結局どうでもよくなる玄人
あの鉄球をぶら下げたクレーン車を玩具にしている孝継が、玄人に会えないと嘆きながら、その状況を破壊せずに粛々と従っていた事に、俺は常々違和感を感じていた。
それが今、ようやくすんなりと、俺の中で解消された気がした。
確かに、この白波の毒蛇から攻撃を受けるのは怖いであろう。
「おい。裕也は大丈夫なんだろうな。」
大笑いしていた二人は涙目で笑いを収めると、双子のように同じ動きで俺に顔を向けて、気にするなと、同時に言った。
「おい、気にするなって。」
「裕也はしばらく社長しないで放浪したいんだろうからいいんだよ。」
「そうそう。俺が手配してやった弁護士によると、今月中には裁判どころか、証拠不十分で無罪放免の予定らっけさ、大丈夫らて。」
「なんだ、それ。」
「え、だって、警察に押収されたはずのデザートイーグルが消えているんでしょう。その前に家宅捜査の原因のライフルも消えているんだっけ。」
「そうられ。俺達が輸入したのは防火コートやら防犯グッズだけだもんね。違法性なんかないどころか、一緒にライフルが入っていたって聞いて俺達こそちびったんられ。」
「良かったよね。スケープゴートがいて。」
「裕也はいい遊び友達られ。」
毒蛇二人は裕也の不幸を肴に俺達を置いてけぼりにして大笑いして喜んでいたが、久美は大きく息をつくと、しみじみと空を仰ぎながらようやく人間らしいことを口にしたのだ。
「本当に今日は楽しいれ。こんな馬鹿話して、純粋に笑えたのは久しぶりられ。」
すると、彼の相棒がやはり同じように空を見上げ、ふふっと笑って同意の声をあげた。
「あいつがさ、ようやく俺達のことを思い出してくれたからだろうね。俺らの顔を見て、必死の形相で逃げ出しただろ。俺達の事をちゃんと思い出したんだって、嬉しかったねぇ。」
由貴の言葉に久美は「そうそう」と嬉しそうに相槌を打つが、お前らどれだけ玄人をからかって遊んでいたんだ。あいつは本気で逃げていたぞ。
ガラララ、と脱衣所からの扉が開いた。
湯船の俺達が自然に振り返ると、女の子の浴衣を着せられた馬鹿がひょこりと顔を出した。
浴衣なのにレース襟や小物などを飾られて、カタログ写真に載っている年配の女性が眉を潜める派手な着付けである。
前髪に水色の蝶々の形をしたクリップが留められている美少女は、両手を腰に当てて胸を張り、両足をも踏ん張った。
俺達を威圧しているのだろうが、俺達には彼女が可愛いとしか言いようがない。
そんななんとも偉そうな格好をした女の子は、俺達に少々甲高い声で宣言したのである。
「お腹が空きました。早く上がってくれないと、ご飯が冷めちゃいます!」
「そんな格好で男湯にくるんじゃないの!」
楊が女のように体を隠して叫び、馬鹿の女装を初めて見た従兄の黒バージョンも頭を抱えて大声を上げた。
「お前は!なんでそんな格好をしてるんだれ!」
それに呼応するように従兄白バージョンも雄たけびを上げる。
「お前は体の変化に悩んでたんじゃなかったのかよ!」
三人に罵倒された馬鹿はもじもじし始めて、「おばあちゃんが。」と答えた。
「おばあちゃんと加奈子伯母さんに、あの、せっかくだからって。」
基本的に自分が着飾って綺麗になるのは大好きなんだよな、お前。




