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3話 初陣(前)

そこに待っていたのは、今朝出会った奴らでは無かった。正確には出会った奴らなのだが、彼らは既に命を失っているようで、三つの死体の中心に立っている者が一人。


彼女は引き込まれるような深い青の瞳をしており、短い黒髪を結ぶこともなくそのままにしている。右眼に眼帯をしているが、それを差し引いたってひょっとしたら可愛いのかもしれない。だが、彼女の装備は容姿とあまりに不釣り合いだった。


血に染まった鉈を持ち、鮮血が目立たないような、赤っぽい黒のコートを着ている。確かに今は秋だが、そこまで寒くは無い。武器とシチュエーションの二つのコンボが、コートが血で染まったかのような錯覚を与える。


「一つお礼を言っておきましょうか。貴方はスピリットを持ちながら悪を憎みその強大な力を私利私欲に使わない、非常に共感できる」

「お……お前が殺したのか?」

「ええ」


悪びれる様子は一切なかった。そして初めて感じた死の空気に飲まれてしまった自分が情けない。


「だから、貴方があの子を助ける理由とか全然なし。あの子はぼこぼこにされて気絶してたから、貴方からの文書って事で警告の手紙置いて別の所に寝かせてる」

「殺したのか……そこまでする必要があったのか!?」

「私ね、弁護士になりたかったの……」


だったら何で殺しなんか……言いかけて止めた。彼女は、法でも裁けない、いや『法と言う崇高な物を使うまでもない』たくさんの悪事に絶望したのだろう。だから、人を守るためにこの神の力を行使する。


「でも駄目。どんなに私が勉強したって、私一人で救える人間には限りがあるし、私と関わってもどうしようもない人だってきっといる……泣き寝入りする人が馬鹿みたいな世の中は、変えてみせたいの」

「……殺さなくても、ぼこぼこにして放りだすとかあったんじゃないのか?」

「みんなそう言うでしょうね、でもね……だめなの」


彼女が眼帯を外す。そこには左目の吸い込まれるような瞳と違う、血のように赤い瞳。


「これが、神から受けた私の力の一部……完全にランダムだけど人の未来を見ることが出来るの。私が放り出した三人の一人は、憂さ晴らしのために罪もない一般人を殴り殺す、そしてさも被害者のように、『襲われたんでやり返したら死んでしまった』って警察に泣きつくのよ」


彼女は泣いていた。彼女は罪もない他人が傷つくのを自分が傷つくよりも深く感じる優しい人間だった。だから、優しさが残酷な決断を選ばせる。そしていつか壊れて……


「壊れてしまう。いつか、何のために力を振るうかわからなくなる」

「今朝スピリットを手に入れた貴方に何が分かると言うの?目標もなく、ただ適当に日々を過ごし……ごめんなさい」

「それも、その眼が教えてくれたのか」

「プライバシーの侵害よね……いや、違う。私は見たかったんじゃないもの、こいつらだって、殺したくなかった、でも、罪もない人の命には代えられないのよ……あはは、あははははは……」


彼女は力なく笑っているはずだ。だが何故だ、彼女が力なく笑うほどに、彼女とは違う何かの力がおぞましいほどに膨れ上がっていく。


「そうだよ、スピリット持ちは危険なんだ、どんなに良い人間でも、人を守るために人を殺す、それが良いか悪いかなんて、凡人には分からないよ……」

「信さん、構えて!!!」

「何だと……っ!!!?」


近くにあった鉄パイプが間一髪で信を救ってくれた。彼女は人間とは思えないスピードと力で信に鉈を打ちつける。鉄パイプは錆が激しく、よく持ってくれたものだ。現に、信が振り回そうとすると空気抵抗だけで真ん中から折れた。


「私が全てのスピリット持ちを消せば、この世界はずっと平和になるよ……ね、平和のために、死んでね」

「これが、戦い……命がけってやつかよ……」

「信さん、逃げましょう……あの人、場数が違いすぎる……」

「あ、ああ……っ!!?」

「どこにいくの……かな?」


信の首に死神の鎌が迫っている。速い、そして無情な攻め。


「私以外の誰かを殺しに行くんでしょ?させない、そんな事させないから!!!!!」

「くそっ……どうすりゃ!!」



自分は無知だ。さっきだってリーンの力を借りなければ人を超える力を発揮できなかった、それなのにどうすれば……


「リーン!!何かこう、ファンタジーな攻撃とかないのかよ!!!?」

「あるにはありますよ!!ですけど、信さんレベル1なんですよ!流石に始めたばっかりの人には……」

「『黒の衝撃シュバルツ・ウェイブ』!!!!」


彼女の鉈から、黒い衝撃が飛んだ。字同然の一撃で、回避は出来たものの後方で音もなく断絶された機材を見るのは忍びなかった。


「あんな事が……すぐに出来ないのかよ!!?」

神力しんりょくを自在に使いこなさないと無理ですよ!!」

「『黒の衝撃』!!!!」


攻撃は止まない。しかも、回避するたびにスピードが増している。あいつ、わざとゆっくり……気づいた時には少し遅く、信は壁際に追い詰められていた。


「ふふふ……追いついた」

「お前……無抵抗の人間を殺していいのかよ!!?お前の正義は、そんなにも容易く折れるものなのかよ!!!?」

「うるさいわよゴミが。ゴミの言葉なんて聞くに値しない」

「ああ、そうかよっ!!!」


不用意に近づいた女の手首を掴み、鉈の一撃を止めようとした。だが、そううまくはいかない。彼女の力は既に大人の男のそれを軽く上回り、信の手を払った上にもう片方の手で信を持ち上げる。


「俺を殺してどうする!!そんなんでお前、望みは叶うのか!!!?」

「偽善者ね。心の声に従って泣き叫んだらどうなの?」

「心の声だt……『このっ、放せぇええっ!!!!!』


リーンが信に憑依し、彼女を制した。だが両手を使ってやっと制圧したのは左腕だけ。右手が鉈を顔に向ける。


「死ね」

「『……嫌だ』」


 二人の声が重なる。だが、信じられない事だが……信の心の奥では絶望など感じていなかった。なぜかは自分でも分からない。だが、リーンが憑依する直前に、聞こえたのだ『心の声』が。


「(やれる気がする……でも、どうやって?)」

「『闇のシェイド』……」

「いちかばちかぁあああっ!!!!!!」


『EQUIP・NoD01』

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