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11話 惨劇のきっかけ

ヘンゼルとグレーテルの相談を受けてからも村に残り薬を売っていた。


初日ほどではないにしろ毎日それなりの売り上げは確保している。


ヘンゼルとグレーテルの兄妹も毎日俺たちの所に会いにきていた。


「ねぇねぇ、お兄ちゃんとお姉ちゃんって夫婦なの?」


ある日グレーテルが俺にくっついてくるゼゾッラを見てそう言った。


その言葉を聞くとゼゾッラは嬉しそうに


「そうだよ、よく分かったね。

君はいい子だ!」


とグレーテルの頭を撫でた。


「おい、子供に適当なことを教えてるんじゃない。

いいかい、グレーテル。

俺とゼゾッラは夫婦なんかじゃないよ」


俺がそう言うとグレーテルはうーんと悩み出した。


「まぁ、難しく考えずに仲良しでいいじゃないか。

ヘンゼルとグレーテルだって兄妹だから仲良しって訳じゃないだろ?

グレーテルはヘンゼルがお兄ちゃんだから好きなのかい?」


「うん、お兄ちゃんはいつも優しくて守ってくれるから大好き。

そっか、何かの関係がなくても仲良しになれるんだね」


「そう言うことさ。

ほら、大好きなお兄ちゃんがこっちを見てるから遊びに行ってやりなさい」


「うん、お兄ちゃーん!」


上手く伝えられたと一息つく。


そこにゼゾッラがやってきた。


「上手いかわしかただったね。

大人のやり方みたいじゃないか」


「そうだったか?」


俺としては普通に良いことを言ったつもりだったのだが。


「まるで子供がいるお父さんのようだったよ。

君は本当は隠し事がいるんじゃないかい?」


「そんなわけ・・・」


ないと言おうとした時に頭の中に何かの映像がフラッシュバックする。


目の前にいる赤ん坊を抱き上げる映像。


その子供がスクスクと育っていく様。


「姫君へ」という献辞に息子のイニシャルを書いている映像。


「どうしたんだい?

まさか本当に隠し子がいるとでも」


ふと我に帰ると密着するほどの距離でゼゾッラが俺の顔を覗き込んでいた。


「い、いや、なんでもない。

それよりも近すぎるだろ」


「私と君の仲だから気にすることないじゃないか。

しかし、このままでは君の体温が上がりそうだから、

これで我慢して離れようじゃないか」


とゼゾッラは俺の頰にキスをして顔を離した。


「あーお兄ちゃんとお姉ちゃんがチューしてる!」


「こら、お前はまだ見なくていいから!

あ、僕達は見てないんでごゆっくりどうぞ」


グレーテルがこちらを指差し、そんな妹の目を手で覆って明後日の方向を向くヘンゼル。


「あらあら、いつものこととはいえ今日は少し積極的でしたね」


「私も次のステップに進みたいからね。

少し本気を出させて貰ったよ」


イナバの言葉に答えるゼゾッラ。


そして全員で笑いあう。


楽しくて暖かい時間。


俺は先ほどの映像を頭に隅に追いやった。


立ちながら夢でも見たのだろうと自分の心をごまかして。


楽しい時間は店の閉店時間まで続き、俺たちは店仕舞いにする。


「それじゃ、俺たちは宿に帰るけど君たちも気をつけて帰るんだよ」


「うん、ありがとうお兄ちゃん。

お姉さんとウサギさんもバイバーイ」


「今日もお世話になりました。

また良かったら相手をしてください」


挨拶をする兄弟に俺たちも軽く別れの挨拶をする。


「ああ、気をつけて」


俺たちも別れの挨拶をして宿に戻った。


こうして2日3日と過ぎていき4日目に異変は起きた。


ヘンゼルとグレーテルが来なかったのだ。


その日は家の事情もあるだろうしとしか思わなかった。


5日目。


その日はいつもより遅い時間に兄妹はやってきた。


俺は何事もなかったかと安堵したが様子がおかしい。


暗い雰囲気を漂わせる中でヘンゼルの方が口を開いた。


「相談に乗って欲しいことがあるんです」


そうして聞いた話は驚くべき内容だった。


その日は母の様子がおかしく兄妹は警戒していたそうだ。


すると母親が森の中に食べ物を探しに行くので手伝いなさいと言ってきたそうだ。


妹は素直に喜んだが油断をしなかったヘンゼルは小石を拾い集めて、母親が先導する道に石を置いていったそうだ。


その警戒は功を奏して、手分けして食べ物を探そうといった母親がいつの間にかいなくなっていたそうだ。


自分たちは捨てられたと気付いたが、石を目印に帰宅した。


母親はひどく驚きながらもよく無事で帰ってきたと喜んだらしい。


この日は無事に帰れたが近々同じことをするに違いない。


次に石を置いても流石に気付かれて細工されそうなので次はどうしたものかと悩んでいるらしい。


その話を聞いてふと朝食のことを思い出した。


「そうだ、パン屑なんてどうだ?

あれなら目立たないし道に落ちていても何とも思わないんじゃないか?」


俺が提案するとヘンゼルの顔が明るくなる。


「それはいい考えです!

確かにパン屑ならすぐに確保できるし気にすることもないでしょう。

シャルルさん、ありがとうございます!」


「おにいちゃん、ありがとう!」


ヘンゼルが元気になったことで何かよく分かっていなかったグレーテルも元気になった。


そうして明るくなった子供達を見送った後にゼゾッラはポツリと呟いた。


「やれやれ、パン屑の話が君から出るとはね。

残酷なことだ」


「どういう事だ?」


「なに、物語としては何一つとして間違っていないから気にすることはないさ。

すぐに結果も分かるだろう」


俺は未だに理解していなかった。


まさか、この提案したパン屑こそが彼らの物語を次に繋げるキーワードになっていたことを。


物語の強制力だったのかもしれない。


だが、確かに俺の一言があの惨劇を引き起こしたのだ。

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