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10話 物語の改編

プロローグ追加したのでよければご覧ください。

俺たちが二人の兄妹に連れられたのは村の近くにある森の入り口だった。


入り口にはポツンと家が建っており、そこがヘンゼルとグレーテルの家らしい。


二人は勢いよく扉を開けると


「お父さん、薬屋さんが来てくれた!」


と中に駆け込んで行った。


「お邪魔します」


俺たちも続いて中に入る。


中ではベッドに寝かされた中年男性と、介護をしている中年の女性の姿が見えた。


「貴方達、お父さんの周りでは静かにしなさい!」


中年女性はヘンゼルとグレーテルの母親らしく、2人を叱りつけていた。


「でも、お母さん。

薬屋さんが来てくれたんだよ」


「お父さんの病気をきっと治してくれるよ!」


2人が母親にアピールしたことでようやく俺たちに気づいたらしい。


母親は俺たちを見ると頭を下げた。


「子供達のワガママでこんな辺鄙な場所まで来ていただき申し訳ありません。

薬屋さんと仰いましたが我々にはそのような薬を買うお金などありません。

ご足労頂き申し訳ありませんがお引き取りください」


言い方こそ丁寧であったが案に帰れと言われているのが分かる内容であった。


どうしたものかと思ったが心配そうにこちらを見ている幼い兄妹を見て覚悟を決める。


「私達はこの幼い兄妹の想いに打たれたものです。

お金は必要ありませんのでどうぞ手助けさせて頂けませんか?」


「そこまでの好意を無碍には出来ません。

どうぞ、夫を助けてくださいませ」


俺が頭を下げると母親は渋々と言う形で了承した。


この怪しい態度は気になるが、とりあえず俺たちは父親の所まで向かった。


「イナバ、頼む」


「お任せください」


イナバは俺の肩から降りるとベットで寝ている父斧様子を身始めた。


診察を終えると俺の方に戻ってくる。


「これは過労ですね。

働きすぎて疲れが限界以上に溜まってしまったのです。

シャルルさん、その飲み薬を」


俺はイナバに言われて飲料するタイプの飲み薬を取り出した。


「この中には人が生きていくために必要な栄養素が詰まっています。

一週間分置いていきますので毎日一本飲ませてあげてください」


俺はイナバに言われて通りに飲み薬を7本テーブルの上に置く。


「こんな高級そうなものを・・・本当にありがとうございます」


母親は頭を下げてお礼を言った。


「生活のためだと思いますが、ご主人が無理をしすぎたせいですので今後はお気をつけください。

さぁ、用事も終わりましたので私達は戻りましょう。

シャルルさん」


イナバがそう言って肩に乗り耳元で囁く。


(ヘンゼルとグレーテルの2人に帰り道を案内するように頼んでください)


俺はイナバの意図が分からなかったがここまで任せっきりなので大人しく従うことにした。


「我々は今日村に着いたばかりでこの辺りの地理に疎いのです。

申し訳ない話ではありますが帰り道の案内をのこの2人にお願いしてもよろしいでしょうか?」


俺がそう言うと母親が口を開く前に


「もちろんだよ、お兄さん達」


「私たちが帰り道を案内してあげるよ!」


と嬉しそうに頷いた。


「この子達も貴方方にお礼をしたいのでしょう。

どうぞ、お連れください」


と許可を得たので4人と1匹で村までの道を歩いて行った。


2人の家が見えなくなった辺りでイナバが切り出した。


「2人とも少し話をいいでしょうか?」


「なーに?うさぎさん」


「シャルルさん、お二人にも先ほどの薬を7本渡してください」


「どう言うことだ?」


俺がイナバに問うと彼女よりも先に今まで静かだったゼゾッラが答えた。


「簡単なことさ。

あの母親は父親に薬を飲ませる気がない。

そう言うことだろう?」


ゼゾッラの答えにイナバが頷く。


「どう言うことだ?

