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8話 死神の足音

「おやおや、どうやらさっきまで私がちらつかせていた神力が私の限界だと思っていたらしい。悪いですが、これが本物です」

「こいつ……くそっ、ブロシェット!!」

「無駄ですよ」


彼の右手の一振りで、信を切り裂こうとしていた斬撃は容易に掻き消える。手品でも何でもなく、それがただ純粋な実力の差。


「こいつ、ナイトクラス……無理だ、勝てる相手じゃない!!!」

「ナイトクラス!?なんだよそれ!!」

「スピリットにもいろいろあるんです、彼のスピリットは機動性と攻撃力を重視し防御力を大幅に削減している、それでもあのディフェンスなんですよ!!?」

「俺らはポーンクラス一体にナイトクラスが一体、と言っても俺とあいつじゃ桁が違う……銀璽、どうすんだ!?」


銀璽のスピリットが初めて口を開いた。現在の状況を冷静に分析し、それでも破滅以外のゴールが見えない事に対する言い淀みが含まれていた。


ポーンクラスは下級のスピリットを意味する。何に特化しているわけでもなく、ただ上のクラスへと駒を進めるを待つ脆弱な存在。そんなスピリットを持ったスピリット持ちがいても、一体何になるだろうか。


「どうすりゃ……っ、やるしか、ねぇだろ!!!」

「待て!!一人で行っても死ぬだけだ!!!!」

「ふん……」

「ぐっ!!!」


薄く洗練された刀身による一撃は、ただの何でもない右手に止められる。脆弱な決意、力なき意志。予定では信で遊ぶつもりだった銀璽には本気が欠如していた。


「くそっ、何て硬さだよ……」

「貴方の剣には本気が無い……それで勝てるとでも?」

「んなこと知るかよ!!ここでやらなきゃ、どこでやるって」

「不思議に思わなかったんですか銀璽君?『葛城 信』しか知らないはずの彼女の死の詳細をまとめた資料が送られ、それを見た貴方と信が戦う一部始終を私が鑑賞していたと言うのに」

「……そんな、まさか!?」

「違う、銀璽!!!それはこいつとは関係……」


「てめぇのせいかぁあああっ!!!!!!!!!!!」


刀を地面に突き刺し、それを軸に右足で回し蹴りを叩き込む。剣ですら傷を入れられなかった彼の腰が揺らぐ。そして今度は左足を軸に剣を振り横に切りつけた。


当たった……だがそれだけだった。ただ、彼の防御手段が白く輝く鎌に変わり、ほとばしる神力が銀璽の怒りもろとも信の後方まで吹き飛ばしただけ。


「これを使うつもりは無かったんですがね……これでも手加減してるんですよ?さあ……落とせ、『朧鎌ルナシックル』」

「くそっ、くそおおっ!!!!!」


二つの鎌が柄の部分で連結している。Z状の形だ、振り回して使うのだろう。対する相手の圧倒的な存在感、銀璽は友の無念を思い嘆いた。


「ちくしょぉ……」

「……お前も面倒な奴だな」

「え……?」


信は鞭を構え直した。この絶望的状況でも彼には立ち上がる余裕があった。そして彼は、鞭を鎌へと伸ばした。鎌の中心に鞭が絡みつくが、あまりにも無謀なやり方だ。


「……このまま鞭を切り刻んでも良いんですが……まあ、解除するのが一般的ですよね」


彼は一旦神具を戻すと、鞭の無い所に再び生成させる。普通ならこれでアウトだろう。だが、何の支えもないはずの鞭が重力に引かれ地面に落ちる事は無かった。


鞭は再び生成された鎌をかいくぐり、腕ごと上体を完全に拘束した。


「悪いが、この鞭は俺の意思に合わせて自在に動く。スピリット手に入れてまだ日が浅いんだ、鞭をそこまで器用に扱えるかよ」

「貴方、さっき私が刀の攻撃を手で防御したことを忘れたんですか?それだけ力の差があると言うのに、こんなもので私を」

「はったりだ」

「何?」

「あれは手の先に神力を集束させたからできた防御にすぎない、銀璽の蹴りくらいで体勢が崩れたのがその証拠だ」


信は油断していなかった。こんなにも上手くいくはずは無い。相手に予想できるぎりぎりの範囲で敵を制する、そうすれば対策の幅も自然にせまくなってくるものだ。


「なるほど……素晴らしい」

「信っ!!!」

「くっ、変わり身だと!!!?」


一瞬で信の後ろを取った死神はその鎌で信の首を落とそうとした。だが、鎌と首の間に割って入った細みの刃が紙一重でそれを止める。だが銀璽は気づいていた。信も気づいた事だ。


彼は手加減をしている、それが分からないほど二人は子供では無い。


「……私、あんまりいたいけな女性に凄惨な光景を見せるのはいただけないと常日頃から思っていましてね……いづれまた逢いましょう、それまで死なぬように」

「……女性って、飛鳥のお陰で助かったのか」

「飛鳥?」

「いやな、一応信に俺が負けた場合の保険だよ。こんな形で役立つとは……」

「人を物みたいに言わない!!」


建物の陰から飛鳥が姿を現した。どうやらずっと見ていたらしい。だからこそ助かったのか……だが、それだけの理由で見逃す相手なら、最初から殺さなかったのでは?とも思う。


「ま、まあ今日は助かった事だし……あ、ちょっと待てよ!!」

「帰る」

「悪かったって、こう言う事もたまには……」

「あってたまるか」


信は静かに、しかし素早く去って行ったのだった。



「……ちょっかい出すならもう少し考えてからにするべきだと思うがな」

「ええ……同感です」


霧鹿一人しかいない静かな家の中で、彼は左腰に湿布を貼っていた。うちどころが悪く骨にまでダメージがいったらしい。と言うか湿布で何とかなるのだからもはや何でもありと言った感じだ。


「ここまで来ると単純に戦うより下の成長を見るのが楽しかったりしますしね……」

「酔狂な……だが、死神の気まぐれも悪くない」

「次に会う時は、私に神具を存分に振るわせて下さいよ?お二人さん……」

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