chapter 51 言ってはいけない事もある
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〜ギルド『レザムールズ』ハウス ロビー 〜
ヒツジダンジョンの対策をみんなで検討している。第1層だけでも半日を費してしまう。これより下に行こうと思うと途中で休憩は必須だし、場合によってはテントを張って泊まり込みまで考えられる。
「でも、初心者ダンジョンだから泊まりは無いと思うな」
「そうね……下の階は意外に狭いかもしれないわね」
シャバニさんが興味深そうに僕とミンフィーの話を聞いている。
「今日持ち帰った羊の皮を全て買い取ろう」
「全部ですか?」
「アイテムを収納出来るポーチ、ウエストバック、レッグホルダー、アームホルダーなんかを作れば売れそうだ。それに皆の装備に内ポケットなんかを作ってやろう」
「それだったらお金は無しであげますよ。羊毛を売るだけでもかなりの金額になるんで」
戦う時に邪魔にならない様に配慮した皮製品を作るんだってさ。みんなに無料で支給してくれる事になった。
「ギルドに職人さんが居るんですね」
ミシェルさんはあまりシャバニさんの事を知らない。
「前はダンジョンにも一緒行っていたんですが、今は店舗で生産をやってますよ。露店も出してますしね」
「そう言えば露店の噂を聞いた事があります。何でもイケメンのダークエルフが店員さんをしてるって。ダークエルフは目立つ事が嫌いなはずなのに」
「ああ、それザリウスですよ」
「はい!? ザリウスが店員をしてるんですか?」
ミシェルさんが驚いた顔でザリウスを見ている。知らなかったみたいだね。
「何故かみんな買いに来てくれるんだよ」
ザリウスが慌てて言い訳をしている。
「今度チェックしに行くわ!」
「べ、別におかしな事はしてないぞ!」
うーん……チェックされるとマズいかも……ザリウスが店番の時に来るお客さんは全員女性なんだよね。
しかも空き瓶にはザリウスのサインが書いてあるし……
「俺の店は売り手も鍛えているからな」
シャバニさんは自信満々だけど……
「店舗のお婆ちゃんも鍛えているんですか?」
「あの人は元々、プロだ。何も言う事は無い」
「あの人がプロなんですか?」
「お前が買い物した時に自分の体のサイズを言ったか?」
そう言えば何も言ってないのにぴったりだった。
「あの人は服の上からでも体のサイズが分かる。客のサイズにぴったりの服を提供できる人だ」
「それは凄いですね」
「まあ俺レベルならスリーサイズまでぴったりと当てるがな」
「「え……」」
「俺は1度もお前達の採寸をした事は無い。……もう少しみんな太った方がいいぞ。絞りすぎだ。新入りは……」
シャバニさんは言いかけて羊の皮を取りに行った。
「うう……デスクワークだから仕方ないんです……」
ミシェルさんが落ち込んでいるよ。シャバニさん……
「まぁ太ったエルフも珍しいからいいんじゃないか?」
ザリウス……言ってはいけない事を言ったよ。まぁそんなに太っている様には見えないけどね。
「たまにここへ来て体を鍛えます!」
ミシェルさん、何か火が点いちゃったよ。
カラン! カラン!
誰か門に来たみたい。夜遅い時間なのでまた魔女様? ミンフィーと一緒に玄関まで行くとローブを着た少年が立っていた。
「どちら様ですか?」
「私はゴラス帝国から来た旅人です。導きによりここに参りました」
「ゴラス帝国から……」
「はい。敵でないのでご安心を」
「あなた、何処かで会ったわね?」
「普段はアクセサリーを売って生計を立てております」
あ! 僕がピアスを買った店の人だ。
「よくここが分かったわね?」
「こちらの方角と占いが出ましたので」
「占い……」
「そろそろ会った方がいいとも出ました。あなた方に危険が迫っているのです」
「よく分からないけど中へ入って話をしましょう。ゴラス帝国の人がこんな所にいたら危険よ」
ローブの青年をロビーに招いた。
「私はギルド『レザムールズ』マスターのミンフィー」
「僕はサブリーダーのモッシュです」
「私はゴラス帝国の星詠みだったホクトと申します」
青年が被っていたローブを取って挨拶をした。ノーム族かな? エルフに似ているけどもっと妖精っぽい顔だ。少年と思っていたけど年はよく分からない。
エルフと同じでとても長寿種だからね。
「星々を導く『英雄』を探す旅を続けています。ここへはその目的の為に来ました」
「英雄……ゴラス帝国に味方する人は居ないと思うわ」
敵国で堂々と人材を確保しようとするなんて考えられないね。衛兵を呼んで捕まえてもらった方がいいかな。
「別に帝国の為に探しているのではありません。世界の為に探しているのです」
うーん。よく分からないけど面倒だね。
「ミンフィーはギルドマスターだから絶対にそちらには行かないですよ」
「私が会いに来たのはモッシュさんですよ。それにゴラス帝国に来て欲しい訳でもありません」
「はい?」
「あなたは私の作ったピアスを手に取りました。私が英雄に出会う為に全ての知識を用い、長い年月をかけて作ったピアスです」
「うーん。そんな事を言われても困るだけですが」
もうミンフィーにあげちゃったしね。
「そうですね……ではここで私を雇って頂けませんか?」
「ゴラス帝国の人をですか?」
「今は国無しの旅人です。先程も言いましたが占いと彫金術が出来ますし、算術も得意です」
算術が得意なのか……ミンフィーの補佐をしてくれる人が欲しかったけど、ゴラス帝国の人はちょっとね。
「危険が迫っているとはどういう事かしら?」
ホクトと名乗った男の雰囲気がちょっと変わった。座り直してミンフィーと僕をしっかりと見た。




