chapter 60 浄化の儀とカデンツァ
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〜 エルフの里 〜
エルフの里には多くの人達が戻ってきていた。先行して里に来ていたザリウスはエルフの同胞として迎えられていた。
「こうなってみると今まで何に拘っていたのか分からないよ。困っていたら助ける。それだけだったな」
ホクトさんとアイリスが打ち合わせをしている。
「演奏する曲はお任せします。あなたの演奏に合わせて栞さんが舞います。ただ、必ずその場で思い付いた演奏を加えて下さい」
「タイミングはいつでしょうか?」
「その時になれば分かるとしか言えません。あなたが感じるままに演奏すれば必ず成功します」
「感じるままに……」
地底湖のほとりでは儀式の準備が進められている。まず清掃して、聖水により場が清められた。
里にいる全ての人達が儀式を見守る。
地底湖は黒く汚れた水で満たされ、異臭を放っていた。
これを浄化するなんて……
「1日1回、儀式を行って3回位行えば浄化出来そうです」
ホクトさんが地底湖の水の量を予測して導き出した回数なんだってさ。
水色の司祭の法衣を着た栞さんが静かに立っている……
同じく水色の司祭の杖を体の正面で両手で握っている。僕達は固唾を飲んで儀式をただ見守るだけだ。
栞さんの足元に小さな水色の魔法陣が浮かび上がった。手に持っていた杖を高々と天に掲げ、舞が始まった。
アイリスが竪琴で演奏を開始した。これは体力を回復する曲に似ているな……でも、戦いの時とは音の数が全然違った。細かく丁寧に奏でている。
魔法陣から小さな光の粒がフワフワと舞い上がっていく。
祈りを捧げるように栞さんが美しく舞っている。少しずつ足元にある魔法陣が大きくなってきた。
魔法陣から舞い上がっていく光の粒がキラキラと輝き、栞さんの体を包み込んでいく。
演奏する曲が変わった。敵の防御力を下げる曲に似ているな。
アイリスの演奏が何故か心に染みこんでくる……
何だろう? この気持ちは?
まず感じたのは……悲しみ……大切な物を奪われた
次に感じたには……苦しみ……故郷を追われた苦悶
曲が変わった。攻撃力を上げる曲に似ている。
感じる……大きな敵に立ち向かう勇気を与えてくれる
曲が変わると栞さんの舞も合わせて変化している。今は荒く、激しく舞っている。普段のおっとりした彼女からは想像も出来ない姿だ。
栞さんの足元に広がっている魔法陣がかなり大きくなってきた。舞い上がる光は夜空に輝く星の様に見える。
「魔法陣が大きくなり過ぎています……このままでは……」
ホクトさんが小さな声で囁いたのが聞こえた。
「皆さんの魔力を魔法陣に直接注ぎ、協力しましょう」
みんなが栞さんを囲んで配置についた。アイリスは栞さんの側に移動して演奏を続けている。
僕は地面に膝をついて魔法陣を触った。スーっと魔力が体から吸い出されるのを感じた。
ミンフィー、フェン、スノウ、ザリウス、ホクト、そしてエルフ達が魔力を注ぎながら舞を継続させる。
栞さんは微笑んでいる。幸せに満ちた表情だ。
アイリスの演奏が変化して……歌が加わった。
初めて聞く曲だね。
竪琴を歌いながら奏でている。
『 素晴らしい歌声だ 』
溢れるほどの感謝の気持ちが伝わってきた。
魔法陣は確認できない程に巨大になっていた。舞い上がる無数の星達が栞さんとアイリスの周りを流れる様に飛んでいく。
清らかな水の流れを感じた……とても清冽な水だ。限り無く透明なのに、命を育む為の何かがそこにはある。
ふと優しい気持ちになった。
その澄んだ水を飲む事を想像してみた。とても冷たいけど柔らかい水だ。とても美味しい。心まで染みこんで魂が洗われる様だ。
冷んやりとした空気を感じた。まるでとても寒い冬の朝みたいだ。
舞が終わりに近づいているみたいだ。そっと静かにゆっくりとした曲が聞こえる。敵の速度を遅くする曲に似ている。
浄化の儀が終わった。
アイリスが栞さんに駆け寄って抱きしめた。
「気を失っています!」
ミンフィーが凄い勢いで飛び出して、栞さんに魔力が回復する水を飲ませた。
「う、ううん。あれ? 儀式は? 終わったんですか?」
「無事に終わったわ。途中から無意識で舞っていたようね」
「隣りにいたのに気が付きませんでした。あまりに美しく舞っていたので……」
ホクトさんが地底湖の様子を見に行っている。
「こんな事が……栞さん……あなたは……」
僕も水を見に近づいてみた。
「凄く透明ですね。まるでさっきイメージに出た通りです」
「完全に浄化されています。もう儀式は必要ありません」
へぇ〜 凄いな〜
3回のところを1回で終わらせちゃったね!
ホクトさんが手で水をすくって飲んでいる。
「飲んでも大丈夫なんですか?」
「ええ。飲んでみて下さい」
僕も飲んでみた!
「美味しいです! イメージ通りの味です!」
とても冷たくて美味しいよ!
栞さんをアイリスの家まで連れて行って休ませてあげた。
「何だか外の空気まで美味しいなぁ〜」
何となく冷んやりとして不思議な感じがする。
「そう言われてみると……昔と同じ感じが……いえ、もっと澄んでいるかもしれません」
アイリスが森の方を見ている。
「森の感じも違う……まさか森まで浄化した?」
「そのまさかの様ですね。皆の想いが奇跡を起こしたのかもしれません」
ホクトさんが栞さんを静かに見つめていた。




