君こそ武本の子供
驚いてこんな物言いになってしまったが、和久は僕の返答が意図したものじゃなかったようで慌てて席を立とうとした。
「ごめん、今言った事は忘れて。なんでもない。」
「待って、和君。君はオコジョが見える力が残っているの?おじいちゃんに消されてしまったのではないの?」
引き止めて確認せねばと、僕はぶら下るようにして和久の腕をつかんだ。
「ねえ!おじいちゃんに力を消されてはいなかったの?」
僕に腕を捕まれた和久は座り直し、僕の言葉にまた驚いた顔を見せていた。
それから僕の質問の正解のようにして、部屋中に散らばって僕達を窺っているオコジョたちの群れのいくつかに、彼には見えているようにしか見えない視線の動きを見せた。
わあ、オコジョがなんか反応して、全員が二本足で立ちあがっていく。
白いキノコがにょきにょき生えているみたいで、少々気持ちが悪い。
「ほら、僕に見られたって反応している。僕にはずっと見えるよ。昔おじいちゃんに大事にしていたオコジョを奪われて消されて以来、自分のオコジョを持てなくなったけどね。」
え?
オコジョは武本家の人だったら好きに使える、武本家の飯綱使いの力を持つ者みんなの共有ペットではないの?
「クロちゃんはいつも沢山連れていて羨ましいよ。一匹くらい僕にも分けて欲しいと思って。ああ、変なことを言ってごめん。」
和久の言葉に部屋の隅にいた数匹のオコジョがわらわらと彼にまとわりつき、彼にじゃれつき始めた。
和久は驚きつつもオコジョを一匹ずつ撫でながら可愛がり、ポツリと呟く。
「おじいちゃんにコレは駄目だって取り上げられた子は僕に色々と語りかけてくれてね。他の子は喋らないのに。だからあれが僕だけのオコジョだったんだよ。」
「オコジョって喋るの?」
「君のオコジョは喋らないの?」
「喋らないよ。今君が遊んでいるその子達そのものだよ。オコジョは武本家みんなのものじゃないの?」
「え?」
和久は一匹のオコジョをギュッと抱き、見通し始めた、自分自身を。
彼もやはり武本の子供だったのだ。
彼は心ここにあらずな風だが、オコジョを撫でる手は優しく、オコジョ達がそんな彼に撫でられたいと周りに集まり始めた。
家中のオコジョ達がワラワラとだ、うぇ。
「和久君、見えた?見えたなら早く正気に返って。今の状況に僕が正気を失いそうだよ。」
僕達はオコジョ風呂に浸かっていた。
見える人には「うげぇ。」な風景である。
三十畳以上ある和室は白い絨毯が敷き詰められたかのようにぎっちりとオコジョが埋まり、机の上だろうが僕や和久の頭だろうが、彼らは跳ねて乗って遊び、天井の欄間にもびっしりと並んでいる。
目の中は、雪焼けならぬオコジョ焼けで、僕はオコジョ中毒になりそうだ。
「え?え、えー?」
事態の原因である和久は、現状に気が付くや吃驚の声を上げた。
「これ全部が玄人のオコジョ?」
「違うよ。この子達は武本家のオコジョだよ。武本家の僕達みんなを守り、僕達に可愛がられる事でそのうち成仏して消えてしまう、半分神獣で半分幽霊の生き物達。」
僕の説明に和久はハッとして、それから納得したように笑い出した。
「あれはオコジョじゃなかったんだね。」
アハハハと和久は朗らかに笑っていたが、何かに気づいたかのように突如としてカっと目を見開いた。
「あれは、鼬だ。あの、僕が見つけて家に連れ込んでしまった、あの大きなオコジョは、あれは、――他家の飯綱使いの飛ばした鼬だったのか。」
「それで、おじいちゃんに消されたんだ。飯綱使いの力があると武本家の呪いを受けるから、おじいちゃんに和君がオコジョの力を消されたと僕は思ってしまったけれど、本当は鼬を処分していただけだったんだね。」
「それで力が少しある僕にも呪いが来たのか。それなのにどうして呪いが消えたんだろう?」
そこで僕はあっと気がついた。
彼の呪いが消えたのは、僕が当主に完全に納まったからだ。
そこで僕は簡単に説明することにした。
和久の寿命は短くはなく、僕が五十年の呪いを受け持つために作られたなどと、この優しい彼が知るべきことではないからだ。
「僕の記憶を無理矢理戻すなっていうおじいちゃんの遺言が、まさにそれ、でしょう。気力が落ちると呪いに対処できないからって。」
「そうだったね。僕は落ち込んでいたものね。」
でも、なぜ彼の寿命は長いのだろう?
武本家の男児で飯綱使いだ。
役満ではないの?
武本を妬む呪いで武本家の当主と目される者の寿命が短いからこその、寿命が伸びますようにと願掛けをしたのではなかったのか?




