿屋の前である。


俺が壁に寄りかかっていると


「待たせちゃったかしら?」


と声がかかる。


そちらを見ると乙女が恥ずかしそうに顔を出していた。


彼女の格好は青いシャツに赤のスカートという多少派手ではあるが如何にも村娘という印象でとても旅するようには見えない。


ただ一つ違うのは背中に猟銃を背負っていたことだ。


「いや、俺も今来たところだ。

それで少し聞きたいんだがその猟銃は?」


「ああ、ごめんなさい。

物騒に見えちゃうよね?

でも、いつ狼が現れてもいいように余程のことがない限りは手放さないようにしているの」


「いや、構わないさ。

俺が見慣れてなくて物珍しく思ってしまっただけだからな」


俺がそう答えると乙女は楽しそうに笑った。


「シャルルならそう言ってくれると思った。

優しいね、シャルルは」


乙女はそう言うと俺の腕を掴んで引っ張る。


「さぁ、村の中を見て回りましょう!」


俺はその強引さにやや呆れながらも心の中で悪くないと思う自分がいた。


この村では羊の放牧が盛んなのか様々な編み物が置いてある。


その一つ一つを見ているうちに目に付いたものがあった。


俺はそれを一つ購入して包装してもらう。


「シャルル何か買ったの?」


別の場所を見ていた乙女がやってきた。


「ああ、相棒みたいな奴がいてね。

そいつに土産でも買ってやろうと思ったんだ」


「ふーん、私も見てみよう」


そう言って乙女が編み物商品を見ていると一つの商品を見て止まる。


それは白いフード付きのケープだった。


乙女はそれを手に取ったが値段を見て絶望したような顔をしていた。


「良かったら俺が・・・」


プレゼントしようかと言おうとした時、村中に


「狼が出たぞーーー!!」


という叫び声が聞こえた。


その声に店の店主が


「嘘つき少年のイタズラですわ。

気にせんといてください」


と声をかけてきた。


「村に来た時に聞きましたがこれは嘘なんですね」


「ええ、私らも迷惑しとるんですよ。

気にせずにゆっくり見て行ってください」


と店主は言ってカウンターの方に戻って行った。


「イタズラらしいから気にしなくていいよ」


と言いながら乙女が先程までいた場所を見たが彼女の姿は無い。


「あれ?まさか嘘つき少年のところに行ったのか?」


乙女のことは気になったが村人の話が本当なら狼はいないということなので気にすることはないだろう。


それよりも嘘に騙されて落ち込んで帰ってくるのかと思うと心が痛む。


俺は店の店主としばらく話してから外に出た。


嘘つき少年の話に乗ったのならば村の入り口に行ったはず。


そこに向かえば会えるだろう。


俺は入り口に向かって真っ直ぐ歩いていく。


すると村の外からトボトボと歩いてくる影が見えた。


それは乙女と三男、末っ子、更にはイナバまでいた。


俺がそちら側に歩いていくと乙女はこちらに気がつきハッとした顔をした。


「あっ、ごめんねシャルル。

狼って聞いたらジッとしてられなくて何も言わずに出てきちゃった」


「事情は聞いてるから気にしなくていいよ。

・・・嘘だったのか?」


「ええ。

それでも少しでも可能性があるなら賭けてみたいから・・・何回も騙されちゃうと思うけどね」


乙女はそう言って笑ったが、その笑顔は曇っておりとても悲しそうに思えた。


「イナバ達も同じ理由か?」


「ええ、森を散策してたら叫び声が聞こえてきて。

お二人が向かわれたのでついていったんです」


「結果は知っての通りですけどね」


「見事に騙されましたよ」


「私達は森の散策に戻りますのでお2人もごゆっくり」


イナバ達はそう言って再び森の方に戻ることになった。


「シャルル、本当にごめんね。

愛想が尽きたならもう付き合わなくてもいいよ」


そう言って謝るシャルルに俺は手に持っていた袋を渡した。


「落ち込んでると思ったから俺からのプレゼント。

開けてみて」


俺の言葉に首を傾げながらも乙女は袋を開けた。


中から出てきたのは先程の店にあった白いフード付きのケープだ。


「これって・・・こんな高い物貰えないよ」


「気にするなよ。

俺のところはイナバのお陰で余裕があるからな。

ほら、自分で着けれないなら俺が着けてやるよ」


そう言って俺はケープを取ると乙女に着せ、胸元のリボンを結ぶ。


「うん、よく似合ってる」


「シャルル・・・ありがとう!」


乙女はそう言って俺に抱きついてきた。


「うわっとと・・・喜んでくれたってことでいいかな?」


「うん、本当は落ち込んでたから。

でも、シャルルのお陰でとっても元気が出た。

これは私からのお礼ね」


乙女はそう言って顔を近づけてくる。


思わず俺は目を閉じた。


口に何か柔らかいものが触れた感触がする。


「えへへ、私の初めてをシャルルにあげるね」


乙女はそう言って俺から体を離すが今度は俺の手を握った。


「ねぇ、まだ時間あるから村を回ろう!

私もっとシャルルといたいな」


「ああ、俺も乙女と一緒にいたいから村を回ろう」


こうして俺たちは日が暮れるまで一緒にいた。


別れる時に離した手を見て少し寂しいと感じたが明日もまた会える。


俺はそう思うと少し軽やかな足取りで自分の部屋へと戻っていった。

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