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6話 神風(カミカゼ)(前)

「……そっか、今日は休みなのか」

「わけ分かりませんよ信さん!今日は金曜日です、ボケないで下さい!!」

「いやそう言う事じゃ……う〜ん」


情けない声で起きる信。自分ルールとして、金曜日のうちの何回かはいかないと固く決めている日がある。それを『ボケないでください』とは、何とも空気の読めない話だと呆れる信。


一般人の感覚からだと信こそどうかと思うが、誰もまともな意見を提示してくれないと言うこの現状。


「ほら、早く学校行きますよ!!今何時だと思ってるんですか、6時半ですよ!!」

「補習7時半から……」

「黙らっしゃい!!!!」


今時そんな言葉口にするのかと思っていたが今まさにいたらしい。ほどほどに急ぐニュアンスを醸し出しながら信は準備をして家を出た。



「……ん?」


こんなに早く登校することなど今までなかったので知らなかったが、こんなに早く来て朝練とかやってる生徒がいるらしい。しかもどうやら一人では無いらしい。音楽室の明かりが激しく点り、いろんな音が飛んでくる。


「どうしたの?吹奏楽部に興味でも?」

「えっ……い、いや」

「……ふふっ、ごめんなさい。自分でも、あんまりにもキャラじゃないって思っちゃって」


後ろから不意に声をかけてきた彼女は、先日であった眼帯少女とは正反対な印象を持っていた。白い髪、信よりかなり低い身長、そしてふっくらした顔立ち。決して太ってはいないのだが、子供っぽい顔のパーツが幼さを強調してしまう。


フルートの練習を一人黙々と、メトロノーム(振り子の原理を使ってテンポを刻む器具)とにらめっこしながらやっていたらしい彼女は初対面の自分に対してそうやって話しかけてきたわけだ。


「……何か他に用事か?」

「……私の事、覚えてない、のかな……?」

「う……ごめん、全く」

「そうか、そうなんだ……入学式の日に、それとなく告ったのにさ」

「……ああ、あの時の」

「思い出してくれた?」


あれは告白なのだろうか。帰ろうとしたら人気のない所に呼ばれて、『これから仲良くしようね』……うん、告白と言っても差支えない。だが、あまりにも押しが弱すぎる。積極的に話しかけてきた今の彼女は何なのだ。


「私の名前だって、どうせ忘れてるんだよね……薄情者っ」

「いや、そんな事言われたって……」

「ここ数日の連続出勤はどういう事?出席日数はそんなにやばくないんでしょ?」

「ストーカーかお前は」

「言ってみただけだよっ。私だって暇じゃないんだから」

「じゃあ何で俺に話しかけたんだよ。練習中じゃないのか?」

「……迷惑だった?」


急に声のトーンを落とす彼女。何だか胸の奥を掴まれるような変な感覚だったが、どうも作為を感じたので深く心動くことは無かった。


「たまには……いいかな」

「だ、よ、ね……だよねっ?私、2年のDクラス、ひいらぎ 飛鳥あすか!宜しくっ!!二度と名前忘れちゃダメだよっ。またすぐに会えるんだからさっ!!」


彼女はわざとらしく時計を見て、メトロノームを右手にフルートを左手に持ち音楽室へと帰っていく。……う〜ん。あれは狐か何かだろうか。まあ季節は秋だし。


「でも、またすぐに会えるって……」

「運命……とか思ってますか?」

「何を言って……」

「違うんですよ、信さん。あの人……」


リーンの顔から笑みが取れた。間をおいて一呼吸置くと言う事は何かあるのだろう。


「何だ?」

「……スピリット持ちです」

「……本当か?」

「今の状態だと、どっちかと言うと味方寄りです。しかし、信さんの態度次第では敵になると言う事を考えていてください」

「……肝にめいじる。柊 飛鳥か……」


ずっと前に一度聞いたような気がする名だったが、記憶をほじくり返すとある層まで行って硬い岩盤に当たったのでやめた。その先にあるものは見当が付いている。だからこそ、今はその先まで見る事はしなかった。


誰だって見たくはないだろう。『少年院に収容される記憶』などは。



「はぁあああ〜、やっぱりかっこいいよ〜」

「……だったらどうした、射抜くぞぼけ」

「うんうん、その矢で私のハートを射抜いて〜」


日の光が絶妙に差し込む窓際で猫みたいにごろごろ転がってほほを赤くしているのは飛鳥だった。そんな彼女のそばにいるのは友達AとB……と言う訳では無くちゃんと名前がある。


触れると切れそうな鋭さをもった彼女は立花たちばな 玲於奈れおな。漆黒の髪と瞳、一時期腰まで伸びていた艶のある髪は今は肩にかかる程度。


さっきから一度も言葉を発していないが、もう一人いる彼女の名は小池こいけ みどり。緑と言うよりは翡翠のような輝く緑色で、黄色い瞳。さっきから笑いがひきつっている。


玲於奈は弓道部で、その腕は全国レベル。緑は飛鳥と同じ吹奏楽部でクラリネットの1stを担当している。こんなメンバーだが、実は玲於奈ではなく緑が後から加入したのだ。玲於奈と飛鳥は中学校からずっと仲がよく、玲於奈に言わせると『腐れ縁』なのだとか。


