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あなたと同じところに逝けるのなら (馬8)  作者: 蔵前
十三 玄人の作った部屋
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化かされる

 楊とアミーゴズは法事の最中に帰った。

 途中と言っても法事自体は午前中に終わり、後は親族の顔見世昼食宴会と化したお斎だ。

 楊達は出された膳を食べた後に宴会が佳境になる前に帰ったというだけである。

 しかし、帰る前に電車という足もあることを知って呆然としていた。


「在来線で新幹線に乗る?」


 呆けて聞き返す楊に武本の親族は一斉に笑い声をあげた。


「それが一番楽な方法ですよ。飛行機は乗る一時間前には空港に行かなきゃ行けないし、三沢は遠いですから。まぁ、在来線も一日に三本ですから時間に間に合わないと大変ですけどね。でも、三本とも乗れば新幹線に乗り継ぎできる時間設定ですから判り易いよね。」


 孝彦が電車の時刻表を見せながら説明をすると、彼の隣の妻もコロコロと笑いながら相槌を打った。


「二戸から乗ったら三時間で東京駅ですものね。チケットを一括で買えば行きも帰りも乗り継ぎ時間に困らないから楽よね。」


 孝彦の妻で玄人の父親の妹に当たる奈央子は、加奈子に似た風貌ながら加奈子よりは柔らかい印象である。

 孝彦と奈央子の説明によると、ここは青森県としては辺境の土地だが、岩手県に近い場所に存在していた模様だ。


 つまり、青森の中心地に向かうよりは岩手県の中心地に向かうほうが現実的だと言うことだ。

 俺達は武本町の発着場と同じく玄人の話を聞いて信じていたばかりに、完全に玄人に化かされていたのである。

 化かされるのバカに馬鹿を当てたいくらいだ。


「でも、凄い豪勢でしたね。飛行機をチャーターして乗り継ぐなんて。私共はめったに発着場も使わないから、町を通って車で行けばいいなんて考えもしなかったですよ。」


 玄人の祖父の蔵人の兄弟か従兄らしき年配の男性が、大げさで大きな笑い声をあげた。


「あれは、ほら、武本が使うためのセスナ発着場じゃなくて、村の農薬散布用のセスナ用だったものね。飛行機で一気に撒いたら楽だろうってね。」


 誰かが言った言葉に、楊の驚いた声が重なった。


「農薬って、世界遺産では?玄人君から武本町の農作物はそれで無農薬だって聞きましたよ。安全でおいしい野菜ばかりだって。」


 再び親族連中の笑いのさざめきが盛大に起きた。


「困りましたよ。申請をしてもいないのに、国から勝手に認定されて農薬使用不許可です。それで仕方なく完全無農薬を謳ったのですが、このご時勢だから野菜が高く売れてかえって良かったのかも知れませんね。」


「ポリシーがあってではなく、仕方なし、ですか?」


「全く。お上の仕返しですかね。武本の家も古いから文化財に指定されそうで慌てて改築したんですよ。指定されると、維持費は持ち主持ちなのに修繕方法が国指定になるから大変らしくてね。雨漏り一つ自分達の判断で直せないって聞きましたから。それで先々代が家をぶち壊しちゃったんだっけ?」


「そうそう。まず役人の前でどーんてトラクターを玄関にぶち込んだのよね。こんなに壊れちゃあ直さないとどうにもならないって。それから屋敷を全改装し始めたんじゃなかったっけ。」


 わいわいがやがやと楽しそうに武本邸の破壊について親戚連中が盛り上がる中、俺達四人は武本邸をこれでもかと自慢していた玄人を思いやって視線を動かすと、本人はどこ吹く風の平気な顔で次々と食い物を口に入れていた。


「おい、勝利の旗印じゃなかったのかよ。」


 俺がボソッと玄人に尋ねたら、同じく上座にいる篤円和尚がシレっと答えた。


「お上の思惑をはずしたでしょ。」

「確かに勝利ですね。」


 オコジョらしい小さな勝利に笑いが出た。

 そして親戚連中にはこの話題がツボらしく、楽しそうに次々と喋り出して大盛り上がりをしてしまっていた。


「そうそう。それでなんちゃって旅館風に作り変えちゃって、変な家なのよね。」

「階段を上った先には部屋がない、とか。」

「蔵人さんこそ遊んで、変な部屋をかなり増やしちゃったしね。」


「玄人も作ったでしょ。」


 誰の言葉か知らないが、その女性の言葉に場が静まり返った。

 一斉に玄人に全員の視線が集まり、彼は中央の膳の前で呆けていた。

 隣に座る俺が彼を腕で軽くつつく。


「どうした?」


 彼は呆けていたのではない。

 目を見開いて見えないはずのものを見ていたのだ。


「お母さん。」


 彼はポツリと呟くと、深々と親族に頭を下げて、暫しの中座を願い出た。


「良純さん。僕は僕が作ったと母が言う部屋に行かないと行けません。一緒にお願いできますか?」


 そう言って玄人が立とうとすると、篤円和尚が彼を押しとどめた。


「部屋は逃げない。後にしなさい。」

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