16話 童話の人物たちの会合
俺たちが村で宿を取ると珍しくゼゾッラが部屋を出て行った。
「この村で調べたいことがあるんだ」
珍しいこともあるもんだと思ったが俺は気にせずに見送った。
次の日も薬を売って宿に戻る。
早々にゼゾッラは出かけて行ったのだが、今日はイナバも出かけるらしい。
話を聞くと俺たちが途中で見かけた一団が村に来ており、その中にいた子山羊と子豚と仲良くなったので3匹でお茶会をするそうだ。
俺も特にやることがないのでついていくことにした。
動物三匹のお茶会など珍しいと言うレベルの話ではないので気になったからだ。
酒場で待ち合わせをしているらしく向かうとそこには確かに二足歩行の子山羊と子豚が待っていた。
「すいません、お待たせしました」
「いえいえ、私たちも今来たところですよ」
「おや、そちらの方は?」
子山羊が挨拶をし、子豚が俺に気づいて問いかける。
「こちらは私と一緒に旅をしているシャルルさんです。
保護者みたいなものだと思ってください」
「何となくついてきただけだから気にせずに」
「そうですか。
もちろん私たちは構いませんのでよろしくお願いします」
「では、中に入りましょう」
酒場に入ると6人座れそうな大きなテーブルに案内された。
「実は私たちの保護者も参加したいと言うことで大きめのテーブルを確保していたんです」
「今は準備をしていてまもなく来ると思いますよ。
さぁ、僕たちは先に座りましょう」
2匹に案内されて椅子に座る。
テーブルに色とりどりのサラダが置いてあった。
俺は改めて3匹を見た。
「そういえば全員草食系か」
俺は心の中で呟いたつもりが思わず言葉にしてしまった。
イナバはそんな事を俺を見ながら
「シャルルさんも含めてですね」
と返してくる。
「その方も草しか食べないのですか?」
「人間にしては珍しい方ですね」
という2匹に対して
「いえいえ、そういうことではなくてですね。
この方は・・・」
「ごめんなさい、お待たせしてしまって」
イナバがロクでもない事を言い出して止めようかと思った時に女性の声がした。
そこには長い金髪を真っ直ぐに下ろした美しい女性がいた。
彼女は笑顔でこちらに来たが俺の顔を見て固まった。
そして
「ペロー?」
俺の名前と違う名前を口にした。
「いえ、私の名前はシャルルと言います。
貴方の知る方とは違いますよ」
咄嗟に違うと言っていた俺だったが内心では焦っていた。
俺はシャルルでありそれ以上でもそれ以下でもないはずだ。
だが、その名前が妙にしっくりと自分の中に落ちていく感覚。
例えばこの酒場の喧騒の中でその名前を呼ばれたら自分は返事をしてしまう・・・そんな気がしていた。
「え、ああ、すいません。
私の勘違いだったみたいで」
女性はそう言いながら俺の向かいの席に座る。
「そのペローという人物は貴女の知り合いなのですか?」
俺は気になって質問をする。
「いえ、私の知り合いにそんな人はいないはずなんですけど・・・ふとシャルルさんの顔を見たらその名前が出てきまして。
変ですよね?」
「いえいえ、そういう事もあるのかもしれません。
これで全員揃ったのかい?」
俺が子豚に尋ねると彼は頷いた。
「ええ、そうですね。
先ずは自己紹介をしましょう。
私の名前は子豚の三男です。
よろしくお願いします」
子豚の三男が自己紹介を終えると、その隣に座っていた子山羊が立ち上がる。
「次は僕ですね。
僕の名前は子山羊の末っ子。
よろしくお願いします」
最後に金髪の女性が立ち上がった。
「最後は私ですね。
私は黒い森の乙女と言われています」
俺は黙って聞いていたが、隣に座ったイナバにこっそりと耳打ちする。
(なぁ、なんか名前おかしくないか?)
(彼らは童話の登場人物なんですよ。
童話の中で名前のない人物は自身を指す言葉を名前と思い込むんです)
(なんか納得は出来んが分かった)
自分もその中の一員だと聞かされているので何とも言えないが、相変わらず童話由来の人物はよく分からない。
とにかく彼女たちを呼ぶときは乙女、三男、末っ子と呼ぶといいらしい。
「それでは私たちも改めて自己紹介しましょう。
私の名前はイナバです。
よろしくお願いします。
さぁ、シャルルさんも」
イナバに促されて俺も挨拶をする。
「俺はさっきも言ったけどシャルルだ。
このイナバと今は留守にしているもう1人と旅をしている。
さっきは驚いて畏まった言葉を使ってしまったが、せっかく仲良くなる為の会だから遠慮なく話してほしい。
俺もこの喋り方で話させてもらう」
俺がそう言うと乙女がパチパチと拍手してくれた。
「私も貴方の意見に賛成よ。
せっかくの機会ですもの。
無礼講に話しましょうよ」
こうして俺たちは会食を始めた。
俺たちは動物組と人間組に分かれて話していた。
「それじゃ、シャルルは特に目的がなく旅してるんだ」
「ああ。
そう言えば乙女たちは何で旅をしているんだ?」
俺がそう言うと今まで楽しそうにしていた乙女の顔がフッと陰る。
「聞いちゃダメだったかな?
それなら言わなくていいよ」
「いえ、貴方にももし心当たりがあれば聞かせてほしいわ。
私たちは狼を探しているの」
「狼?」
「ええ、私たちは全員狼に家族を奪われたものたちなの。
狼を倒せば幸せになれるはずなのに、その狼が逃げ出してしまった。
倒すべき悪役がいなくなって舞台を進めることも降りることも出来ない哀れな道化師なのよ。
ふふ、こんな事シャルルに言っても分からないわよね」
俺は乙女の話を聞いて以前のピノッキオの顔が頭をよぎった。
舞台を進めることも降りることも出来ない哀れな人形。
死ぬ直前に心からの笑顔がフラッシュバックする。
「いや、完全にとは言えないけど分かるよ。
以前にそんな人に会ったからね」
「そうなの!?
その人は前に進めた?」
「ああ、俺たちが手を貸したけど最後には前に進めたんだろうね。
とてもいい笑顔をしていたよ」
俺は心の中で「そう思わないとやっていけないからな」と付け加えた。
乙女は何かを考えていたが意を決したように口を開いた。
「ねぇ、シャルル。
明日デートしない?」