「私にはそう言うの、よく分かんないんだけどな……」

「分かんなくて良いよ〜。これでライバル一人減〜」

「……………」


玲於奈が処理落ちした。そして結局何を言っても無駄だと判断したらしい。このプログラムを終了しますと勝手にページが閉じられたみたいな感じだ。飛鳥の容量はでかすぎる。


「どうでもいいけど、部活もちゃんとやりなよね。もうすぐ吹奏楽祭なんだからね」

「分かってるもん……うう、来いと部活の両立なんてできないようっ」

「勉強もやれ勉強も。そうやってテスト前に私に泣きつくんだ」

「ううう……ZZZ」


「「この流れで寝るなっ!!!!」」


はっとして起きる飛鳥。だが、この寝ぼすけドあほはそう簡単に回復しないわけで、すぐまた夢の中である。しょうがない、次の授業まで放置しておくか。二人は結託し、静かにその場を去った。



「うう〜ん……あっ、あああっ!!!!!!」

「うう〜ん、飛鳥ぁ、どしたの?」

「どうしたもこうしたもないよフルー!!!体育の授業まで後一分!!!!」


フルーと呼ばれたスピリット、神界では『幼蝶』と呼ばれる神獣である、は眠そうな目をぶるぶると震わせて目を覚ました。一見するとナマコにも見えそうな幼虫の姿(と言っても20センチくらいある)だが、つぶらな瞳は結構かわいらしい。


「やばい遅れる……な〜んて、たぁっ!!!!」

「うわっすごい早着替えってか早脱ぎ!!何のストリップショー!?」

「そして……お父さんお母さん今までありがと〜っ!!!!」


体操着に瞬時に着替えた彼女は窓を開けて二階から飛び降りた。発見されるとかされないとかお構いなしだ。とりあえず授業に遅れない事が今は第一条件なのだから。何ともまあアホな。


「すっ、すみません!トイレに行ってて遅れました!!」

「いや、まだ大丈夫d……授業始めるぞ!」


飛鳥が既に並んでいた列に合流すると同時にチャイムが鳴った。こう言うときは神の存在を信じてもいいような気がしてくる。ただ、余計な言い訳をしてしまったものだ。大声で言ったせいで、一階の一年生がこちらを見ている。



((アホ……))

「ううっ、いじめないでぇ……」



「ああやだ、何であんな言い訳を……ってか、何で起こしてくれなかったの!!?」

「いや、起こしたんだけどさ……飛鳥すぐ寝るし」

「スピリットだって一緒に寝てたんだ、同情の余地なし。大体言い訳のチョイス考えろよ」

「しょうがないでしょそんなんじゃないと入れない雰囲気だったもの」


軽く周りを笑わせてそのノリで入っていく予定だったのだが、予想外のところがそれを聞いていたせいで余計な波紋を広げてしまったのである。


別に小中学生では無いのでガハハハと言う笑いは起こらないものの、ネタにされるのは間違いない。


「はあ、こんなんでいいのかな……」

「とりあえず、次の授業の準備をしろよ。次英語だぞ」

「なっ、何ぃいっ!!?やばい、予習してない小テストの勉強やってない月曜提出の課題まだ出してないっ!!!!」

「とりあえず、授業の準備しようよ」


二人の意見はとりあえず一致。ただ、根本的な所で何かが違う気がする二人だった。


その時、がらがらがらっとベタな音と共に前の戸が開く。だらぁ〜っと机に伏せていた飛鳥は姿勢をがばっと正して教材を探し始める。だが、それは1秒以内に終わった。


入って来たのはCクラスの萩原はぎわら 銀璽ぎんじだった。銀色のぼさぼさした髪、宝玉のような銀の瞳。美しい顔立ちとは相容れないおちゃらけた雰囲気。


「今日、英語は自習だってさ。みなみんが風邪でダウンしたらしい」


軽く歓声が上がる。どうやら飛鳥以外にも仲間がいたようだ。ちなみにみなみんと言うのはB、D、Eクラスの英語を担当しているみなみ先生の事だ。課題の量が凄まじいので生徒は嫌悪している。


「じゃ、俺は戻って……っと」

「うわっ、ちょっと何するのよ銀璽君!!」

「気にすんな、こないだ貸した120円をチャラにしてやるって話」


不意に彼は飛鳥に紙飛行機を投げつけた。紙飛行機は空中で一回転すると勢いに乗って飛鳥の眉間をジャストミートする。怒りながらも中身を開くと、そこには丁寧な字でこう書かれていた。


「『今日の放課後の掃除当番を120円で譲り渡す』……ちょ、ちょっと銀璽く……」


疾い……飛鳥が顔を下げてから読み終えて再び上げるまでの間に彼は逃げていた。


「緑、掃除あるから部活遅れるって言ってて……」

「災難だね、飛鳥」

「全くだ、時給240円のバイトなんて」

「いや三十分もかける仕事じゃないし。どんだけさばけないの私」

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