癒しの蛍
「美奏、私帰って勉強しなきゃいけないんだけど」
「良いから、来てよ」
英未は少々苛立った口調で美奏についていった。
英未は中学三年で受験を控えている。親友の美奏も同様だが、英未はレベルの高い高校に行くため、勉強も人一倍しなければならない。
そんな中、美奏が息抜きのために夏祭りに行こうと誘ってくれたので、断れずに付き合ったのだ。しかし美奏は行きたい屋台を英未と共に全て回ったにも関わらずまだ行くところがあると言い出したのである。
そして今、二人の少女は薄暗い草原の中を歩いているのだ。
「どこまで連れていく気?」
「もう少しで着くよ、大丈夫、英未も気に入るはずだから」
美奏が宥めるように言った。英未は胸の中がモヤモヤしながらも足を進める。
「着いたよ」
歩いてから五分でようやく到着した。美奏が気に入るといった理由を知ることとなる。
目の前には多くの蛍が飛び回っていたからだ。
「わぁ……」
英未は幻想的な光景に感激の声を漏らす。
「どう? 綺麗でしょ」
「うん! とっても綺麗だね!」
英未は美奏に言った。美奏は安心したような顔つきになる。
「よくこんな所見つけたね」
英未は地元に住んで長いが、蛍が多く出るこの場所のことは知らなかった。
美奏はポケットからスマホを取り出した。
「最近SNSで有名になってるからね」
「へぇ……知らなかったな」
英未は美奏のスマホを覗き込んだ。確かにこの場所は有名になっている。
英未は家庭の事情でスマホを持たせてくれないので、情報には疎い。よって美奏にスマホを見せてもらい流行についていってるのだ。
蛍の優しい光はストレスで切迫した英未の気持ちを和ませてくれるようだった。美奏は英未の気持ちを察してこの場所に連れてきてくれたのだ。
「有難う……それとごめんねイラついた言い方しちゃったよね」
英未は美奏に感謝と謝罪を口にする。
いくら親しい仲とはいえ、美奏にとっていたきつい態度はいけないと自覚していたからだ。
「良いよ、その代わり受験が終わったら特大パフェおごってね」
美奏は言った。
特大パフェは行きつけのカフェにあるメニューで美奏の好物である。今はダイエット中で食べていない。
「勿論だよ」
英未は朗らかに言った。
二人は飛び交う蛍を眺めつつ、色んなことを語り合ったのだった。