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5話 神を知る者

それはHRの終わって数十分が経過した午後の夕時。もう人は誰も居なくなってしまっている。だが、それだからこそこうして空に向かって話しかけていても誰も気に留める人はいないのだけど。


「……終わった」


家にいてもすることもないし、寝ることも出来ないので一応学校には来たが……寝ずに授業をこなすのもまた地獄だ。死にたくとも死ねないゾンビの気持ちがよく分かる気がした。


「ちなみにさっき受けた英語のテスト、最後の動詞にsつけ忘れてましたよ?」

「あっそう……」


そんな事はどうだっていいのだ。毎日学校に通って必死に勉強している一般生徒の気持ちが信にはいまいちよく分からない。たまにしか来なくとも、とりあえずテスト前に少し顔を見せて復習プリントをこなすだけでテストの点は取れるのだし。


「……まだ、引きずっているんですね?」

「引きずるなって言うのかよ……あの光景に慣れろってのかよ……」


自分のせいで死んだ人が居た。幸せな未来が待っている人が居た。そしてその人を、自分は殺してしまった。たとえその気がなくとも、自分は人を殺めたのだ。


それは悲しく辛い記憶で、冷たく淡い雪のような記録。すでに過ぎ去った過去。だが汚れた雪は、融けても染みとなって残り続けるのだ。


「あ、そうだ信さん……両手を出して、水をすくうようなポーズをとってください」

「……これでいいのか、っ!?」


信の両手には、六角形の青いアクセサリが出現した。何とも手品のような感覚だが、ひんやりとした手触りが妙に心地よい。


何度も念を押すが、この教室に人はいないのでご安心を。


「これは……?」

「神具を……あ、言ってませんでしたね。この前、信さんが生成した武器の事です。あれを即座に呼び起こすための道具なんですよ。それと……」

「うわっ!!」


アクセサリが輝くと同時に、薄い冊子が出現する。もう何でもありだなと思いながら中身をぱらぱらとめくっていくが、大体が白紙だ。書かれているページには、神具だとかスピリットだとか今までに出てきたような言葉とその意味が書かれている。


「一応何度も説明するの面倒なんで、それ見ていろいろ勉強して下さい。出て来いと念じるだけで大丈夫ですから」


それだけ言って、リーンの気配は完全に消えた。とりあえず聞き流し、一つ一つの言葉を咀嚼する。なるほど、そう言う事か。


「『神具……スキル(別項参照)を使い続けてスピリットと深く同調することで発動可能となる強力な武装。大きく三種類に分けられる』……」


いやそれだけかよと軽く冊子に突っ込みをいれ、荷物をまとめ始めた信。自分のことなどもうはなから諦めている先生ならまだしも、根が真面目な先生が今までにたまった課題をまとめて渡してきたりするので鞄がはちきれそうである。


「……まめに来ないとな」


それは確かな気がした。たとえ一日中誰も話しかけてこない上に変な物を見るような眼差しを向けられ続けたとしても。



帰宅がてら、信は帰り道の途中にあるスーパーに来ていた。ここはこの時間帯になると色々と安売りをやっているので信もよく利用している。学校へ行った帰りだけだが。


「ふう、これで全部か」


半引きこもりの半登校拒否状態の信でも自炊はちゃんとやるのが彼なりの美学。ただ何日も献立を考えなくていいカレーや肉じゃが、手間いらずの即席めんに頼りがちなのは内緒である。


即席めんはもはや自炊とは言わないのだろうが、そこは譲歩してほしい。


「これ、お願いします」

「いつも偉いわね。一人暮らしでちゃんとご飯も作ってるなんて、うちの息子にも見習わせたいわよ」

「はぁ……」


このレジの人はやたらと遭遇率が高い。レジ3つじゃそれも必然的なのだろうが、遭遇率は5割を超えているように思える。


どうやらこの人、息子がいるらしい。いや、それは聞けばわかることなのだけど、何度もこの話を吹っかけられるのだ。そして、話し終えると決まっておまけしてくれる。


「カレーには福神漬けが無いとやっぱりどうかと思うのよね。私が個人的に失敬したやつだから気にせず持って帰って」

「……ありがとうございます」


いや、失敬って……確かに以前はきゅうり用の味噌でも入ってたかのような小さなプラ容器だったが、それは人としてどうなのだろう。はっきり言って気にする。


「それじゃあ、また来てね〜」

「はい……」


あんまり良くしてもらっても後ろで待っている他のお客の視線が痛いのでどうも素直に喜べない。信はそそくさとその場を立ち去った……



「下らないですね……」

「とてもそうは見えないが?」


数十人の死体を下に敷いて男は静かに呟いた。スピリットの力を行使し人知を超えた力を操る彼にとって一般人を殺す事など呼吸より容易いのかもしれない。


白く輝く鎌にべっとりとついた血を拭き取った彼は、神具を戻した。すると、白かったアクセサリが銀色に変化し淡い輝きを放っている。


「雑魚でも腹の足しにはなるようですね。もうレベル三桁ですか」

「流石は『黒衣の死神ブラックサイズ』。神界で暗殺を営んでいた俺さえ痺れさせるとは」

「これからも、貴方の力量には期待していいんですよね、ロード?」

「ああ……亀梨かめなし 霧鹿きりか。王になれるのは、お前だけだ」


神界では多くの神獣を殺し、同族からも畏怖の念を抱かれていた彼がついた人間は彼よりもさらに恐ろしい狂気を有した男。


黒マントに黒のテンガロンハット、細くそして奥に怪しい輝きをたたえた目。長身痩せ型に細い顔つき。彼は見た目も中身も超一流を超えた実力者だった。


もはやこの世界にも敵はいない、そう思っても全く過言ではないほどの力。だが彼の興味は意外な所にあったのだった。


「ふう……そろそろ帰りましょうか。明日にでも……会えたら良いですね、葛城 信」


彼がポケットから取り出したのはスピリット持ちのリスト。そう何枚もあるわけでは無いのだが、他の物と比較して明らかに異なる、○も×も付いていない一枚の紙。そこにあったのは信の顔写真だった。

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