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遠回り

夜、ふかふかの温かい布団でぐっすり眠る。

朝、鳥のさえずりを聞きながら、ゆっくりと目を覚ます。

ぐーっと伸びをして、布団から出る。

顔を洗い、歯を磨く。

ベーコンエッグを焼き、軽くサラダを作る。

パンをトーストで焼いて、たっぷりジャムを塗ってかぶりつく。

それから、コーヒーを淹れて、窓辺で柔らかな朝の日の光を浴びながら、じっくりと本を読む。

買い物ついでに優しい自然の中を散歩し、鮮やかな緑の空気を存分に吸い込み、ゆっくり吐き出す。

家に帰って、昼食をつくる。

お蕎麦と天ぷら。

ずるずると蕎麦をすすり、サクサクの天ぷらをかじる。

お腹が膨れたら少し眠くなる。

午後の光に包まれながら、どこからか聞こえてくる楽しげな子供たちの声とともに眠る。

太陽が西に傾いてきた頃に目を覚ます。

温かい紅茶を飲みながら本を読む。

活字に疲れてきたら本を伏せ、音楽を流し、目を閉じる。

西の空から朱い光が差してくる頃、夕飯の支度を始める。

艶やかな白色をした一粒一粒が引き立ったお米。

出汁のしっかりとれた味噌汁。

しっかり味の染み込んだ煮物。

さっぱりとした塩味の秋刀魚の塩焼き。

それらをよく噛んでじっくりと味わいながら食べる。

そして、湯船に適度に熱い湯を沸かし、ざっぷりと浸かる。

目を閉じて、体の芯まで熱を届ける。

丁寧に頭、顔、体を洗う。

窓辺で夜風に涼みながら、そっと目を閉じる。

体の熱が引いてきたら、お水をコップ一杯分飲んで、ふかふかの布団に潜り、本を読む。

どこからか眠気が現れたら、本を閉じ、静かに眠る。


ここには、終わりも始まりもない。

時間の概念も存在しない。

ただ日は昇り、そして沈む。深い静かな夜が訪れ、また日が昇り、鳥たちは歌う。

全ての物事は動く。しかし時間はない。

競争心も虚栄心もない。

ただ全てが穏やかに現れては消える。

あらゆる営みは自然の中に溶け込む。

騙し合いも絶望も憎しみもない。


私たちはそんな世界に生きることはできない。

この世界にはあらゆる絶望や憎しみが凝縮されている。

誰かが誰かを蹴落とし、騙し合い、のし上がる。

強さを持たないものは権力を振りかざし、虚栄に生きる。

私たちは自然に還ることはできない。

仮想的に、始まりも終わりも、昨日も明日もない世界に近づくためには、常に他者と比べられ、自身の絶対的価値を見失うことと引き換えに、価値ある紙切れを手に入れなくてはならない。


精神が擦り減ると、とかく緩やかな毎日に想いを馳せるようになる。

あらゆる競争から解き放たれ、どっしりとのしかかった重荷を全て投げ捨て、平穏に包まれた世界に生きたいと願う。

けれども、そこにたどり着くことはできない。

夜の闇にぼんやりと浮かぶ月に向かってどれだけ走ったところで、たどり着くことはない。

そんな世界を追い求め、ずっとずっと走り続けた後に、本当の安らぎは訪れるのかもしれない。

そして、その時になってようやく気づくことになる。

私たちはどれだけ遠回りをしていたのだろう、と。


最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。

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