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15話 狼の出る村

結局、あの後に俺たちは朝早くにヘンゼルとグレーテルの村を後にした。


俺は彼らは純朴な人達だと信じたいがどうしてもあの時の映像が頭に残る。


いま会えばどうしてと不自然な態度が出てしまうことだろう。


前に続いている道をひたすらに歩き続けた。


そのスピードは明らかに今までよりも早かった。


それはあの言い知れぬ恐怖から逃げたいという思いがそうさせていたのかもしれない。


ハイペースで進んでいた為だろうか?


珍しく道中で別の一団を追い越すことになった。


道端でテントを張り休憩しているのを見ながら通り過ぎていく。


隙間からは金髪の女性と子山羊が見えた気がする。


外では二足歩行の豚が焚き火で器用に料理を作っていた。


「俺たちが言うのもなんだが変わった連中だな」


俺がポツリと呟く。


いつもならここでゼゾッラが何かしら返してくるのだが珍しく静かだ。


俺がゼゾッラの方を見ると彼女は何か考え込んでいるようだった。


「どうしたんだ?」


「ん・・・ああ、何でもないから気にしないでくれよ」


「いや、何でもないことは無いだろう。

明らかに様子がおかしいぞ。

さっきの一団に何かあるのか?」


「いやいや、彼らは関係ないよ。

そうだなぁ、私の調子が悪いのは色々と察して欲しいものだね。

シャルルがどう思っているかは知らないが、私はこう見えても女の子なんだよ」


ゼゾッラの言葉に首を傾げる。


「そりゃゼゾッラは女性だろ。

見たら分かる」


「ふむ、これで通じないのは鈍感なのか。

それともその方面の教育がされていないのだろうか?

こういうのは専門家であるイナバに聞くといい」


そう言って足元でちょこちょこと付いてきていたイナバを持ち上げて肩に乗せてきた。


「あ、おい・・・どういうことだよ?」


「はぁ〜シャルルさんはデリカシーが無いですね。

女の子の日って聞いたことがありませんか?

月に一回来るやつですよ」


「え?・・・あっ!?」


「色々と考えたりして気が回らないこともあるでしょうけど、もう少しゼゾッラさんにも気を遣ってあげてください」


「・・・ああ、そうだな」


正直な話、前の一件以来何処と無く彼女に対してぎこちなく接していたかもしれない。


彼女との交流は難解だが、次の村に着いたら頑張ってみるべきかもしれない。


そんなトラブルというほどでは無い事もありつつ先に進んでいくと村が見えてきた。


多数の羊が草原に放されている。


その近くでは羊飼いと思われる男の子が暇そうにしていた。


彼はこちらに気付くとニヤニヤしながら近づいて来る。


「お兄さんたち!

こんな村まで何をしに来たんだい?」


何かするつもりかと身構えていたが友好的な態度に拍子抜けする。


「俺たちは薬を売りながら旅をしているんだ。

君はこの村の子なのかい?」


「ああ、そうだよ!

お兄さんたちはここに来たばかりで知らないと思うから忠告しとくよ。

この辺りには悪い狼が出るんだ。

俺はその狼を見かけたら村に大声で注意を呼びかけているから、その声を聞いたら急いで逃げるんだよ」


彼は親切に忠告してくれている。


しかし、何処か軽薄そうに言うもので何か不気味な感じがした。


「それはありがたい忠告だね。

ちなみにその狼はどんな姿をしているんだい?」


彼の言葉にゼゾッラが問いかける。


すると彼はニヤニヤしながら


「とっても大きくて怖い狼さ。

お姉さんくらいなら頭から飲み込まれても仕方ないほどにね」


と答えた。


「おやおや、それは大変に恐ろしいものだ。

私の知る狼よりも遥かに大きくて獰猛だね。

それは狼ではなく別の生き物のように感じてしまうよ」


「ひょっとしたらそうなのかもしれないね。

何にしても気をつけるんだよ」


少年はそのまま手を振って羊の所に戻っていった。


「親切心で言ってくれてるとは思うんだけど何か不気味だったな」


「そんな狼がいたら私たちの手には余るだろうから大人しく言う通りにしたほうがいいと思うね。

まぁ、先に村の人に詳しく聞いた方がいいだろう」


俺たちは村にたどり着くと広場で早速薬売りを始める。


こうするのは金儲けの他に村の地理などの情報を集めれるからだ。


宿もこうすることで気を利かせた地元の人が話を通してくれるので確保しやすい。


そんな中で集まる村人から狼の話を聞いた。


「ああ、あんた達はあの小僧に会ったのかい?

アイツは村では有名な嘘つき少年と言われているんだ」


最近腰が痛くなってきたと言う農家のおじさんに腰用の湿布を貼りながら聞く。


こうしてサービスをすると彼らの口は驚くほどに軽くなってくれて助かる。


「嘘つき少年ですか?」


「そうさ。

いもしない狼が出たと騒ぎ立てて、俺たちが慌てふためいているのを楽しんでいるのさ。

同じことを繰り返すもんだから村の連中も飽き飽きして誰も信じなくなっちまった。

だからあんた達みたいな旅の人間を唆して楽しむようになっちまったんだ」


「それは迷惑な話ですね」


「なーに、相手にしなけりゃその内飽きてやめるさ。

だからあんた達も嘘つき少年が何か言っても本気にしないでくれよ。

調子づくだけだからね」


「なるほど、ありがとうございます」


俺が腰に湿布を貼り終えたところで丁度話が途切れたので男性が立ち上がる。


「こいつはすごい効き目だな。

にいちゃん達は暫くこの村に滞在するんだろ?

嘘つき少年さえ気にしなけりゃ長閑だ平和な村だ。

なるべく長いことゆっくりしていってくれや」


男性はそう言って俺の背中をバンバンと叩去っていった。


「嘘つき少年・・・」


その言葉がずっと俺の頭の中に残っていた。


この後、嘘つき少年すら望まなかった本物の狼が現れる。


狼を望んだのは金髪の少女と2匹のお供。


俺はこの村で新たな出会いと別れを経験することになる。


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