7話 神風(カミカゼ)(後)
「……来たか」
「何の用だよ……」
「そう言うなって、なあ、葛城」
放課後、信は銀璽に校舎裏へと呼び出されていた。ただでさえ今日は来る気など無かったのに、こんな事になるとは。
同じクラスのよしみで顔と名前は知っていたが、今まで一度も話したことなど無かったし、まさか呼ばれるなど思ってもみなかった。
「どうした急に……告白なら、後にしてくれ」
「あんた、2年のAクラスにいる宮原 遥嘉って知ってるか?」
「宮原……いや、知らないけど」
「あ、悪い。聞きかたがまずかったな、反不登校の社会不適合者がそんな人の名前を」
「さっさと要件を言ったらどうなんだ」
「あんたが眼帯した黒髪の女の子を殺しただろって話だ」
信は凍りついた。こんな事ならやんわりとした口調で言ってもらった方が良かった。だが彼女、この学校の生徒だったのか……この学校の生徒?
「お前が殺したのは一応分かってるんだが、お前不思議に思わないか?って話」
「人一人死んだのに、何のニュースにもならないって事か?」
「信さん、避けてっ!!!!」
信の右耳の脇を何か強力な衝撃が突き抜けた。銀璽は全く動いていないが、彼がやったのは明白だった。口元が笑っている。
「この人スピリット持ちです!!気配は隠してますけど……あの女の子の事を知ってるって事はそう言う事です!!」
「へぇ、あんたのスピリットはそんな事も教えてないか……スピリットの力を行使して死んだ人間は、一般人の記憶から完全に抹消されるんだ。これが闘争を激化させるために神がとったルール、殺したって何の罪にも問われないんだよ」
「ちょっと待て、誤解なんだよ!!あいつが襲って来たんだ、だから仕方なく……それに、死んだのはあいつが……」
ただなぁ……と銀璽は足元の土を足先で掘る。何だか、内に秘めた何かを紛らわせているような威圧感がある。信の言い分などまるで聞いている様子が無い。
「それは一般人の中の枠組みの話。いやぁ……あいつ、俺の親戚なんだよね。いつだって夢に向かって一生懸命でさ、どんなに大変でも笑ってやんの。Aクラスのトップまで上り詰めてさ、いつだって弱い者のために身を削ってた……なのに、何で、」
「何でてめぇなんかに殺されなきゃならなかったんだ!!!!」
再び衝撃が一閃する。今度は脅しでは無かった。信が身を回転させて回避しなかったら腕が一本吹き飛んでいた。
「こいつ、空気を操るのか……どうでもいいよな。来い、『青鞭龍』!!!!!」
『EQUIP・D01』
信は神具を生成した。自在に動く強力な鞭、だがこれでとらえられるのだろうか。この前みたいに後先考えず暴れまわることも出来ない。
「ああ、予定通りだ……あんたはレベル1にして特例ながら神具を使役できるが、何の因果かスキルは使えない。だったら、その二つを操る敵にはどう戦うんだろうな?突き崩せ、新月」
『EQUIP・A33』
銀璽がポケットから取り出したエンブレムが輝き、刀の柄に変化する。最初は柄だけかと思っていたが、よく見ると刃が付いている。ただ、とても薄い。屈折率もほぼ空気と等しいらしくよく見ないと全く見えない。
「俺は負ける気は無い、この見えない刃と飛ぶ斬撃がありゃ、どこから攻めても逃げられねぇよ!!!!!」
「だから誤解だって……くそっ、神技・『角蛇』!!!!!」
直角に曲がりながら徐々に鞭が銀璽の元へと伸びる。遅い、あまりにも遅すぎた。直進しない分、普通の人間でも回避できる突きだ。
「なめんじゃねぇよ、真っ向からぶっつぶしてやる……ブロシェット!!!!!」
「かかったな?」
「何だとっ!!?」
鞭を持っていた手を回す信。風の斬撃が襞に巻き込まれてかき消える。その瞬間急激にスピードが上がり、銀璽の周りを鞭が囲んだ。だが……
「なっ!!?」
「確かに自在に動く鞭かもしれない……だが、お前の意思が俺のスピードに追い付くかってのとは別問題って……話だろ?」
鞭が銀璽を締め付ける前に彼は飛び上がり、瞬時に信の目の前に移動した。そして彼は神具を解くと、その右手を信の首に突き付ける。あまりの出来事に、意識が現実に追いつかない。
「はい、これで一回死んだな」
「お前、一体……」
「いやな、あいつが死んだって情報とその前に戦った奴のデータだけが送られてきたんだよ。だから、その策略に乗ったのさ、出て来いよ……そこの人!!」
第何回卒業生だかが文化祭で製作したトーテムポールが真っ二つになる。まあ以前から落書きなどが半端じゃ無かったので罪悪感など微塵もないが。
そこから出てきたのは……黒いマントに黒いテンガロンハット。長身痩せ型の男は静かに微笑んでいる。
「若さは罪では無いですよ、銀璽君……そして、はじめまして、葛城 信」
「こいつ、さっきと神力が全然違う……なんだ、何だよこの力っ!!!!!??」
「まずい、この男……化け物か」
腰が抜けて二人とも立てない。そんな二人に男は、霧鹿は自身のエンブレムを見せる。それは銀色の輝き、書かれていた数字は……100。