1話 運命の出会い
その夜、彼は夢を見ていた。何処までも続く花畑、そしてそこに広がる無数の香り。
何故忘れていたのだろう……こんな温もりを……
その時、周りを炎が走った。花は全て焼き払われ、その場は地獄へと変わっていく。
「うわああぁああぁあ!!!……夢か。全くいい加減にしろよ……ここ数日、こればっかりじゃないか……」
ちゃんと手入れすれば美しく映えるはずの翠の髪は無造作に散っており、彼の心の動揺を反映したかのようだった。
彼、葛城 信は自分のベッドで目覚めた。周りは天国と言うには大袈裟だが、決して地獄と言うべき場所ではない。
「今日も、学校か……如何しようかな……」
信は、自分の手帳を見る。出席日数にはまだ余裕があった。
「今日は行くの、止めるか……」
学校なんて下らない、信はずっとそう思っていた。自分の気持ちを分かるのは自分だけ。他人の荷物を持つのも、自分の荷物を持たれるのも嫌だった。
(もう、如何でも良くなってきた……)
葛城 信の親は、二人揃って社長と言う超が付くほどのお金持ちで、それがあるからこそ信は一人暮らしが出来るのだ。家にいても、親の顔など見たくない、そんな思いが転じて、こうなった訳である。
(人と会うなんて、下らないんだ……)
そして眠りに付く信。だが、またあの夢が始まる。寝られた物ではない。
「はぁ、はぁ……くそっ!」
「如何したんです、そんな息を荒くして……?」
「ああ、ちょっと……ちょっ、と?」
その声に、信はびくっとした。この家に、自分以外の人間はいないのだから。
「誰だ……俺の部屋に勝手に入ってくる奴は!」
「しょうがないですよ。貴方には見えないんですから。落ち着いてください。落ち着いてくだされば、私の詳細を話しますから。」
などと言われても、落ち着けるはずが無い。何も無いところから聞こえてくるのだ。
「分かった……落ち着くよ……」
自分の高鳴る心臓を抑えて、信はベッドに座った。
「やっと落ち着きましたか。ではお話しましょう。私は神獣。神の住む場所、神界からやってきたものです。」
それを聞いて、信は一旦は納得した物の、すぐに考えを改めた。
「ちょっとまて!そんなメルヘンな話、信じると思うか?!大体、何でお前が此処にいるんだ!?」
「実はですね、人間が抹殺される事になったんですよ。ですから、私は貴方がその抹殺対象にならないよう、お手伝いに来たというわけです」
彼(姿は見えないが、一応少年の声だった)の話によると、この世界に増えすぎた人間を排除するため、神が神獣を送り込んだという事らしい。そして、戦いの果てに、勝者を神にすることも教えた。
「そうか……それは素晴らしいじゃないか。人間なんて、下らない生き物だとは思ってたがな、いい機会じゃないか」
微笑する信。だが、どこか悲しげな憂いが見えた。
「決まりですね。じゃ、私が今から貴方に取り付いて見せますから」
彼が取り付くと、信は体の底から力が溢れてきた。その力を信に体験させると、彼は信から分離する。
「良いじゃないか。じゃ、早速、人間をおs……」
「ちょっと待ってください。私の名前を決めていただきたいのですが……」
彼はおどおどしながら頼んだ。これが本当にその不死身の神獣なのだろうか。情け無い。
「……リーンで如何だ?響的にも良いだろ?」
「了解です。さあ、学校へ行きましょうか。それくらいの事は学習済みですよ」
「あっそう……しょうがないか」
……こうして、信の人生は、180度変わったものへとなって行く……