俺にも分かるように説明してくれ」


俺がゼゾッラに問いかけると彼女は楽しそうにクスクスと笑った。


「私は最初、あの母親が毒を盛っていることを疑っていたんだ。

だから注意深く見ていたし、診断させることもなく帰れと言われた時には私の考えは間違ってないんじゃないかと思った」


「でも、それだったら無料でいいと言ったからと直ぐに了承は出さないんですよ。

案の定私の診断でも毒ではなく過労でしたから」


「そうなるとあの家は夫が過労で倒れるほどに稼ぎが厳しい家ということになる。

奥さんの言動もお金にがめついからという理由だね。

そんな奥さんが高級そうな薬を無料で貰ったんだ。

彼女は素直にその薬を夫に与えるものかな?」


「まさか・・・」


ゼゾッラとイナバの言葉を受けて俺はある考えに至った。


「きっと彼女はあの薬を売り払ってしまうでしょう。

それではこの子達の父親が死んでしまうことになります。

だから、この子達にも同じ数の薬を与えるのです。

いいですか、2人とも。

この薬はお母さんが留守にしている隙を狙ってお父さんに飲ませてあげてください」


それまでは俺たちの会話をよく分からない感じで聞いていた2人だったが、薬を渡されたことで自分たちがやらなければいけないことを理解したらしい。


2人は真剣な顔で頷いて薬を受け取った。


「さて、私達はこの辺りまで来れば大丈夫だから2人とも気をつけて家に帰るんだよ。

お母さんだからと油断しないで気をつけてね」


「本当にありがとうございました!」


「お兄ちゃん達ありがとう!」


兄妹は手をつないで仲良く帰路に着いた。


その後ろ姿を見ながら俺は少し不安になる。


あんな純粋そうな兄妹が、悪辣な母親相手にしっかりと立ち回れるのだろうか。


俺がそのことをゼゾッラに言うと彼女は笑った。


心から可笑しなものに出会ったかのように。


「あはは、純粋な兄妹!

なるほどなるほど、シャルルには彼らがそう見えるのか。

いや、それが一般的な物の見方なのかな?

悪辣な母親がいて小さな兄妹は純真無垢。

うん、いいね。

如何にも世間の人たちが好きそうな始まり方だ」


「何を言って・・・まさか!?

あの2人は童話の登場人物なのか?」


「シャルルもかなり分かってきたじゃないか。

そう、彼らはそのままズバリ『ヘンゼルとグレーテル』という童話の主人公。

私が知る限りで最も多くの改編をされた作品。

その分だけ話によって登場するキャラクターが様々な側面を見せるそういう話さ」


ゼゾッラの言葉を聞きながらも何処か信じられない気分であった。


そして、俺はあることに気付く。


「あの子達が物語の主人公なら俺たちは介入して良かったのか?

それとも、既に俺たちは何かの役割に取り込まれているのか?」


「ふふ、安心していいよ。

私達には何も役割は与えられていないし、あの部分は介入しても何も問題ない。

むしろ、父親が生き残る道が出来て良かったんじゃないかな?」


「どういうことだ?

物語は道筋が決まっていてその通りに動く事になっているんじゃないのか?」


俺がそう言うと目の前にいたゼゾッラの姿が消える。


そして唐突に耳元で囁くような声が聞こえた。


「さっきも言ったじゃないか。

この物語は最も多くの改編がされたと。

ヘンゼルとグレーテルの始まりは様々だ。

父親が健在なパターン。

父親が病死しているパターン。

母親が実母のパターン。

母親が継母のパターン。

今回は私たちの介入によって父親が生存。

母親は実母のパターンの物語のようだね」


そう囁きながらゼゾッラは徐々に俺に体重をかけてくる。


俺は押しつぶされないように力を込めながら問いかけた。


「それはどれが正しいんだ?

俺たちが選んだパターンなのか?」


「改編された物語に正しいも正しくないも無いさ。

どちらも本物。

それを読む人たちにとってはね。

・・・ただ、中には改編される中で捨て去られた設定や話もある。

その辺りはイナバが詳しいんじゃないかい?」


急に話を振られたイナバではあったがゼゾッラの問いかけに冷静に答えていった。


「私が登場するカチカチ山の話ですね。

私が体験して語った物語は原点から少し改編された話です。

しかし、話によっては残酷すぎるからと婆様が肉団子にされて爺様に食べさせるシーンがなくなっていたと聞くこともあります。

そうなるとタヌキの罪は畑で悪さをしていただけになり、ウサギの私がタヌキの背中に火をつけたり、泥舟に乗せて沈んだタヌキを櫂で滅多打ちにするなどやりすぎだと言われているんだとか。

まぁ、どう言われようと私はタヌキを許すつもりは一切ありませんのでいいのですが。

ちなみに改編のポイントは辛子を塗り込んだかどうかです。

原点の話では塗りこむという話は無かったんですよ」


「そういう事さ。

どれも読む側にとっては本物の話。

でも、自体によって少しずつ変わっていくのさ。

偶々、私たちが遭遇したヘンゼルとグレーテルはそのパターンだったというだけの話さ。

本当は放っておいてもいいんだけど、君はあの兄妹が気になっているようだし暫くこの村に逗留しようか」


ゼゾッラの提案に俺は迷ったが頷いた。


俺は確かにあの兄妹が気になっていた。


あの兄妹が純粋無垢な存在だと信じていたからだ。


これから先、あの兄妹が引き起こす惨劇も知らずに。


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